「平賀源内」 桜田常久 1940年下半期 第12回
第11回芥川賞は受賞者が現れなかった。というより、受賞が決定していた作者が賞を拒んだのだ。高木卓の「歌と門の盾」は歴史小説であるようだが、私は読めていない。芥川賞の辞退はこの件が唯一ではあるが、直木賞の方でも起きている。第17回直木賞は山本周五郎の「日本婦道記」が受賞を決定していたが、彼もまたそれを辞退した。以後、山本周五郎は度々文学賞の受賞を決定するのだが、それら全てを断っている。
半年開け、第12回は「平賀源内」が受賞した。作者の桜田常久は、高木卓が受賞を辞退したことから、前回の受賞を「薤露の章」で受賞する噂がたったが、半年ずれたようだ。その弁解を受賞者のことばでも綴っている。
小説自体は平賀源内を主人公に据えた、歴史小説のようで全くの創作である。平賀源内はオランダ発の医療機器であるエレキテルを自力で制作したことがよく知られている蘭学者だ。癇癪持ちの平賀源内は弟子を斬り殺してしまい、囚われの身になった。史実では、そのまま彼は獄中死する。しかし、この小説では、彼は別の囚人の遺体と入れ替わり、脱獄したことになっている。彼の脱獄に加担したのは、『解体新書』を和訳したことで有名な杉田玄白だ。
それでも世間では平賀源内は獄中死したと渡っていて、身を隠す必要があった。そこで杉田玄白は遠州相良に隠居することを提案、相良は当時の老中、田沼意次の領地であった。こうして平賀源内は相良に移った。
これまでは医師として生涯を送ってきたが、外部との接触や出版を禁止する約束した源内はいち人間として生きることを決意した。そこへ、相良は飢饉が起き、甚大な被害を及ぼした。源内は約束を破って、人々を救うことにした。
佐藤春夫は観念小説として読んだそうだ。これに対し、桜田常久もそのことを同意している。この小説は単に歴史的人物の描写よりもむしろ、その人物を通じて転向や人情を描こうとしたのであろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます