page.16 『氷姫と初デート』②
「神咲さんってお化け屋敷得意なの……?」
「し、失礼ね……得意、よ……?」
「あぁそう……」
じゃあなんで俺の服の袖を掴んでるんでしょうね。しかもガッツリじゃなくて遠慮がちにちょこんと。
ここで強がるのは神咲さんらしいからいいけど、行動と言葉が見合ってないんだよなぁ……。
「次のペアの方どうぞ〜」
「僕たちの番だよ」
「わ、分かってる……」
大丈夫だろうか。
というか、スタッフさん、そんなに暖かい視線を向けないで下さい。居た堪れないです。
――で、案の定お化け屋敷の中では神咲さんの絶叫がそれなりに響いていたけど、あまりの怖さに神咲さんの目つきも悪くなって、結果的に暴け役のスタッフが怖がってました。
でも最後まで袖を掴んで離さなかった神咲さんは可愛いと思ってしまった。
「大丈夫?」
「……」
(完全に固まってる……そんなに怖かったのかな……)
俺はどこぞの姉のせいで怖いものには慣れているからそんなに怖いと感じることはなかったが、神咲さんはそうもいかなかったらしい。
「飲み物、いる?」
「いる……」
声小さい……まぁ、怖い思いをした後なら飲み物欲しくなるだろうし、買いに行くか、と思ったけど、今神咲さんを一人にしたら絶対誰かしらに絡まれるかもしれないし、連れて行くか。
「神咲さん、立てそう?」
「なんで……?」
「いや、今の神咲さんめっちゃ弱ってるように見えるからさ。自販機まで少し距離あるし、置いていったらまた男の人に絡まれるかもしれないし」
「あぁ、そういうこと……わかった。ついてく」
「えっと、その手は?」
深呼吸をしてからなぜか手を差し出してくる神咲さんに俺は正直困惑している。
「まだ怖いからちゃんと支えて」
「あらまぁ……」
なんですかその可愛い理由!?
まぁ可愛いから許しますけどぉ!?
「でも驚きだな。神咲さんがお化け屋敷怖いなんて」
「しょうがないでしょう? 私だって初めてなんだし、それにこんなに怖いなんて初耳よ」
「それは失敬。ここのお化け屋敷結構有名なんだよ。クオリティもそうだけど、スタッフの演技力もすごいって」
「実際に見てて分かったわ。小道具も、スタッフの人たちもどれもベテランの人が作ってるって」
「そうだね」
――ガコンッ
「はい、神咲さんの好きなやつがあってよかったよ」
「え、なんで私の好きな飲み物知ってるの?」
「あれ? 毎日飲んでるからてっきり……」
「あ、ううん。ありがとう」
「どうしたしまして?」
神咲さんほぼ毎日のように自販機でマスカットサイダー買って飲んでるからてっきり好きなのかなって思ったけど……余計なお世話以前になんで知ってんだって話よな⁉
「あ、あの神咲さん!?」
「何どうしたの?」
「あ、えっとその……神咲さんがそのサイダー好きなの知ってたっていうか……」
「あぁ、これね。もちろん好きだよ。というか私、炭酸系全部好きだから」
「え、そうなの?」
「うん。シュワシュワした感じが好きなんだよねぇ」
意外と子供っぽいところあるんだな……
「白雲君は?」
「俺は炭酸よりコーヒー系かな」
「大人だね」
「神咲さんも割と大人では?」
今は子供だけど。
「あはは。確かに普段の私は子供だからね」
今思えば神咲さんの口調、少し柔らかくなった?
「あ、今普段と違うって思ったでしょ?」
「エスパー……」
「まぁ当然、よね……普段の私は氷姫で、周りに干渉しなくて、冷たいから」
でも、それって男子だけだよな……女子にはおごらず謙虚で、優しい一面を見せてると思うけど、神咲さんからしたらそれも違うのかな……
「でも、私はそれが自分ありきだと思ってるから」
「そっか。まぁ、神咲さんって美人だから周りからの評価も必然的に上がっちゃうんじゃない?」
「それね……私としてはやめてほしいんだけどね」
「そうだろうね。容姿だけの偏見は誰だっていやだろうし」
「分かるんだ?」
「まぁね。俺の姉さんが容姿端麗で、それがきっかけでなんでもできる人っておもわれてた時期があったからさ、何気に分かるんだよ」
「ふぅん。白雲くんのお姉さんってどんな人なの?」
「すごい人、以外にないかな。考え方が奇抜というか、本当に自由気ままな性格なんだ。気分で人の家に来てご飯食べてくし、ブラコンだから俺がゲームしててもお構いなしに抱き着いてくるし」
「すごいねそれは」
「めっちゃ大変」
「でも、姉弟でそんな関係って珍しいわね。普通の姉弟ならスキンシップって滅多にしないものじゃないのかしら?」
そうでもないんだよなぁ……
「あれ、でも白雲くんって兄弟いないって篠崎さんから聞いたんだけど?」
「え? あぁ、そうだよ。俺一人っ子。姉さんって言っても従姉の姉さんだよ」
「やっぱりー姉さんって言われると分かりにくいわ」
「ごめんて。というか真から聞いてたなんてそれこそ初耳なんだけど?」
「篠崎さんからメアドを交換しようってお願いされたから、交換ついで君の個人情報を教えてあげるって」
あいつ帰ったらしめてやる。
そっか、神咲さんと真知らぬ間に仲良くなってたんだ。まぁ、真なら神咲さんも気を引き締めて離せない相手じゃないと思うし、何気に常識ある真だから気は合うと思う。
それでも勝手に俺の個人情報を流されたのは聞き流せん。
「まあ、篠崎さんから聞いたのは白雲くんの家族関係と趣味くらいだから」
「待って、その趣味ってどこまで知ってるんだ!?」
「えーと、ゲームと読書、あとはパルク――」
「待て待て! それ以上は言うな!」
「なんで? いい趣味じゃない?」
「周りからしたらそうだろうけど俺からしたら知られたくないもんなんだよ!」
俺の趣味は真と、姉さん、あとが親以外は知らない。というか知らせてない。
それを神咲さんが知っているということはあいつは俺の隠してることをいつでも流せるということ。
つまりはあの腹グロ女王の篠崎真は俺の人権的な何かを握っているということになる。
「頼むから他言無用にしてくれ……」
「いいけど……」
この人は神様でした。
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