page.11 『この先輩何を企んでいやがる!?』

 演劇部の舞台が終わって1週間、それとなく俺はクラス内でも注目を浴びる羽目になっていた。

 ただ、単なる冷やかしではなくて、セリフをもう一度言って欲しいや、噂になっている本番に使える緊張しない方法を伝授して欲しいというリクエストが多かった。


 とはいえ、俺の方はその一端に過ぎず、本当に大変そうだったのは神咲さんの方だった。


 一日中囲まれては質問攻めに何を勘違いしたのか今度一緒に舞台に立ちたいとかいう能天気なやつもいて、ここ1週間の神咲さんは明らかに不機嫌そうだった。


 それでも女子相手には笑顔で返事を返している辺り本当にすごいと思う。


 一方で本当は演劇部に入っている幼なじみさんはというと――


「なんで私のところには誰も来ないんだ……おかしい……おかしいぞ……」


 ――と、独り言が多くなっているわけで、毎日俺の目の前で嫌味のように言ってくるから、機嫌取りに真の好きなカフェオレを贈呈して喜んでもらっている。


 まぁそれでも機嫌が治らないなら頭を撫でて甘やかす方にシフトチェンジするんだけどね。

 真の場合、頭を撫でると猫のように細めになってふにゃふにゃになるから大変扱いやすい。


「真もそろそろ諦めたら? あの舞台のヒロインは神咲さんだったんだから、真が目立たなかったのはしょうがないでしょ?」


「ぐぬぬぅ……」


「はぁ……毎日俺に頭を撫でもらうから諦めるか、俺が頭を撫でるの一切せずに言い続けるかどっちがいい?」


「な!? んな殺生な選択肢があるのか!?」


「じゃなきゃ機嫌取りに付き合ってる俺の身にもなってくれ」


「ウヌヌヌッ……背に腹はかえられぬ……」


 これは了承ってことでいいな。

 真は人気者だけど、友達は実のところ俺しかいない。

 昼食も一人か俺と食べるかにしていて、たまに誘われてクラスメイト達と食べているが、本人は友達だと思っていないらしく、俺が離れるとギャン泣きするのだとか。


 というのも真のお母さんが一時期俺が熱で学校を休んだときに俺の家に行きたいと駄々を捏ねてかなり大変だったらしい。


 案の定お母さんを振り切って俺の家に突入して偶然居合わせた姉さんにこってり甘やかされておとなしくなったそうで……


 それから俺は学校は絶対に休まないと誓ったんだけど……真はそれでも心配らしく、その一件以来俺にべったりなわけで――


 時折俺に嫉妬の視線を向けてくる男子が増幅したわけだけど、真が猛獣並みの眼光で睨みつけることで抑制されている。


「お前って……ほんとに妹みたいなやつだな……」


「だって翔って優しいから私が甘えるくらいならいいでしょ?」


「理由になっとらん」


 とまぁ、こんな感じで時折距離感がバグるこの幼馴染はいつもならここまで近いことはない。

 ほどよい距離感をお互いに守っている。


「あ、そういえば、如月先輩が翔のこと呼んでたよ?」


「うっ……あの先輩か……」


 如月拓斗きさらぎたくと、演劇部部長で成績優秀、運動神経も抜群、更には絡みやすい性格なのもあって学園人気もかなり高い。

 神咲さんとは正反対の人気を誇る生徒で、演劇部の部長に相応しい程の演技力を持っていると思う。


 あの舞台で俺と神咲さんを抜くとしたら如月先輩は部の中では頭一つ飛びぬけていると思う。

 まぁ、結果的にファンが急増してるんだけどね。


 で、その先輩に呼ばれたってことは大体見当が付く。


「断れないよな?」


「もっちのろんだね。相当翔のこと気に入ってるみたいだったし」


「うわぁ……」


 その気に入ってるが恋愛感じゃないことを祈りたい……というか先輩ちらほらと彼氏いらないとかなんとかって噂聞いたことがあるから、多分違うと思う。


