ちょっと不思議な体験をしようか

みなと劉

第1話

「今日はスプライト飲むよ」

「で?何食べる」

「私テリヤキバーガーセット」

「あんたは?」

「私は……チキンタツタセット」


私は、この店ではあまり食べない。たいていハンバーガーかサンドイッチを頼むことが多い。でもたまに無性にジャンクフードが食べたくなる時がある。そういう時は大概テリヤキバーガーと決めている。


この店ではポテトやナゲットなどと一緒に飲み物を注文すると一割引きになる。だからいつもなら、スプライトではなくオレンジジュースを飲むところだけれど、今日の気分はスプライトだった。


「なんでいつもはオレンジジュースなのに今日はスプライトなの?」

「んー?今日はそんな気分なんだよね」

「そっかぁ」

彼女はそう言うと、私の方をチラッと見てきた。多分私が嘘をついていることに気がついたんだろうけど何も言わなかった。


私たちはそのまま店内に入り席に着いた。そしてすぐに注文をして、届いたものを食べ始めた。その間も私はずっと考えていた。さっきの彼のことを。彼は一体誰なのか。


どうしてあの場所に居たのか。なぜあんな表情をしていたのか。わからないことだらけだった。

「さっき公園にいた彼って一体誰だったんだろうね?」

「あそれ気になる」

「んー?どうでもよくねさっさとバーガーとか食べよ……お腹減ったわ」

「「あんたは食べることしか興味無いのか」」

「私は食べることが好きなのだ」

私たちはそれからしばらく話しながら食事を続けた。食べ終わり店舗の外に出る。


ふわりとした風が吹く。

「気持ちいい」

彼女が言った。確かに心地よい風だ。空を見上げると雲ひとつなく澄み渡っていた。その景色はとても美しかった。

また彼と会えたらいいのに。なんて思った。


そして、彼が何者か知ることが出来たら良いのに。

そんなことを考えながら家路についた。

翌日の事。

ふと、テレビをつけると番組をやっていたので観ることにした。

「お姉ちゃん」

「ん?なに」

妹が話しかけてくる。

私は妹の方を見る。

妹はスマホを見ながら私に話しかける。

きっとSNSだろう。

今は夏休みなのでこうして家でダラダラしていることが多い。

特に何かをするわけでもない。ただひたすら暇を持て余していた。


そんな中、たまたまつけた番組でやっている特集に興味があった。それは今話題になっている都市伝説についてだった。

なんでも最近、変死事件が多発しているらしい。それも、決まって若い女性ばかりだという。

「この事件なかなかに奇っ怪だよねお姉ちゃん」

「そうだねぇ……食べ物系の番組は無いのか」

「お姉ちゃんったら……食べることばっかり」

私はこういうオカルト系みたいなものはあまり好きではないのだが、なぜかこの番組だけはよく見ていた。その理由は単純に面白かったから。あとはまぁ、他に見たいものも無かったし。という感じである。


番組は進んでいく。そしてとうとう都市伝説のコーナーになった。

そのコーナーの内容はこうだった。

・この世には存在しないはずの物を食べると体が縮む。

・食べたものは二度と元には戻らない。

・体の一部分が無くなる。

といったものだった。


正直、どれもこれも意味不明だった。まぁでも、こんなのはいつものことだし別にそこまで気にはならなかった。それよりも気になったのはやはりあの青年の事だった。昨日出会った謎の青年。


あれは一体なんだったのだろうか。まさか本当に妖怪だったりして……いや、流石にそれはないか。だって人間にしか見えなかったし。


「お姉ちゃん……この世に存在しない『物』ってなんだろうね。それに食べると縮むって」

「不思議だねぇ」

「『食べた物は二度と元には戻らない』ってのと『体の一部分が無くなる』って怖いね」

「確かにそれは怖いね」


私たちはそんな会話をしながらテレビを眺めていた。

すると急に画面が変わった。CMかと思ったけど違ったみたい。

画面に映っていたのはニュース速報だった。


どうも近くで通り魔事件が起きたらしい。犯人はまだ捕まってないとかなんとか。

私たちの街では最近よく通り魔事件が発生する。そのため外出するときはなるべく一人にならないように注意するように言われてる。


まあ、1人になることは基本無いのでそこは大丈夫だろう。私たちはそのままぼーっとテレビを観ながら過ごした。

しかし、その時、私はあることに気づいた。

(え?何これ)

そう、さっきまで普通に過ごしていたはずなのにいつの間にか私は知らない場所に立っていた。ここはどこだろう?

さっきまでは家に居たはずだけど。


周りを見渡すとそこにはたくさんの人が居た。みんな突然現れた私を見ている。

すると、目の前に居た女性がこちらに向かって歩いてきた。

「あなた、名前は?」

「名前?私は……あれ?名前が思い出せない……」

おかしい、さっきまで覚えてたのに何故か思い出せなかった。

「やっぱりそうなのね」

「どういうことですか?」

「落ち着いて聞いてね。実はね、さっきテレビでやってた通り魔事件なんだけどね。被害者は全員女性だったの。それでね、あなたの顔写真を見て気がついたの。」


そこで私は理解した。

さっきのニュース速報で見た事件の被害者の顔写真を。そして気づいた。自分がその事件に巻き込まれてしまったことに。

そして、それと同時に思った。

あぁ、これは夢なんだって。

私はそう思った。

だから私は彼女に聞いた。

ここは一体何処なのか。


彼女は答えた。

彼女はこの場所のことをこう呼んだ。

死後の世界だと。

私は納得した。

何故なら、

「私……死んだんだ」

私はあの時、包丁を持った男に襲われた。抵抗しようとしたけれどダメだった。男の力は強かった。そのまま私は刺された。

そこからの記憶はない。

多分、そのまま死んでしまったんだろう。


「あの、じゃあ私これからどうすればいいんですかね?」

「それはね、多分だけど、ここに居る人達と一緒に暮らすことになると思うよ」

「え?ここに住んでいる人たちが家族になるということ?」

「そう。だからお互いに助け合っていきましょう」


そういうことなら仕方ない。とりあえず今はこの状況を受け入れるしかないようだ。

それから私は彼女と別れ、他の死者達が集まっている場所へと向かった。その場所へ向かう途中、私はあることを思いついた。


それは、あの青年を探すこと。

もし彼が同じ場所に居たらまた会えるかもしれない。そんな淡い期待を持ちながら私は歩いた。


しばらく歩くと広場のようなところに着いた。そこには多くの人が居た。ざっと数えても100人以上は居るだろう。

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