Page.19 『先輩なら威厳を見せてくださいよ』

「うぅ……なんで生徒会の仕事ってこんなに多いんだよぉ……」


「文句言わないで手を動かして? まだ始めてから1時間も経ってないんだからさ」


「そうだけどさぁ、流石に多すぎやしない? これ絶対私たちだけで終わる量じゃないでしょ」


拓斗たくとは部活以外だと集中力続かないんだから家にいても勉強しないと思って手伝わせてるの。というか拓斗たくとも生徒会の一員として自覚を持ってほしいものだよ?」


「ハイスペック生徒会長が何をおっしゃいますの? 私がいないくとも何でもこなせるくせに」


「こういうのは協力するからいいんだよ」


如月拓斗きさらぎたくと、学園三大美女イケメン女子担当である彼女の幼馴染の佐倉緋毬さくらひまり

彼女もまた拓斗と同じく学園三大美女の一人でハイスペック女子担当として有名である。ちなみにもう一人の美女というのが神咲で、担当は氷姫とのこと。


「でも夏休みの時間使ってやるとかありえないんですけどぉ?」


「仕方のないこと言っても何にもならないからね? 夏休み明けにすぐ文化祭の準備期間に入るんだから、それまでに資料を作らなくちゃいけないんだから」


「む……この仕事廃人め……」


「演劇廃人には言われたくないよ」


「もう無理、疲れた、やりたくない、帰りたい」


「帰ったらクレープ奢らないよ?」


「なっ!?」


拓斗の大好物はクレープで、演劇部の練習で疲れたあとは学校の近くにあるクレープ屋で買い食いをするのが習慣化している。


「意地悪は良くないと思いまーす」


「働かざる者食うべからずってことわざをご存知?」


「私の脳にはことわざは存在しないのだよ緋鞠さんや」


「私の脳には存在するから拓斗が仕事しないなら私だけ食べます」


「この詐欺師! クレープ買ってくれるっていうから手伝いに来たのに!」


「仕事するならって言いました」


「むぅ……」


「そんな顔しても何も出ないから」


痴話喧嘩しながらも手を休めることのない佐倉は本物のハイスペック女子と言えるだろう。


🧊🧊


ある日、俺は学校に呼び出されていた。呼び出し人なんて自由人の従姉さんだし――


「失礼します……って喧嘩中ですか?」


「いや、ちょっとした言い争いだよ」


それを喧嘩というのでは?と思ったけど、痴話喧嘩だろう。

クレープ案件で揉めるとはちゃんとJK何だなぁ……


「それで、君は生徒会室に何用で?」


「えっと、僕の従姉さん……じゃなくて、理事長先生から手伝ってほしいと言われて応援に来ました」


「あ、薫お姉ちゃんに頼まれたのね」


「薫ちゃん? 佐倉先輩ってもしかして……」


「そのもしかしてだよ。私はこの学園の理事長、佐倉薫の妹です。あんまり知られていないけどね」


だからか、どことなく雰囲気が似ていると感じたのは……と言っても、雰囲気だけで先輩のほうがちゃんとお姉さん系だと思う。


「でも助かったよ。ちょうど拓斗がイヤイヤ期に入ったから猫の手も借りたい状態だったんだ」


「僕も家にいてもやることなかったので、いくらでも手は貸しますよ」


「後輩くん私のこと忘れないかい?」


「もちろん忘れいませんよ。イケメン先輩」


「やっぱこの後輩は私に対して冷たい」


「珍しいわね。拓斗に塩対応する生徒なんて」


「ホントだよ生意気だ」


「如月先輩が頑張ってくれたら理事長先生からクレープのごちそうあったのに、頑張れていないようなら如月先輩の分を加算して僕と佐倉先輩で山分けしましょか?」


「私は構わないよ? というかさっき拓斗に同じこと言ったばかりだから」


「なんで私が後輩くんにクレープを人質に取られなければならんのだ?」


それはあなたが仕事を放棄してクレープを食べようとしているからです。ただ飯を食わせると思うなよ?


佐倉先輩は構内でかなり有名、というかに人望も厚い人だからまずサボることはしないだろう。

現に如月先輩のデスク周りと佐倉先輩のデスク周りにおいてある資料の山に差がありすぎている気がする。


「早速で申し訳ないんだけど、そこのおサボりさんが投げ出そうとしている資料を束ねるの手伝ってくれないかな?」


「わかりました。任せてください」


「誰がおサボりじゃ」


「「あんたや……」」


「うぐっ……ついに後輩くんがタメになった……」


この人に敬語を使うきになれなくなってしまったの間違いだ。

もう少し先輩としての威厳を持ってほしいものだけど……部活だけなのだろうかと思ってしまうほどに先輩としての威厳がない。


「ほら、拓斗。ごちゃごちゃ言ってないで手伝って? 終わらないよ?」


「仕方ない……やるか〜」


最初からやる気出していればいいのでは?


