第16話 真実の世界ってなに?
いつの間にか冒険者たちによって取り囲まれていたイカたち。石が飛んでくる。そのうちひとつがイカの足元に落ちた。冒険者のひとりが叫んだ。
「イカのクランが滅べばゲームクリアの条件に繋がるはずだ!」
別の冒険者が言った。
「そいつを殺してしまおう!」
今までぶつけられたことのないような感情に戸惑うイカだった。
「BLT、俺はどうすれば……?」
「お前は何も悪くない。イカ、お前を守るよ!」
「でも、どうするんだ? このままじゃ、俺たちも冒険者達の餌食だ」
とたけさんが言う。ほんとうに困った。アルウェンが言った。
「転移魔法は?」
「それだ!」
▶転移しますか?
仲間たちは広場から脱出した。
ふたたび目を覚ますと三人のおじさんが仲間たちを見下ろしていた。おじさんたちが仲間たちを自らの家へと案内した。温かいお茶を出してもらった。体がじんわりと熱を帯びていき、一息つくと三人のおじさんたちはにこにこしながら話し出した。
「それはそれは、たいへんでしたね」
一人目のおじさんはメルキオール。
二人目のおじさんはバルタザール。
三人目のおじさんはカスパール。
三人は同じタコのクランだということが分かった。メルキオールは頭の回転が速かった。バルタザールは賢かった。カスパールは素早かった。
「ゲームマスターの宣言の狙いは何でしょうね?」とメルキオール。
「戦争を起こそうとしているのではないでしょうか」とバルタザール。
「しかし、いちばんゲームクリアに近いのは……」とカスパール。
三人のおじさんは一斉に口を開いた。
「ドゥドゥゲラの塔をクリアすること」
イカが三人のおじさんに言った。
「やはり、それが一番効率がいいはずだ」
「ええ、私たちは協調して戦うことができるはずです。戦争なんてしても意味はない。争っていては時間の無駄になる」
三人のおじさんは仲間たちに様々な知恵と魔法を授けた。武器に魔法をかけた。仲間たちは一段とパワーアップした。これでドゥドゥゲラの塔をクリアすることに一歩近づいたはずだ。
転移魔法でドゥドゥゲラの塔に戻る。世界がどうなっていようと知らない。ほかのクラン同士が争っていようと、ゲームマスターが何を言おうと知らない。
俺たちは未来を勝ち取ってみせる――――
――――第15層。
▼クエストをお知らせします。この村を焼いてください。
仲間たちの目の前には村がある。平和なエルフの村である。仲間たちは目を合わせた。誰もが戸惑いの目をしている。むこうにエルフの子どもたちの姿が見えた。BLTがクナイを構えると、視線から殺気を感じる。イカはBLTを止めた。
「BLT、止めろ。村を焼くなんて……」
まるでいちばん最初の村と同じだ。
「これがクエストなんだ。止めるな……」
イカが触手でBLTを引きとめる。
「こんなこと、できない……」
仲間たちはイカを除いて歩き出す。
「おい! タラバガニ……たけさん……。アルウェン……!」
そのときだった。
▼タコのクランが滅亡しました。
仲間たちはぞくりとした。三人のおじさんたちは死んだのか。仲間たちは後退できなくなった。タコのクランは仲間たちを
さきへと進むBLTが小さく呟いた。
「……らけたぜ」
「なに?」
「白けたぜ……。ドゥドゥゲラの塔クリアする? こんなん無理ゲーだろ? 後ろ盾もない、パーティは雑魚、塔のさきはまだまだ。無理だ。俺には無理だよ……」
「へ?」
「なぁ、イカ。ゲームなんだ、これは。だから死んでくれよ……」
そのつめたい声は冬の雨より酷かった。BLTがクナイをイカに振り上げる。イカは咄嗟に避ける。彼はクナイを振るのを止めない。
「なぁ、何で止めてくれないんだよ……タラバガニっ……! たけさん……。アルウェン……!」
仲間たちは俯いている。イカは傷を負った。ダメージがつぎつぎとイカに蓄積していく。
「やめろ……! やめてくれ……! やめてくれよ……BLT。俺たちは……友達だろう……?」
「ゲームを終わらすためなんだ。イカ……」
イカの目の前は真っ白になった。
ずっと夢を見ていた気がする。俺はただ誰かと歩いていきたいだけだった。シビュラを取り戻すためだったのかな……。
そんなこと、どうだってよかったのかもしれない――――
俺はシビュラの面影を思い出していた。
白いスケッチブックみたいな風景が目の前にあって、一羽の
彼女なのか。人影が見えた。目の前によく知っているような懐かしいひとが立っている。
「シビュラ……?」
「いいえ。私はお前の知るシビュラではない。そなたのこころに強く反映されるように私が選んだ仮の姿だ」
「あなたは誰ですか?」
私は始祖。はじまりのひと。そなたに世界の真の世界をみせよう――――
真の世界……?
イカは目が覚めると水槽のなかに浮かんでいた。水槽の下には車輪があって移動できるようだ。
彼の水槽に繋がれた電線を抜きとる。イカは呟いた。
「あー、もうこれ。無理ゲーじゃん……」
筆記装置と水槽を電線でつなぎ、イカはレビューを書き始める。掲載予定誌はギャラクシー・ゲームズ・オール・レビューだ。
まったく日本人の作るゲームはつまらない。
面倒なレベル上げと、デスゲーム、それに60層のダンジョンなんて、いまどき流行らないっつーの。
まじで時間損した。みんなはどうよ?
2.銀河の果ての名無しさん 2600/8/1(金)19:00:02 ID:EzQrhoapjlye
海外ゲーム池
3.銀河の果ての名無しさん 2600/8/1(金)19:02:30 ID:2Rcaoapajpbx
>>2
禿同
やっぱり今どきVRMMO界で国産をやるっていうのは時代遅れか……。イカはレビューをアップロードした。
同一ゲームをプレイしたほかのレビュアーのレビューも読む。アップリフト・オンラインの評価は低い。イカほど時間を浪費したと書いているものはいないようである。
部屋の扉がノックされると扉のむこうから、緑色の巨大な大男が現れた。となりの部屋のググエラスという住人だ。
「イカさん、もうすぐギャラクシアの配信中継が始まりますからいっしょに見ませんか?」
「おれはパスでー。そういう気分じゃないわ」
「いますっごくおもしろくて。宇宙をオオカミのクランとイルカのクラン、オランウータンのクラン、コウモリのクラン、タコのクラン、オウムのクランが争っているんですよー」
イカの脳裏に電撃が走る。アップリフト・オンラインと運営がいっしょか……?
「でも、いいですわー。きょうはレビューが終わったから一休みするです……」
ほんとうに、この宇宙は平和だ。もういちどアップリフト・オンラインを開いてみる。さいごの記憶がおぼろげで思い出せない。たしか、始祖……って。何だっけ。イカはアップリフト・オンラインを再開する。
――もうゲームクリアとか恋とか友達とかいらねぇわ。ひとりでゆっくりしたい。どこから始めようか。俺はひとりがいいんだ。海のうえで漂っていたい。ゴブリンの餌にならなければそれでいいや。でもシビュラみたいな悲しい女の子には会いたくない。だから俺にはもうアップリフト・オンラインとは無関係な広い海が欲しい。それで孤独にならない程度の会話相手がいれば充分だって。
イカはそのままVRヘッドセットアダプタと水槽をつないだ。夢をみたいけど、俺にはそんな夢は手に入らなくていい。つぎ目覚めたときには最高のレビューを書かせてくれ。
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