「長江デルタ」 多田裕計 1941年上半期 第13回
長江デルタとは、上海、南京、杭州など長江沿岸に位置する都市圏である。
この小説は、植民地化に伴い西洋文化が景観を一掃し、国民党や共産党などの相容れない思想の者たちが抗争を繰り広げ、そこに日本軍が闖入してくる、混沌とした中国を舞台にしている。中国に訪れていた三郎は、中国人の袁天始とともに和平主義(殊に日本との和平)運動を展開していた。運動中、天始は何者かに狙撃された。天始はすぐさま病院に運ばれ、三郎は同行した。病院には天始の姉の孝明も駆け付けた。彼女は弟とは正反対の共産主義者であった。そのため、三郎は彼女を訝ったが、彼女は家族として弟を愛していると言い、諍いが起き、三郎は追い出された。
後日、三郎は再び孝明に会い、そこで彼女の家族への思いを聞かされる。三郎はその思いを天始に伝えることなく、街は日章旗に溢れ、市民は和平演説に喝采を送った。そんな感極まる状況下で、三郎らのもとに電報が届いていた……
この小説は当時の日本にとって都合の良い「外地」ものである。前中盤は特に思想性が強く、それら衝突も垣間見ることができる。私も所詮は戦時中の受賞作だと思って読み続けていたが、最後はその思想もまた目前にある大切なものを霞ませるものだということを説いているのを感じられる。
この小説は軍国主義的プロパガンダとメロドラマを持ち合わせているだけに、審査委員受けはよかったのであろう。
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