第272話 セリアとソフィアの甲虫退治❤

~ フロアボス部屋 ~


 開かれた扉の向こうには、大きな円形の広間があり、その中央に巨大な甲虫の像が立っていました。


 その広間の構造は、キモヲタたちが潜っている「奈落のダンジョン」とまったく同じものでしたが、そのことをセリアとフィオナが知る由もありません。


 さらに奈落のダンジョンと同じなのは広間の構造だけではありませんでした。そこにいるフロアボスも、キモヲタたちが戦ったのと同じ「魂喰らいの王クロウルス・マカブリス」だったのです。


 もちろん別個体ではあるものの、その習性や戦い方は同じです。


 ブーン! ブーン! ブーン! ブーン! ブーン! 


 最初にセリアたち訓練生チームを襲ってきたのは、大量の甲虫の群れでした。


 小型の甲虫たちは獲物についてその肉をピラニアのように齧ります。奈落のダンジョンで襲われたドラゴンボーンズたちが、もしワイバーン皮の鎧を身に着けていなければ、もし鋼の筋肉ムキムキマッチョの変態集団でなければ、アっと言う間に骨になっていたことでしょう。


 そんな恐ろしい甲虫の群れが、セリアたち訓練生に向って……


 ……こようとしたところを急旋回して戻りました。群れは、セリア達から少し離れた前方で甲虫柱を作っています。


 ブーン! ブーン! ブーン! ブーン! ブーン! 


 セリアの対妖異フワーデゴーグル付属カメラから状況を見ていたイリアナ教官(銀髪緑眼Fカップ)の声が響きます。


『これが”虫こなくな~るC”の効果だ! どうだ凄いだろう! 妖異対策局の売店でいつでも購入できるぞ! 冒険のお供に常に持っておけ!』


 イリアナ教官の言う通り、甲虫たちはセリアたちに貼りつくどころか、近寄るのも忌避しているようでした。


 甲虫たちは、セリアたちから一定の距離を保って様子を伺っているように見えます。


 訓練生Aの指示がフィオナに飛びます。


「フィオナ! お願い!」


「わかった!」


 フゴー、フゴー、フゴー。


 耐火防護服に身を包んだフィオナが訓練生たちの前に進み出ます。火炎放射器を構えたフィオナに、訓練生Aが叫びます。


「一気に焼き払え!」


 その声に応じるように、フィオナは火炎放射器のノズルを小さな甲虫の群れに向けました。独特の金属音とともに、燃料の白い噴射が空気を切り裂き、直後に炎の奔流がほとばしります。


 ゴォォォオォオオオ!


 周囲の空気が一瞬で灼熱に変わり、甲虫たちは火炎に包まれ、あっという間に焼き焦がされていきました。


 ゴォォォオォオオオ!


 フィオアは、一匹足りとも甲虫を逃すことのないよう、丁寧に焼いて行きます。


 そのときセリアが、燃える甲虫たちから漂ってくる香ばしい匂いに、思わず食欲をそそられていたのは内緒なのでした。


 全ての甲虫を焼き終えると、今度は、広間全体を揺るがすような地響きが起こりました。


 ズシーン! ズシーン! ズシーン! 


 訓練生Aが全員に警戒するよハンドサインを送ります。


 さらに彼女の合図で、セリアが一歩前に踏み出し、素早く小銃を構えました。他の訓練生たちも続いて弾倉を確かめ、銃口を左右に向けて警戒します。


「右よ!」


 訓練生Aの号令と同時に、小銃から連続的な射撃音が響きました。


 タタタン! タタタン! タタタン! 


 7.62mm弾が放たれたのは、台座の右方から現れた巨大な甲虫。墓守の甲虫にして、魂喰らいの王、妖異クロウルス・マカブリスでした。


 タタタン! タタタン! タタタン! 


 全弾クロウルスに命中しているものの、丸みを帯びた硬い甲殻に弾かれ、本体にはダメージが入っていないようでした。


 銃撃しているセリアたちを認識するやいなや、クロウルスは突進してきました。


 ドドドドドドッ! 


 ピタッ!


 が、途中でその八本足を止めてまいます。その瞬間、インカムを通じてイリアナ教官のはしゃぐ声が轟きます。


『どうだ! ”虫こなくな~るC”は凄いだろ! なんなら冒険のお供に三本、予備で三本、布教用に三本くらい持っておけ!』


 戦闘中でそれどころではないセリアが、プチ切れして怒鳴り返します。


「いい加減にしてください教官! 今は戦闘中です! 虫よけの話は終わってからにしてください!」


『お、おう……そうだったな。それじゃ詫びだ。フワーデ図鑑の課金情報によると、そいつは甲殻はめっちゃクソ硬いが、腹はやわやわだそうだ。関節部分も弱いらしい』


「そういうことは早く教えてください!」


『す、すまん……だが課金情報なんだよ……」

 

 急に弱気になったイリアナ教官の言い訳をスルーして、セリアたちは、早速課金情報を活用することにしました。


「フィオナ! あいつに火を!」

「了!」


 フィオナがまた前に出て、炎の洗礼をクロウルスに浴びせかけました。


 ゴォォォオォオオオ!


 頭部に炎を浴びて、クロウルスが巨大な身体を起こします。


「腹が見えたわ! 今よ!」


 タタタタタタタ! タタタタタタタ! タタタタタタタ!

 

 全員がクロウルスの腹部めがけて集中砲火を浴びせかけました。


「フィオナ! 火を止めて!」

「了!」


 炎が消えると、クロウルスの巨体が前にが倒れ込んできました。


「手りゅう弾!」


 訓練生Aの号令で、フィオナを除く4人が、素早くクロウルスが倒れ込もうとしている場所に手りゅう弾を投げ入れます。


 ズシーンッ!


 音を立てて地面に倒れ伏したクロウルスが、再び動き始めようと巨大な脚を動かしたそのとき――


 ドゥンッ! ドドゥンッ! ドゥンッ!


 そのお腹のしたで手りゅう弾が爆発しました。


 それから少しの間、脚をバタバタさせた後、


 それきりクロウルスは二度と動くことはありませんでした。


 そのクロウルスの死骸の前で、


(これも焼いたら香ばしい匂いがするのかしら?)


 と考えていたセリアなのでした。

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