page.17 『デートの最後は思い出に……』

「んんー!! 遊んだぁ~!!」


「半日くらいかしら? ほぼ全部のアトラクション回ったんだじゃないかしら」


「確かに。あと行ってないとすれば観覧車くらいか……」


「なに、乗りたいの? もしかして私に告白でもする気?」


「なわけ。確かに神咲さんと付き合えたら喜ぶ人は数多だろうね。ついでに嫉妬に飲まれる可哀そうな男子が複数」


「それはそうね。というか私は誰とも付き合う気はないから申し訳ないけど諦めてもらうしかないわね」


「あっはーしんらつですねぇ」


まぁ神咲さんなら選ぶ人には悩まないわけじゃないけど、いろんな人が告白してくるからいちいち考えるのも面倒くさくなっているのだろう。


「どうする?」


「どうするとは?」


「だから、せっかくなら制覇したいじゃない」


「あ、あーそういうことね。じゃあ、乗るか」


「なら早く行きましょ。閉園まで時間ないし」


「うん」


神咲さんって意外と子供っぽいところあるよなぁ……(本日x回目)


――いってらっしゃーい


ゴンドラに向き合うように座ってゆっくりと、ただゆっくりと頂上を目指して登っていく。

無言の空気感が本当なら男女だと気まずいと思うのだろうが、俺と神咲さんの間にはそんなものはないような感じがする。


神咲さんがどう思っているのかは知らないけど、ただ、外の景色を見る神咲さんの横顔からはそういって雰囲気は感じ取れない。


「きれい……」


「うん……そうだね」


この遊園地にある観覧車は日本でもトップクラスに大きいとされ、頂上では遊園地のあたり一帯の住宅街の明かりが見渡せてものすごくきれいなのだとか。それもこの時間帯が一番のピークなため、本来ならこの時間帯が一番混むはずが、今回はなんなく搭乗できた。


「私、この景色を見る為に戻ってきてよかったかも……」


「え……?」


「私、一度引っ越して別の県に行ってて、中学校生活最後の春を迎える時にまた越してきた。征華学園もこっちに戻ってくるってわかった時に入学を決めたの」


(ってことは――神咲さんが自己紹介の時に言ってた阿澄女子って他県の学校だから誰も知らなかったっていうのも納得できる……)


俺たちのクラスは入学後初登校のホームルームの時にそれぞれ自己紹介をすることになったのだが、クラスのほとんどは地元にある中学や、征華学園の中等部から進級してきた人が多くいた中で、神咲さんのみが阿澄女子という全く知らない学校に通っていたと言っていたのも、その引っ越しで地元を離れたということも合点がいく。


「親の仕事の都合とか?」


「そう。お父さんの仕事の都合でしばらく地元に戻るってことになったんだけど、私は征華に入るって決めたから次に引っ越すことになっても拒否していたと思うわ」


「ってことはご両親は今地元にいないんだ」


「察しがいいわね。そうよ。また別の場所で仕事してる。お母さんはお父さんを支えないといけないから、私は一人で生活できるように中学生の時にみっちり生活力を身に着けてきたの」


「なるほどね」


だから家庭科の授業で料理とかがやけにうまかったわけだ。

まあ、俺も一人暮らしをするときに姉さんから叩き込まれた身だから分からなくもないけど。


「でも、戻ってきただけじゃダメだった……」


「どうして?」


「昔、小さいときに好きな人がいたの。同い年で、無口だけど私のわがままとかを正面から受け止めて聞いてくれた子」


神咲さんがわがまま……想像できん……⁉


「子供の頃だから幼い子みたいな結婚の約束とかもするくらい好きだった人がいたんだけど、私の両親が小学生になる前に離婚して、今のお父さんになるまで引っ越して生活してた」


