第8話 装備スロットが10ってどういうことだよ!
じっとりと水滴がグラスに
ユーザークエスト、引っ越しの紅を終え、転がり込んだこの宿。宿代は手ごろで、あと5日は過ごせるはずだった。
テーブルに散らばるのは高級ビーフジャーキー。これがいけなかった。ウィスキーとビーフジャーキーの組み合わせだ。酒が進む。ぐいぐいと飲んで食べてを繰り返し、いつの間にか金が底をついていた。イカは青ざめた。
今夜の宿代だって、ない。とりあえずBLTに相談しよう。
BLTはしげしげとイカを見た。
「お前、
BLTのなかでイカは優等生だったらしい。そのイメージを叩き壊す事件だ。
「い、いやぁ……」
イカは
「BLT、お願いッ。楽に稼げるところ知らない? 何でもいいから……頼む! きょうの宿代も怪しいんだ」
「分かった、分かった」
BLTはイカを街に連れ出した。ふたりは街の中心にある闘技場に来た。人の
受付の目つきの鋭い男にBLTは声を掛けた。
「エントリー、頼みます」
「お前がか?」
「違います、コイツです」
男はイカを見た。観察してから言う。
「低級悪魔は駄目だ。どんな
BLTはイカにアイコンタクトした。
「え、何?」
イカは戸惑う。BLTは慌てている。
「ジョブを見せるんだよっ」
「え、ジョブを、どうやって?」
「何も知らないんだな、右側をタップしろ。トントンだ」
「トントン……」
紫色のウィンドウが出た。イカは目を
「うぉっ……!」
「何にでも驚くな! こんなんフツーだろ!」
「BLT、うん」
イカ 初級冒険者 Lv.1
受付の男がウィンドウを覗き込んだ。
「冒険者か。いいだろう」
「エントリーできるんですね」
イカは飛び上がった。BLTとイカは早速、武器を探しに武器屋へ向かう。武器屋のなかには東洋、西洋を問わず様々な武器が並んでいる。イカは目を輝かせた。闘技場での相棒となる武器がこの中にあるのだ。
「そうだな、とりあえずイカよ。装備スロットを見せてくれよ。どんな武器をどれだけ装備できるか知りたい」
「装備スロット? どうやって?」
「何回も説明させるな、と言いたいところだが、しょうがない。トントンだ」
「……トントン」
ウィンドウが出た。
イカ 初級冒険者 Lv.1
「さらにタップ」
「トントン」
ステータス
HP MP スキル 装備
「装備をタップ」
「トントン」
装備
1〈なし〉
「うん」とBLT。
2〈なし〉
「ああ、そっか。まぁ、しょうがないよな」
3〈なし〉
「――だよなぁ」
4〈なし〉
「え?」
5〈なし〉
「は……?」
6〈なし〉
「エェ!」
7〈なし〉
「ちょ、ちょっ、ま……」
8〈なし〉
「ちょっと、これ、えぇ?」
9〈なし〉
「えぇぇぇ!」
10〈なし〉
「こんなの、チートや!」
「何を叫んでるんだ? BLT」
「いや……いやだって……初級冒険者だろう、お前は?」
ワタワタするBLTは掌を開いたり閉じたりしている。
「そうだけど?」
平然と答えるイカである。
「待て、待ってくれぇ」
1〈なし〉
「うんうん」とBLT。
2〈なし〉
「ああ、そっか。まぁ、しょうがないよな」
3〈なし〉
「――だよなぁ」
4〈なし〉
「え?」
5〈なし〉
「は……?」
6〈なし〉
「エェェ!」
7〈なし〉
「ちょ、ちょっ、まて……」
8〈なし〉
「ちょっと、これ、えぇ? えぇ?」
9〈なし〉
「えぇぇぇ!」
10〈なし〉
「やっぱりチートや!!」
「待ってるよー。だからぁ?」
「いや、こんな装備スロット、見たことも聞いたこともないぞ」
「――そうなのか?」
BLTは首をぶんぶんと縦に振る。目を丸くして訴えかけてくる。
「これだけの装備スロットがあるんだ、何だって装備できるじゃないか!」
「わ、わかった」
イカは考えた挙句、BLTに紙を渡した。そこには、「ぼくのかんがえたさいきょうそうび」とあった。
1〈ガトリングガン〉
「おおぉ」
2〈弾倉〉
「うん」
3〈弾倉〉
「おぉ」
4〈弾倉〉