「まぁ、悪い話じゃないと思うよ? 先輩ノリノリだったし、それに先輩のことだからお礼も兼ねてじゃないないかな?」


「あーそういうね……」


 あの先輩の事だ。打ち上げの時にお礼を言っただけじゃ足りないと思っているのだろう。どう足掻いても感謝の気持ちを伝える。

 それが如月先輩の特徴だ。


「ま、頑張って」


「何をだよ」


「さぁね~」


 誤魔化したまま自分の席に戻る真を横目に俺は憂鬱な気分をかみしめることにした。

 厄介なことにならなきゃいいけど……。


 ――放課後、約束の時間より少し早めに部室前に着いた俺はドアを開けるか悩んでいた。


 悩むというより気分が乗らない。


 どうしたものか……


「何しているの?」


「え? あ、神咲さん……」


「あなたも呼ばれたの?」


「うん。先輩から話があるって言われて」


「ふぅん……奇遇ね。私もあなたと同じ理由よ」


 奇遇、というか神咲さんが呼ばれる理由ってそれ以外思いつかないんだけど?

 おっと、これは言っちゃいけないな。


 ――ガラッ


「ドアの前で長話かい? なんとも陽気な後輩がいるものだね」


「「誰のせいだと?」」


 おー息ぴったり。というか神咲さんも同じ気持ちだったんだ。なんか親近感あるなぁ……とか思ってると如月先輩が可哀そうだから後回しにして――


「それで、話しっていうのはなんですか?」


「ま、まぁ中に入ってよ。ドア前で立ち話させるのも申し訳ないからさ」


 少し落ち込んでるのかな?

 まぁ、学年関係なく愛されてる先輩だもんね。後輩に塩対応されたのは初めてなんだろう。

 それも二人同時に。


「率直に言うと、君たちにお礼も兼ねてこれをプレゼントしたい」


「なんですかこれ?」


 先輩から渡されたのは二枚のチケット。

 そこには旭岡遊園地と書かれている。


 ん?

 旭岡遊園地って……あの超有名な場所じゃん!?


「え、なんで先輩がこれを持ってるんですか!?」


「驚くのも無理はない。私も理事長から渡されたときは驚いたよ」


 あぁ、姉さんが……なら納得。

 あの人顔広いからなぁ……確か今、旭岡遊園地の代表取締役はここの卒業生だっけな?

 姉さん、先週の演劇部の映像見せて交換条件にしたなこれは……


「それで、なぜこんなに貴重なものを私と白雲君に?」


「君たちにはまだちゃんとしたお礼はしていないからね。それに、私としては一番活躍してくれた君たちにそれを譲りたいっていう私情だよ」


「なるほど……いくら理事長先生でも入手できたのはこの二枚のみ、先輩なら誘う人は数多でしょうけど、平等に選ぶことが出来ず、悩んだ末に僕と神咲さんに譲ると」


「あのさぁ……せっかく先輩がかっこよく、先輩としての威厳を見せようとしているのに、どーしてそう簡単に私の照れ隠しを亡き者にするかね君は」


「すみません。先輩を持ち上げられるほどの力が今の僕にはないので」


「なんだこの後輩めちゃくちゃ気に障るな」


 はて?

 なぜこの先輩は狼のような目をしてるのかな?


 ところで、神咲さんがまじまじとチケットを見ているのが横目で見えて気になるんですが?


「ま、とにかく! 二人にそれをあげるから楽しんできて! あ、因みにそれペアじゃないと使えないからね」


 最後まで威厳保てやイケメン女子先輩め!


 ――というわけで、先輩から押し付けr……かけたこのチケットを神咲さんと消化しないといけないのだけれど、当の神咲さんがどう思っているのか……


「はぁ……これ、篠崎さんを誘って行ってきたら?」


「ほえ?」


「私、遊園地とか興味ないから」


 あらら、どこまでも冷たいようで。


「じゃ」


 あっはークール系美少女は遊園地という陽キャの集まりみたいな場所ではなくて水族館とかがいい系かなぁ?