そんなことを思いつつも俺と佐倉先輩、如月先輩は黙々と仕事を終わらせ、日が沈みかけた頃にすべての仕事が終わった。

というか佐倉先輩がほとんど終わらせていた。


「お疲れ様白雲くん」


「先輩もお疲れ様です。と言っても先輩の方が仕事量多くなかったですか?」


「まぁ生徒会長だから仕方ないよね。でも、協力が何よりも大事だからさ、私一人なら一日でここまで終わらなかったと思う」


「あははっこりゃあ人望が厚いわけだ。……それとは真反対に一人美味しそうにクレープを頬張る頼りない先輩が一人……」


「拓斗はいつもあんな感じだから気にしなくていいよ? それにイケメン女子でスペックも高いって言われているけど、実際のところはただの甘いものが大好きな女の子なんだよね」


「でも部活やっているときの先輩はとても頼りになるって真言ってましたよ? ほら、如月先輩、なにげに演劇部のリーダーであって、若き演技派女子高生って講演会を見てた人が言ってましたし」


演劇部は数ヶ月に一回、他校の演劇部と合同での講演会を開いている。

各学校の演劇部の教師や、生徒たちがそれぞれの演劇を見て講評会を行いのだが、我が征華学園の若きエース如月先輩は毎回全学校から最高評価を有している。


それもそのはず、先輩は言い換えればカメレオンに近い。


どんな役にもなりきることができ、それがたとえ男の役でも圧倒的なルックスを武器にすればイケメン男子の出来上がり。


それにルックスだけでなくその演技力も俳優レベルに上手い。


泣き顔は本当に泣いているように見せるし、それに伴って声の震えとトーン、さらには泣きながら喋ったときの息継ぎまでもが完璧なのだ。


悪役のムーブですら完璧にこなせてしまい、アドリブも簡単に入れられてしまうほどに超演技派女子高生である


「拓斗はさ、私と同じで顔がよくて、頭もいい。運動もできるし、演技も誰よりも上手にできるんだ。でも、そのせいで変に期待を押し付けられて一人で頑張り続けてるんだよ……自分の練習は裏でやればいいって言って部員全員と話しながらその人にあった演技の仕方を教えてあげるくらいに真面目で、優しいのに……」


視線の先には足をパタパタさせながらベンチでクレープ(2個目)を食べている如月先輩がいた。


「だからたまにはご褒美があってもいいんじゃないかなって思うんだ。頑張り続ける彼女を一番そばにいる私が労ってあげたいっていうただの過保護な幼馴染なのだよ私はね」


「確かに如月先輩はすごいと思います。僕が初めて演劇部のみんなと舞台に立った時、如月先輩は最後まで僕に合わせてくれてました。僕がアドリブを入れたことを瞬時に察してそれに合わせた演技をしてて、その時に僕はこの人には勝てそうにないって思ったんです」


あの舞台の上で確かに僕と神咲さんは主役だったのだろうけど、やっぱりわざわざ主役を作り上げたのは如月先輩だと僕は思う。


実際にあの立ち回り方は如月先輩にしかできないものだった。


「あはは、君面白いね? これはお姉ちゃんが気に入るわけだ」


「僕としては困ってますけどね」


「私の緋鞠を口説かないでもらえるかな後輩くん」


「出たクレープ女王」


「うっさい無愛想後輩」


「二人ってほんとに仲いいね」


「「よかねぇよ?」」


「お似合いの先輩後輩で羨ましいよ」


ニコニコ笑っているところ申し訳ないけど、俺はこの先輩のことまだ部活以外で認めてませんからね?


というかお似合いと言うなら佐倉先輩と如月先輩の方なのではないかと思ってしまうくらいには距離感が近いように感じる。


今ですら如月先輩が佐倉先輩にくっついているのに佐倉先輩は満更でもなさそうに笑っているし、如月先輩も恥ずかしいそうにする様子もない。


もしかしたらこの二人だけで百合漫画が作れてしまうのではないかと思ってしまうくらいにはオタク脳である俺からしたらお似合いである。


「あの、僕そろそろ帰りますね。今日はお疲れ様でした。いい経験ができてよかったです」


「うん。こちらこそ応援に来てくれてありがとう。おかげで助かったよ。あ、生徒会に入りたいならいつでも歓迎するからね」


「今のところは考えてないので、機会があったら考えてみます」


「ん、待ってる」


俺は二人に軽く手を振りながらその場をあとにした。


🧊🧊


「ただいま帰りましたよって……いるなら連絡くらいしてよ」


「いやねぇ〜美人の先輩二人とイチャコラしてるところかなって思って気を遣ってやったのだよ? ありがたく思ってほしいね」


「そりゃどうも。おかげさまで生徒会長から気に入ってもらえたよ」


「お〜それはそれは大変おめでたいことで」


「それで? 今日は何しに来たんだ?」


「ん〜家族記念に兄貴の家で御飯食べよっかな〜って思って」


「そういや今日だったな。真……」


「これからよろしくね? お義兄ちゃんさま」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

お疲れ様です。

先週更新ができなかった分今日にまとめて更新します。


さてと、Page.19に到達しましたよ〜?

まだ第19話なのかと思ったそこのあなた! やっとですよ? やっと19話が書き終えられたんですから少しは褒めてほしいところではありますけど、そんなこと言ってる場合じゃないですよね。


今回の話をもって第一章を終わります。

次回の第20話からは第二章として新しい物語を始めていきます。


一体真の言う家族記念とはどういうことなのか、真が翔を兄と呼んだ意味とは一体何なのか要注目です。


では第二章でお会いしましょう!

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