第24話 激突! 銀河列強

 アップリフト・オンライン ★★

 ギャラクシア ★★★

 仮想世界アキハバラ ★


「ハドリアヌス、なにをしているんだ?」

「なにって、レビューだよ」

「今までのゲームの評価をしているってことか」


 佐伯はカップの湯気を吸い込むながら、ハドリアヌスに問いかけた。


「そうだ、こうしてゲーム投稿欄にレビューを送っておくことで、ゲームプレイヤーはよりよいゲームを選べるってわけだ」

「ギャラクシー・ゲーム・オールレビューだな?」

「そうそう、よくわかってるじゃん」


 ハドリアヌスは自身のいた世界のギャラクシー・ゲーム・オールレビューの存在を佐伯に話した。


「それでな、佐伯。俺はこのゲームレビュワーとしてはけっこう経歴が長いのさ」

「そうか、そうか」


 ゲーム・クリア条件をハドリアヌスは簡単に計算で算出できる。このことはハドリアヌスにとってレビュワーとしての地位を高めたことは想像に難くない。佐伯はピンときていた。この逸材を、知性化階梯の要にするのだ。


 日本人は姿を消した。かれこれ4万年以上前に、だ。多くの日本人はデータ人類への道を捨てて銀河列強諸国ぎんがれっきょうしょこくの配下になった。しかしレジスタンスとなった日本人も少なからずいた。そのひとりが佐伯優だ。佐伯は動物実験を繰り返し、銀河列強諸国が行っているようなクライアント・レースの育成に着手した。佐伯は動物の眠りに着目して、眠っている動物の神経活動にフルダイブできるインターフェースを作った。動物の見ている夢の中へと自らが潜り、その夢のなかで仮想現実を作り上げることに成功した。仮想現実世界に諸動物の意識をクロッシッングさせ、知性を目覚めさせる知性化階梯ちせいかかいていプロジェクトを推進させたのだ。ただのくたびれたサラリーマンである佐伯、その人が。


「ハドリアヌス、つぎのゲーム・レビューを頼みたいんだが……」

「嫌だよ、もう。ゲームやってもつまんないよ」

「いいから! 頼む。イカ! ゲームイカ! ゲームバカ!」

「ゲームは取り消せよ」

「バカを取り消せよ、だろ?」

「もう、しょうがないなぁ……」

「これだ。西部開拓ゴールドラッシュ!」

「ずいぶんと古いゲームだな」


 確かに西部開拓ゴールドラッシュ自体はとても古いレトロゲームだが、そのアップデート版たるアルファ版は銀河地図を密かに埋め込んでいる。じっさいの採掘現場のシミュレーションゲームにあたる。


「うわ……」


 ハドリアヌスは目を丸くした。ゲームグラフィックの精細さに驚いたわけではない。その開拓状況は込み入った状況を示している。七つのクランが同じ地点を目指して集中している。

 一触即発の現場だった。


「佐伯、意味わかんないよ……」

「そうか! そうか!」


 佐伯はにこやかに笑った。佐伯は問題が難しくなればなるほど笑う男だった。なぜなら、それだけ難しい問題がハドリアヌスの知性化を際限なく進めるからだ。


 佐伯は一息つくことにした。

 彼には時間が無かった。なぜなら、レジスタンスもまた銀河列強諸国によって、リソースを奪われていたからだ。じりじりと進む銀河列強諸国、その勢力は大きく分けて三つの巨大勢力圏に分かれていた。ラヌマーフトー帝国、ムリタニア・アルムヘル王国連邦、ウォーケンボーケンおよび小諸国連盟の三つだ。先に述べたドミニシュ帝国やゼシーギ帝国はウォーケンボーケンおよび小諸国連盟の一部である。ラヌマーフトー帝国の勢力圏とムリタニア・アルムヘル王国連邦のあいだの緊張状態は続き、レジスタンス側も呑気にウォーケンボーケンおよび小諸国連盟の動きを見計らっている場合ではない。大きく動く戦況の縮図たる、ゲームの盤上をうまく利用して、己の立ち位置を見極めなければならない。そんなとき、佐伯のもとに一件の信じられない情報が舞い込んだ。