 俺も陽キャ嫌いだボケェ!!!!


 おっと、取り乱すのにはまだ早い。これを真を探して渡すのが俺の役目――


「おーすっ!」


 うん! こいつは犬だから探す必要ないね!


 いってぇなぁおい!?


「どうだった~? 如月先輩との密会」


「人聞きの悪い言い方すんなや。今この場にお前以外の女子居たら俺確実に血祭の刑に処されてるわ」


「それもせやね」


 その火種になりかけた張本人がキョトンとしてるのはなぜです???


「あ、そうだ。これ、神咲さん、カッコどこぞの先輩カッコ閉じる、からのお礼」


「翔、意地でも如月先輩って呼ばないのあの人悲しむよぉ?」


 しゃーない。

 俺あの人苦手だし。


「って、これ旭岡遊園地のチケットじゃん!?」


「そ、神咲さんと俺に渡されたんだけど、神咲さん興味ないからって言われちゃった」


「……翔くんや」


「なにさ」


「これ、ペアチケットだよなぁ?」


「そだね」


 がっつり書いてあるんだからそうだろうね。何を言っているんだいこの犬系幼馴染は。


「この馬鹿野郎!!」


「はぁ!?」


「てめぇはあほか! せっかくの遊園地のチケットを単なる幼なじみと行くバカがこの世のどこにおんのじゃ!!」


「んだとこんにゃろぉ!?」


「こういうのはなぁ!? 学校一の美少女と行くのが鉄則だろうがぁ!」


「んなラブコメ展開あるわけねぇだろうぐあぁぁぁ!!」


「いや、こんなに仲の良い幼馴染がいるのもありえなくないか?」


「それはそう」


 いや、急にシリアスな思考回路に戻るなよ。まぁ俺も思ったからなんとも言えんけど。


「それで? 本当にいいの?」


「さぁな。少なくとも神咲さんの意向だから無下にもできないし」


「そうだけどさぁ……私としては神咲さんに行ってほしいよ? 翔がどうとかじゃなくてさ、神咲さんだって一人の女の子なんだし、遊園地くらいは興味あるでしょうに」


「想像つかないけど、ありえなくはないか」


 確かにチケットを貰ったあと、そのチケットをまじまじと見つめていたあの表情は、凍りついた表情ではなく、裏には嬉しさがあったようにも感じられた。

 あくまで俺の主観だけど、あれを見過ごすほど俺の観察力は誤魔化せない。


 おそらく神咲さんは``自分と``行くのは楽しくないと思って自分の分を俺に譲ったのだろう。

 神咲さんは俺と真が幼馴染だということは知っている。当然日常生活の中での仲の良さも知っているわけで。


 つまりはただのクラスメイトの自分と遊ぶより仲の良い幼馴染と遊んでちょうだいな、ってことだろう。


「私は翔の判断に任せるよ? だってそれをもらったのは翔と神咲さんはなんだからさ」


「まぁ、そうだよな……譲られたからって易易と別の人と行くのも気が引けてきた」


「それでこそ翔だよ。じゃ、私は部活だから〜またね〜」


 俺の方から誘ってみるか……まぁ、せっかくもらったから遊ぶなら楽しみたいよねって意味で話すのが一番だろうけど、それをいきなり神咲さんに話したところでなんと思われるか……


「荷が重いなぁ……」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

 お疲れ様です。

 ほんと不定期に投稿で申し訳ないです。

 学生として生活しつつ、余った時間で何しよう状態になった際にキノコ系Vチューバーさんの音源を垂れ流しにして作業してます。

 疲れているとどうしても今回のような話にできないので基本的に深夜テンションになるようにするために徹夜ギリギリを繰り返しています。


 というわけで次回は氷姫へお気楽少年が奮闘して、挙句の果てに――


 お楽しみに!

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