「城外」 小田嶽夫 1936上半期 第3回
芥川賞を受賞したからといって、後に作家として大成するとは限らない。勿論、芥川賞の受賞をきっかけに知名度を上げた作家はいくらでもいるが、受賞して文壇から存在感を薄めた作家も大勢いる。とはいえ、純文学界隈に限った話だが、戦後に大成した作家で芥川賞を受賞しなかった、或いは候補として名前が挙がらなかった作家は殆どいない。村上春樹も芥川賞を逃しているが、候補までは上り詰めている。
「城外」を書いた小田嶽夫や、同時に受賞した「コシャマイン記」の作者・鶴田知也は以後目ぼしい作品を残していない。受賞作の出来栄えから見ても、残る作家と残らない作家の差は歴然だ。優劣を決めるのもいかがなものではあるが、第1回の受賞作である石川達三の「蒼氓」のような筋書きや描写には劣ってしまうようだ。
あらすじは以下の通り。中国に赴き、杭州の領事館を訪れた「私」は、そこで働いていた中国人阿媽(召使いの意)の桂英に好意を寄せた。しかし、その阿媽には月銀という娘もいて、関係を持つことをやめようとしたが、別れようにも別れることができなかった。
ある日、桂英は病を患い、そのことをきっかけにふたりの関係はさらに深まるばかりだった。桂英の病が完治したあともその関係は続くが、間もなく国民革命軍が杭州に入城し、日本人である「私」は国外退避を余儀なくされた。桂英も桂英で、元夫の容態が悪化したために、そちらに向かうことになり、ふたりの関係は自然に解消してしまった。
一度は帰国したものの、再び中国に戻り、「私」は官舎を訪れた。しかし、そこには当然桂英はいなかった。
「城外」は私小説的な短編だ。そして、今の中国(当時は支那と呼ばれた)を舞台にした、「外地」ものである。当時金融恐慌や世界恐慌で不景気に陥った日本国内は、新たな利権を求めて中国への関心が高まった。そんな風潮のなか、中国を舞台とする小説が好まれて書かれ、戦前はこうした作品が幾つも芥川賞を受賞している。
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