第9話 レベルアップと勝利のご馳走

 息を整えてから、イカは闘技場から退場した。BLTを見つけると、腕を振った。BLTも気づいた。


「やったな!」

「……でも、盾が」

「それは、大丈夫だ」


 BLTに連れられて入口へ行く。するとあの目つきの鋭い男が金の入った袋をくれた。


「え、こんなに……?」

 

 BLTが鼻をかきながら言った。


「勝ったら、賞金が貰えるんだ。これで次の試合の準備を進めること」

「わかった」


 視界の隅に「!」がついている。イカは何気なくタップした。


「BLT、これ!」

「何?」



 イカ 初級冒険者 Lv.1 → Lv.3



「ああ、レベルアップしたんだ。良かったじゃん」

「そ、そうなのか」

「これで装備スコアが上がるから、装備も選べるようになるさ」


 二人は武器屋へと向かう。大小さまざまな武器を見た。

 目ぼしい武器をイカは購入した。



 装備

 1〈片手剣〉

 2〈片手剣〉

 3〈木の盾〉

 4〈なし〉

 5〈なし〉

 6〈なし〉

 7〈なし〉

 8〈なし〉

 9〈なし〉

 10〈なし〉



 BLTは得意気になった。これで手数も上がるだろう。二刀流である。

 二人は宿に帰って、夜に酒場ポルックスで落ち合った。BLTが言うには今回は合コンではなく、祝勝会であるらしい。祝ってもらえるのは単純に嬉しい。イカは期待に胸をふくらませた。酒場に入ると、すでにBLTがビールを注文して待っていた。


「イカー。待ってたぞ」

「遅くなった」


 二人はビールの入ったジョッキで乾杯した。黄金の美酒だ。ぐいぐいと飲めてしまう。給仕きゅうじが皿に盛られたソーセージを運んできた。ナイフを通すとパリッと音がした。溢れ出る肉汁。食欲をそそられる。マスタードを塗って、口に運ぶ。


「うんめぇー!」


 口いっぱいに肉汁が広がる。ピリッとしたマスタードの辛みがいいアクセントだ。続いてホワイトソーセージ、そしてペッパーソーセージ。胡椒こしょうでヒリヒリした舌をますように、キンキンに冷えたビールを流し込む。


 給仕が皮付きで焼いたジャガイモを運んできた。ほくほくのジャガイモにバターを塗って食べる。熱々のジャガイモと濃厚なバターの風味は天にも昇る心地だ。二人は勝利の美酒に酔った。


「明日も、頑張れよ!」

「ああ、やってやるさ」


 皿の上の料理は綺麗に食べた。白い食器に明かりの光が反射して輝いている。

 

 闘技場は日光に照らされて輝いている。砂埃すなぼこりが舞う。イカは闘技場に立っていた。目の前には仮面をつけた男が立っている。今日もひと暴れしてやろうじゃない!

 それからというもの、イカは毎日のように闘技場に通った。

 


 イカ 初級冒険者 Lv.3 → Lv.6



「筋力は全てを解決する!」


 ムキムキになったイカである。その姿は褐色のボディビルダーのようである。

 そろそろ、チャンピオンとの闘いが気になってきた。イカとBLTはその日の闘いを一旦止めて、観戦することにした。前もって、チャンピオンの情報は集めてきていた。

 狂戦士、タラバガニ。圧倒的な力で相手を組み伏せるパワータイプであるが、動きはスピードがあり、闘うには手子摺てこずりそうな相手だ。素顔は謎に包まれている。

 重装備と剣。剣は極々ごくごく普通である。観察すればするほど、そこまでの強さなのか? と疑いたくなる。

 闘いが始まる。先手を取ったのはタラバガニだ。

 剣が凄まじい音を立てる。相手の鎧に剣が当たっているのだ。連続攻撃だ。剣に込めた力が強すぎる。途中で刃先はさきが折れた。それでもタラバガニは剣を叩くように振る。相手はあっという間に戦闘不能になった。恐ろしい相手だ。

 遠目で見ても、相手のヤバさが伝わってくる。向かい合ったとき、冷静に立ち向かえるのか?

