第2話

「うわぁ、いっぱい人いる」

私はつい独り言を漏らしてしまった。

すると、一人の男性が話しかけてきた。


「君、見慣れない顔だね」

「はい、今さっき来たばかりです」

「そうか……僕の名前は佐藤雄介。よろしく」


彼は笑顔で自己紹介をした。

私も同じように自己紹介した。

それから彼と少し話していると、誰かが私に声をかけて来た。

その人は優しそうな人だった。

その人の名は加藤正樹さんというらしい。


その人も私と同じく通り魔事件で殺されたのだと言う。そして、彼もまた私と同じように気がついたらここに居たという。


彼の他にも、もう3人ほど同じような境遇の人が居るらしい。

その後、しばらく雑談をしていると、突然、私達の前に一人の少女が現れた。


「はじめまして!私は如月葵と言います!」

元気な子だった。

見た目からして年齢は10歳くらいだろうか。こんな小さな子まで犠牲者なのかと思うとなんか悲しくなってくる。


「こんにちは。僕は佐藤雄介っていうんだ。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」


そう言って二人は握手を交わした。

どうやらこの子はこの施設で暮らすことになったみたい。

私はそのあと、特に何もすることなく時間が過ぎていった。


そして、夕方になると皆はそれぞれの家へと帰って行った。

私は今日からこの施設の空き部屋で生活するらしい。

そして、その日の夜、私は不思議な夢を見た。


それは、あの青年と私が一緒に暮らしている夢。

とても幸せだった。

でも、なんで幸せなんだ?いま私は死んで死後の世界とやらに来ているというのに。


そして、目が覚める。

「なんで幸せなんだ?」

同じ部屋になった人からは

「幸せってのは人それぞれだから俺には分からんがきっと君が見た夢は昔の幸せだった頃の夢かもしれないよ」

と言われた。

昔かぁ……確かに、私は子供の頃は親と仲が良くて毎日のように遊んでいた記憶がある。でも、中学生になってからだんだんと両親と話す機会が減っていって最終的には喧嘩ばっかりになってたっけ……。


まぁ、それも今では良い思い出だ。

私はそれから、たまに夢の事を思い出しては懐かしむ日々を過ごした。

そして、あっという間に時間は流れ、1ヶ月が経った。


死後の世界に落ちて(?)着てから1ヶ月早いものだ。

すっかり周りと馴染んだ私は現在

死後の世界にある

『リュマニテの滝』に遠征というか遠足に来ていた。


「おー、すげーな」

「うん、綺麗だねぇ」

「これはなかなかの絶景だね」

私達は滝を眺めながら言った。

すると、後ろの方から声が聞こえた。

「あら?みんな来てたんだ」

振り向くとそこにはあの時出会った少女がいた。


「君は確か……」

「如月葵です。よろしくお願いします」

「そうか、君も今日ほかの人達と遠足かい?」


そう、彼女は今日は他の人達と一緒の班らしく、私達がここに来る前に既に居た。

私達もその時に挨拶を済ませていた。

彼女の隣にいる男の子にも挨拶をした。

彼の名前は田中健太くん。彼女と同じで通り魔事件の被害者らしい。まだ小学5年生だというのに、可哀想に……

そんなことを考えていると、突然、私達の方にボールのようなものが飛んできた。

そのボールの様なものはネットのような羽根?見たいなやつがある。

どうやらバドミントンの玉らしい。

えーと、バドミントンの玉ってなんて名前だっけ?

あーそうそうシャトルだった。

って、そんなことは置いといて。

そのシャトルは勢いよくこちらに向かってきた。

私は反射的に目を瞑ってしまった。

しかし、いつまで経っても衝撃はやってこなかった。

私は恐る恐る目を開けると、目の前では佐藤さんが片手でそのシャトルを止めていた。

佐藤さんはそのシャトルを握り潰した。

「おい!お前ら大丈夫だったか!?」

「あぁ、こっちはなんとか」

「ありがとうございます!」

「ありがとう佐藤さん」

「おう、無事なら良かったぜ」

私達は彼に礼を言うと、再び滝の方へ視線を向けた。


「そういえば、如月さんと田中くんもあの事件に巻き込まれたんだよね?」

「えぇ、そうよ」

「あの時、怖かった?」

そう聞くと如月さんは少し考えた後、こう答えた。

まるで、あの時の恐怖を忘れようとするかのように。


彼女は続けた。

あの時は本当に怖くて仕方なかった。

だから、もし次に生まれ変わったら次は普通の女の子になりたい。

と。


そんな話をしていると、どこからともなく誰かの声がした。

私は辺りを見渡したが誰も居ない。

気の所為?


「如月さん、今何か言わなかった?」

「いや、何も言ってないよ」

「そう……じゃあいいんだけど」

私はそう言うとその話はそこで終わった。

そして、私達はその後、楽しく会話をしながらその日を過ごした。

帰り道、私は佐藤さんのことが少し気になっていた。


何故だろう……

そう考えているうちに私はある結論に至った。

多分、私は彼のことが好きになってしまったのだと。


「有り得ない事だが有り得ることでもある」

「何言ってるの?」

「何言ってるか自分でもわからない」

「何だそれ」



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