【6】魔王様、回想なさる。
余、魔王ナナ=フォビア=ニーヒル。
花も恥じらう16歳、ぴちぴちぷるぷるの魔王様じゃ。
余ってば9つの頃に魔王として覚醒したのじゃけど、その発端はもう
前代未聞の空前絶後、スーパーな鮮烈デビューであったのじゃ。
かつて魔王不在であった魔族領に、人間共の一国家が大挙兵して
突然攻め入ってきたのじゃよね、それはもうてんやわんやであった。
まだ幼かった余は戦火の中右往左往する憐れな小娘だったのじゃけど、
人間って冷酷よな……そんないたいけな余の元に現れた人間の兵士が
なんの躊躇いも無く幼い余に凶刃を振るったのじゃ……!!
当時はまだただの年上の幼馴染だったスラルが余を庇おうとしたのじゃが、
一歩が及ばず余は思い切り袈裟に切り裂かれてしまったんじゃ。ずばっと。
……そこからの顛末は、残念ながら余自身は全く覚えておらぬ。
恐怖と焼けるような痛み、そして薄らいでいく意識……
その次にある記憶ではすでに、ほぼ全ての人間の賊共は地に伏しておった。
スラルや他の者から後伝手で聞くには、余は死に瀕した際に内に眠っていた
魔王の素地が萌芽し、覚醒を迎えたとの事じゃ。
そして怒れる獣のように、余は人間どもを蹂躙、破壊したのだとか。
そんなわけで以降、余は来臨せし魔王としてこの地の頂きに座っておる。
魔王のみ閲覧を許される秘伝であるとか史伝であるとかを必死に学び、
いつしか余は勇者という存在が思った以上にやべーやつだと知った。
絶対勝てるわけないじゃん、とビビり散らかした余は、以後怯えながら
人間との関わりを極力断って現在まで慎ましく過ごしておったのだが……
「……出会ってしまったんじゃよねぇ……」
勇者……いや厳密にはまだ勇者ではないが。
余、魔王最大最悪の怨敵であるはずの存在とついに邂逅してしまった。
そして……
「惚れて……しまうとはのぅ」
こんな事になるとは、さしもの超聡明なる智者の余でも想像せんかった。
スラルが言ったように、相手はいずれ余の命を奪いに来るはずの者ぞ?
冷静に考えても考えなくてもおかしい話なのは重々承知しておるが……
「リリィ……」
は、
はぁあぁ……ぁ……
な、名前を呟いただけで酩酊を起してしまいそうじゃ。
やっべこれほんと、まじたまらねぇのじゃ……
「会いたひ……早く朝にならんかのぅ……」
ムギュ、と枕を抱きしめる。
しかし、こうして一人になっていくらか落ち着いた心で
改めて考えてみる。
一目惚れ、とひとくちには言うが、具体的に余はリリィのどこに
惹かれたんじゃろ……
「ふむぅ」
えーと……
まずサラサラの絹糸のような灰色の髪でしょ?あと今はまだ暗く影が浮いてるけ
ど綺麗な宝石みたいなお目目でしょってあの眼差し思い出したらなんかふわふわ
してきちゃったあと小っちゃなお鼻にこれまた小さい儚げな薄い色合の唇でしょ
お手々もちょこんと可愛らしく揃えちゃっていや可愛かったなアレあと今は痩せ
細っているけどなんか分かるっていうか視えちゃったのよね本来あるべきなだら
かでセクシーなS字が絶対足もステキすでに醸し出されてるあと薄っすら灰褐色
の肌も神直々の被造物かってくらい美しすぎる何よりあの声よね聴いた瞬間もう
ズキューンきたわまるで鈴を転がしたようなとかそれどころじゃ文字数
……全部じゃ。
思い返したらただただ全部好きやねんとなるのじゃ。
「ひとめぼれ……おそるべし」
そして余は、あの子が先ほど最後に見せた怯えと諦観を混ぜた
儚い笑顔を思い出す。
あの子の本当の笑顔を見てみたい、と思う。
「はよ寝よ……」
早く朝を迎えよう、と余はベッドにもぐり込む。
しかし胸の中がくすぐったいような切ないようなで、
中々寝付く事はできんかった。
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