 「――――で、なんで宇宙戦艦に乗ってるんだ?」


 ハドリアヌスは不服そうに言った。佐伯は腕を組んでいる。何かを待っているかのような態度だ。


「すまない……ここまで事態が急速に進むとは思っていなかったんだ」


 ムリタニア・アルムヘル王国連邦のひとつがレジスタンス自治領へと飛び込んできたのだ。こんなことは本来あってはならないが、ムリタニア・アルムヘル王国連邦のひとつ、メーデッシーがレジスタンスのいる宙域へと進軍した。


「俺にだって、予測くらいはあったんだ。でも、ここまでラジカルに物事が進むとは思ってなかった」

「俺、ゲームのレビュワーでしかないの! なんで実際の宇宙艦隊の総指揮なんてやらないといけないのさ……!」

「こればっかりは済まない。ハドリアヌスにはこれまでの経験を生かして、少しずつ現実に近い戦場を与えて、レベルアップしてもらう計画だった。このとおりだ、頼む。いつものハドリアヌスならやれるはずだ」

「何なの、その自信は……」


 ハドリアヌスにも事態がようやく飲み込めてきた。ただ問題の宙域はなにもない平野だった。平野ではそれぞれの戦闘力が物を言う。この戦場では傾向と対策が立てられない。


「なぁ、佐伯……相手はどんなやつなんだ?」

「メーデッシーの艦隊指揮官か……驚くぞ」


 そう言って佐伯はモニタにメーデッシー艦隊指揮官ディハルドを映した。その姿はハドリアヌスにとっていつか見た戦友、たけさんその人だった。


「こ、これは……」

「アップリフト・オンラインのキャラクター設定表は基本的に現実の人物を元にしていた。だから他人とは思えないだろ?」

「たけさんの人ってこと……?」

「そうだ。だが、中身は全くの別人だよ、安心してくれ」

「性格や嗜好も違うんだよな」


 それはそれで複雑だが。


「メーデッシーの艦隊は、もうすでに出発しているらしいとのこと。俺たちもワープドライブで急ぐぞ」

「なぁ、佐伯……」

「なんだ?」

「やれるのか? 俺に」

「やれるさ、信じているぞ」



 ハドリアヌスの艦隊はワープをした――――。



 伸び縮む空間を横目にふたたび戦友の姿をした人物と戦う自信がなかった。たけさんは頼れる存在だった。前衛の武人だった。彼とは別れてしまったが、ふたたびこうして戦場で会うとは……。

 ワープドライブの出口だ。

 数分後には戦争が始まる。ハドリアヌスは意識を前に向けた。ハドリアヌス艦隊は数三〇〇〇、ディハルド艦隊は数三〇〇〇。数は五分五分であるが、五分では勝利を引き寄せることはできない。

 開戦とともに戦況AIのナビゲートを元に戦局を組み立てる。どうやらディハルド艦隊は遠距離からの砲撃でこちらを撃沈させようとしている。いっさい突撃もしてこないようだ。戦況AIはディハルドのデータを簡単に例示した。このまま砲撃によってハドリアヌス艦隊を地道に減らし、相手の出方を見ているようだ。

 ハドリアヌスは考える人のポーズのままだ。

 一進一退の戦場だ。レーザーによる戦いのために弾薬がすぐに尽きることはない。ところが突然、ハドリアヌスのいるブリッジが揺れた。


「状況を報告しろ」

「レーザーがシールド貫通した模様」

「佐伯、どういうことだ」

「おそらくレジスタンス側より有利な兵器があちらにあるってことだな」

「シールドを立て直して……次弾来るぞ!」


 またしてもブリッジが揺れた。


「うわぁぁ!」


 このままディハルド艦隊にやられてしまうのか……ひとつの考えがハドリアヌスに過った。


「光学兵器を一点に集めろ、向こうの兵器の軌道をずらす!」


 レーザー砲台の向きが変わった。そうして、レーザーが相手の砲撃を弾いた。レーザーの嘆きが聞こえる。

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