「鶏騒動」 半田義之 1939年上半期 第9回

 第9回もまたダブル受賞であった。

 「鶏騒動」はロシア人のドナイフが村にやってきたところから始まる。その村で外国人がやってきたのは初めてのことで、村人たちから距離を取られていた。そんなとき、卵を買い求めたことをきっかけに、村随一の厳格な与介の婆さんとの交流を始めた。その婆さんは食へのこだわりが強く、とてもケチだった。

 ある日、婆さんの母親が、卵は食べないということで、飼っていた鶏を譲ってもらうことになった。しかし、鶏を移していた際、鶏たちが逃げ出してしまった。まさに「鶏騒動」だ。婆さんは初めて心を通わせたと思えるドナイフに手伝ってもらうことを思いついて物語は唐突に幕を閉じる。

 外国人が入ってきたということから、一見異邦での暮らしの苦悩を描いた作品のように思えた。しかし、この作品は、中里恒子の「乗合馬車」同様に、珍しそうなものを素材にしてみたばかりで、実際は人嫌いな婆さんが段々と心を開いていく様子を描いているような印象だった。

 ドナイフが日本に訪れたのは、彼の発言や二度と祖国に帰られない事実から、ロシア革命と絡んでいると考えられるが、そのところがあまり深堀りできていないのが、少し惜しいと思った。石川達三の「蒼氓」同様に続編が書かれていてもおかしくないが、何せ同時受賞した長谷健同様に後世に残るような作家ではなかったためか、十分な研究がなされていない。

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