「うんうん」
5〈弾倉〉
「ちょ、ちょっと」
6〈弾倉〉
「イヤイヤイヤイヤ!」
7〈弾倉〉
「だから?」
8〈弾倉〉
「は? いくら何でも弾倉、多すぎでしょ」
9〈弾倉〉
「あぁ……」
10〈弾倉〉
「こいつ、バカだわ」
イカは冷たい目つきをする。
「バカとは何よ、バカとは!」
「だってバカだろ。こういうのは大体、セオリーが決まっとるんじゃあ!」
二人は喧嘩した。周りを気にしてくれ。騒ぎになりそうなくらいである。BLTは息を吐くと、イカに説明した。
「レベルが上がるまではバランス重視に装備をして、レベルが上がって装備スコアも上昇したら一点突破の強い装備にすんの、分かったか?」
イカは棚に立てかけてある、モーニングスターを手にした。装備してみる。ドヤッ。
ウィンドウが赤く点灯した。
「BLT、何これ? どうなってんの」
「ああ、これ。装備スコアが足りないんだわ……装備スコアを確認して」
イカは装備スコアを見た。
「なぁ……BLT。俺の装備スコア、3なんだけど……」
二人は武器屋を隈なく探した。いまどき、装備スコア3の武器を探す方が難しい。あれこれ装備してみて、揃ったのがこれである。
装備
1〈木刀〉
2〈木の盾〉
3〈なし〉
4〈なし〉
5〈なし〉
6〈なし〉
7〈なし〉
8〈なし〉
9〈なし〉
10〈なし〉
BLTは笑いをこらえた。イカは遠くを見た。
「俺、この闘技場で闘って勝ったらエルフのお嫁さんを見つけるんだ……」
「いいな、その夢。応援してるぜ」
男たちは闘技場へ向かった。
闘技場は眩しさと歓声に沸いていた。イカは心なしか誇り高い気分になる。自分が歴戦の勇者になったような気持ち。高まる気持ち。こんなにも闘うことは気持ちを
一回戦の相手と互いに向かい合う。
実況が聞こえてくる。
「一回戦ッ! 初級冒険者イカ、相対するのは落ち武者ヘミングウェイ!」
落ち武者は刀を引き
イカは盾で防御。落ち武者は二撃目を振るう。
「イカ選手、防戦一方だ!」
叩きつけるように三撃目の攻撃だ。イカは木刀で受けて、力で押し返す。
「ぐぐぐぐぐぬっ」
「やるな、お主」
落ち武者は髪を乱しながら、四撃目。
「ストライク・ザ・本能寺!」
イカは渾身の力で防御する。パカーン。
「は?」
盾が真っ二つに割れた。強い歓声が沸き立つ。イカ、危うし。木刀一本で落ち武者を負かす? 一回戦で敗退? 宿から追い出される……?
落ち武者は一旦引いた。呼吸を整えているのか? いや、待て。イカは右側をタップした。
相手の公開ステータスを見た。
はんどうでうごけない
反動? つまり力の強い技を使ってHPやらMPやらが
なら、こいつを仕留められるのは、持って180秒。秘策はあるか? いや、
イカは木刀を落ち武者に向けて突進する。ゴムのような脚である。そして飛び上がり落ち武者の額に木刀を振り上げた。落ち武者は構えた。するりと落ち武者の手から刀が落ちた。
「なッ……?」
フェイント成功。イカの本命は触腕で刀を取り上げることである。
「こやつ、せせこましいっ……」
イカは木刀や奪った刀、触腕で落ち武者を
「ぐ、ぐぅ……」
落ち武者は倒れた。一回戦勝利か? 審判のフラッグが上がらない。どうして……? 落ち武者は不敵な笑みを浮かべた。
「スキル、三日天下ぁ」
イカは落ち武者のHPを確認する。残りはほぼ1だというのに、この男のステータスが無敵になっている。よろよろと男は動き出した。
「サッダルマ・プンダリーカ・スートラ!」
落ち武者は恐怖と怒りとが
イカは落ち武者の頭に絡みついた。首を触手で締め上げる。
ここからは我慢比べだ――。
「一撃、あと、一撃なんだぁー!」
落ち武者の首が
――ゴギッ!
落ち武者は、戦闘不能になった。
「勝者、イカ!」
勝利のフラッグが上がった。手元には壊れた盾と木刀、ほんとうにどうすんだ? これ。
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