「……」


あれ……なんか俺の知ってる話に似てるような……。


「その時のことをずっと伝えられずにいて、いつかまた会えたら話せたらと思ったんだけど、そう簡単に会えないものね」


「神咲さん……」


「なんだろうねこの気持ち。誰にも話したことなかったのに、白雲くんになら話しても大丈夫と思ってしまったわ。信頼しているから、かしらね」


「ははぁーん。まあ? 嫌な気分じゃないですけどねぇえ?」


「にやけてるのキモイわよ」


「すみませんでした……」


この神咲さんが好きになるような人だ。

きっといい人なのだろう。

俺もあの子にもう一度会って、聞きたいこと、聞かなきゃいけない事、ちゃんと話さなきゃな……


「いい景色だなぁ……」


「ええ……」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「さて、早速だけど報告してもらおうか」


「堂々と人の家に上がり込んでソファーに座んなや」


神咲さんと遊園地に遊びに行った翌日、生憎顧問の先生が風邪をひいたことで部活がなくなった真がアポなしで到来してきた。


そして入るや否やドカッと人の家のリビングにあるソファーに足組みをして座っている。


そして何故か俺が床に座る羽目になってしまっている。


これでは女王と家来じゃあないか?


「今はわしのソファーじゃ」


「いや俺の……」


「口答えするでないこのたわけが!」


「お前の情緒どうなっとんねん!」


「まぁよかろう……だがな、学園一のマドンナと謳われるあの神咲陽向葵さんと遊園地デートをしておいて何も無いなんてあるわけなかろうか? 我が幼なじみくんよ」


「ま、まぁ……たしかにそうかもだけど……別に大したことしてないし」


「こんのッチキン野郎が!」


「はぁ!?」


いやたしかに学園一のマドンナこと神咲さんとのデート(?)は楽しかったけど何もやましいことなんてしてない。

断じてしてない!

てかわざわざ了承してくれた人に対してそんなこと出来るわけねぇし!


「マドンナと遊園地に行って観覧車にも乗った、したら告白してラブラブになるのが当然の展開だろうがぁ!?」


「んな展開現実には有り得ねぇよ!?」


「この世界がいつから現実だと錯覚していた……」


「元々現実だっ!」


本当にこいつの脳内はラブコメ以外は入ってないのか……とか思ってる俺も大分ラブコメ脳してるからなぁ。


「で、本当に単に遊園地を楽しんできただけなの?」


「だからそうだって言ってるだろ? 神咲さんに嫌われるために行ったわけじゃないんだから」


「それでも何かしらあったでしょ。何もなかったなんてことはないはずだよ? じゃなきゃ神咲さんからお礼なんて言われないもん」


「は? 俺言われたのか?」


「うん。譲ってくれてありがとうって」


た、確かに真が神咲さんに逆に譲ってくれなかったら神咲さんと遊園地に行って、更には観覧車であの笑顔を見れなかった気がする。


「まぁ私がぐちぐち何か言うつもりはないよ。あくまで私は翔の幼馴染で親友だからさ? ほら、変に神咲さんの噂が立つのはあの人も避けたいだろうし」


「そうしてくれると助かる」


「でも、それとこれとは話が別だからね? 念のため私には話してみんしゃい」


「そう、だなぁ真には話しておいて損はないだろうし」


「私口は堅くってよ?」


真の事は信用してるから話しても問題ないだろう。後々神咲さんには話したことを伝えておけばいいし。


――それから俺は真に観覧車で神咲さんが話したことを一部端折って話すことにした。


「なるほどね、神咲さんの出身中学がクラスの誰一人として知らなかったのはそれが原因ってわけね。でもあの神咲さんが好きになる人ってどんな人なんだろう? あれだけ氷姫だったら人を好きなるなんてこと想像が……はっ!? ま、まさかレズ……」


「んな百合漫画展開あるわけないだろ。普通に男だと思うぞ。あと、神咲さん昔は元気な子だったと俺は思ってる」


「なんで翔がそう言い切れるのさ」


そういわれてみればそうだな……?

何で俺が神咲さんの昔の容姿とかを断言できるんだ?


高校で初めて会ったのに。


「んー遊園地で遊んでるときの神咲さんが無邪気な子供みたいだったから?」


「それなら納得できるのか」


はて、また神咲さんに疑問が生まれてしまったな。

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