 イカとBLTは作戦を立てようと、武器屋にやってきた。イカのレベルではまだタラバガニを倒せないだろう。

 BLTは腕を組んでいる。そして言葉を発した。


「まずは装備スロット十個の開放が先決だな。それまで闘い続けるしかない」

「わかった」


 イカは闘い続けた。闘いが終わるとBLTと酒盛りした。闘技場の日々は悪くはなかった。



 彼が酒場ポルックスに向かう途中に、人だかりが出来ていた。イカはちらと見ると、痩せた少年が一方的に男たちに殴られている。少年の顔にあざができている。

 イカが止めに入った。イカが触腕で男たちを薙ぎ払うと、男たちは逃げて行った。


「大丈夫か」

「はい。平気です」


 イカは屋台で果物を買い、少年に渡した。少年は美味しそうに果物を食べた。


「なんで、やり返さないんだ?」

「今はできないから」


 少年の目に固い意思が宿っていた。イカはそれ以上、深入りしなかった。少年の名前も聞かなかった。やたらと背が高い割に痩せた体。そして幼い顔。金色の髪。イカはこの少年は大人になったら立派な青年になるだろうと思った。


 酒場ポルックスでBLTと飲んだ帰り道で、イカは星空を眺める。もうすぐレベルは20だ。前よりは闘えるはずだ。宿に置いてある武器を磨く。ピカピカになった武器を見て、満足すると、東の空から燃えるような朝日が昇ってきた。



 装備

 1〈片手剣〉

 2〈片手剣〉

 3〈ライトサーベル〉

 4〈ライトサーベル〉

 5〈銀の盾〉

 6〈銀の盾〉

 7〈銀の盾〉

 8〈木の盾〉

 9〈木の盾〉

 10〈木の盾〉



 イカは闘技場におもむく。気持ちがいいほど、晴れた日だった。

 今日の相手はチャンピオンの次に強い巨人キクロプスだ。


「初級冒険者イカ、対するは巨人キクロプス。試合開始!」


 実況も心なしか巨人に怯えているように聞こえる。キクロプスは腕を振り上げた。分かりやすい攻撃だ。避ければいいはずである。横に避けたイカである。しかし、衝撃波が来る。イカは吹き飛ばされた。

 片手剣を地面に突き刺し、これ以上、飛ばされないようにするのに必死だった。

 キクロプスの動きは緩慢かんまんである。近づくことは難しくない。だが、どうやって体に取りつく? イカは気がついた。

 こんなには、いらねー。

 イカは武器を外した。


「おや? イカ選手。どうした? 武器を外してしまったぞぉ!」


 五月蠅うるさい実況め。これでいいのである。


 イカは二本のライトサーベルを持った。銀の盾は捨てた。呼吸を整える。


「いち、に、さんっ!」


 キクロプスが腕を振り上げる。キクロプスの拳が地面に衝撃を与える。イカはあえて避けずに腕に絡みつく。


「これでぇー!」


 イカはキクロプスの腕から頭に取りつく。そして、ライトサーベルでキクロプスの頭にダメージを与える。

 みるみるうちに、キクロプスの体力が減っていく。目玉をライトサーベルで突く。


「GWAAAAAAAAA!」


 キクロプスは地響きを立てて倒れた。


「勝者、イカ!」


 歓声が沸き起こる。イカのレベルは上昇した。レベルは20。これでタラバガニとも闘えるはずだ。

 イカは退場した。賞金を受け取り、武器屋で銀の盾を数個ほど売りに出した。使える武器を手元に残す。

 

 というより、触腕と触手スキルで十分闘える。


 手元に残ったのはライトサーベル二本だけだ。片手剣もそれほど使える武器ではなかった。木の盾はそうだな、落しぶたにでも使おうか。イカはあれこれ考える。

 帰りの道で、路地の向こうに男たちとあの少年が立っていた。また一方的に殴られている。

 イカは助けに行くことにした。


「落し蓋キィックー! 落し蓋パァンチ!」


 男たちをとりあえず蹴ってから殴ると、男たちは逃げて行った。何でこの少年、いつも殴られているんだ? 


「きみは、いつもやられているな?」

「ああ、仕方ないんです。殴られ屋って分かります?」


 ――殴られ屋。殴らせて、その報酬にお金を貰っているのか。何でそんなことしているんだ。イカは少年に尋ねた。弱々しい声で少年は答える。


「これです」


 少年は首のアクセサリーを見せる。


「何だ?」

「ここに負の力を溜めるんです……」

「溜めて、どうなる?」

「明日、闘技場に来てくれれば分かります」


 ――闘技場? 何でこの少年と闘技場が関係あるんだ? 胸騒ぎがする。だが、今のイカにはそれが何かは分からないでいた。

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