第183話 号泣! ラモーネ・ドルネア公爵夫人

 キモヲタの【足ツボ治癒】によって一命をとりとめたラモーネ・ドルネア公爵夫人。


 先ほどまで死を覚悟していた状況が一変し、今では以前よりも健康体となったことに彼女は困惑していました。


「キ、キ、キモヲタ様、わわ、私の命を救っていただき本当にありがとうございました。い、今は? 今は何分深夜ですし、また改めてお礼にお伺しますわ」


 ギコチない動作でキモヲタに礼を述べると、次の瞬間には全速力で北西区の中へと走り去っていきました。

 

 もちろんキモヲタの【足ツボ治癒】によって、自分があられもない姿をさらしてしまったことが困惑の最大の原因でした。


 現場に集まっていた野次馬のなかにいた酔っぱらいの一人が声を上げます。北西区の娼婦や客たちは、キモヲタ男爵の治療の世話になっている者ばかりでしたので、暗黙の了解によって皆沈黙を保っていました。しかし、この酔っぱらいは北区の住人だったため、そうした空気がまったく読めなかったのです。


「うぃ~ぷっ! 随分派手にお楽しみだったじゃねーか! らめぇぇ♥ なんてよぉ、俺もこいつにそんな声を上げさせてぇもんだぜ。なぁ?」


 そう言って酔っぱらいは、彼の肩を支えていた娼婦の胸をまさぐりました。


「ちょっと! アレはそういうんじゃないから。 早く行きましょうよ!」


「ちょっとお客さん、こっちに来てもらえるかなぁ? サービスさせていただきますんで。お嬢方、このお客さんをご案内して」


 優男が近くにいる娼婦に声を掛けると、三人の娼婦が酔っぱらいを急かしてこの場から離れていきました。


 プルプルッ!


 ラモーネは顔を真っ赤にして震えています。普段のクールビューティーな姿からは程遠い、口がむにゃむにゃと波打つ線になるほどのキョドり具合でした。


 その心の内を察したキーラが、ラモーネを慰めようと声を掛けます。


「ラモーネさん、キモヲタの【足ツボ治癒】は凄い治癒力があるんだけど、その代償に恥ずかしい思いをさせられるの。大丈夫、ここにいるはそのことをよ。犬にかまれたくらいに思っていればいいよ。あっ、私はかまないけどね」


「みみみみみんな?」


 キーラの言葉を理解したラモーネは、布で囲われた外側に沢山の人々が集まっている気配を感じとりました。

 

「ししししししししってりゅ!?」

 

 口のもにゃもにゃ線が激しく波打ち、真っ赤になった顔から湯気が立ち昇ります。


「うわぁあああああああん!」


 ラモーネは両手で顔を覆い、そのまま凄まじいスピードで走り去っていきました。


「「あっ!」」

「「ラモーネ!」」

「ま、待って!」


 他のラミアたちが彼女の後を追うように、この場から去っていきます。


 ポツンとその場に取り残されたキモヲタとキーラたち。


 野次馬たちもイベントは終了とばかりに、それぞればらけていきました。


「ま、まぁ……とりあえずラモーネ殿が元気になってよかったでござる」


「だね!」


 この場に集まっていたキーラもシスターもエルミアナもエレナも、キモヲタの被害にあったことがあるので、ラモーネの心情を深く理解していたのでした。


「旦那、お疲れさんです!」


 酔っぱらいを追い払って、現場の片づけを終えた優男がキモヲタに挨拶してきました。


「それにしても、瀕死の状態から一瞬であそこまで回復させるたぁ、相変わらず凄まじいヒールですねぇ」


 そう言ってニヤニヤ顔で近づいてくる優男が、キモヲタは苦手でした。かつてソフィアを痛めつけたことを土下座で謝罪してたことは評価しているものの、常に左右に美女を侍らせているこの男を、どうしても許すことはできないのでした。簡単に言うと嫉妬しているのでした。


 胸元ががっつり開いた二人のハリウッド系美女に視線を向けられると、蛇に睨まれたカエルよろしく、口も身体も動かなくなってしまうキモヲタ。


 そんな二人の美女にも負けず劣らずの美女、かつバストでは完全勝利しているエレナが、キモヲタの前に出て優男に怒鳴りました。


「ちょっと、ルーク! 分かってるでしょうね? キモヲタの【足ツボ治癒】については……」


「おぉっと、エレナさん。わかってますって、マダムからも直接指示が来てますよ。旦那の奇跡については口外しない。うちの嬢たちにも徹底周知させてますんで。というか、うちの連中で旦那の世話になってないもんはいねぇんです。そんな旦那を裏切るようなマネするのは、うちには……いや北西区にはいませんて」


 媚びを売るような表情を作りながら、優男がエレナに答えました。


 ソープランド建設において、キモヲタ名誉男爵の名代として紅蝶会のマダム・バタフライとの交渉に当たっているエレナは、北西区紅蝶会にとっては最重要人物の一人となっています。


 エレナが重要人物扱いされる理由であるキモヲタ自身は、エレナというGカップの肉盾を得て、ようやく優男に声を掛けることができるようになりました。


、キモヲタが優男に声を掛けます。


「お、お主も、ラモーネ殿を布で囲ってくれたり、野次馬を追い払ってくれたり、色々と手を貸してくれたでござるよな。感謝するでござるよ」


「へへっ、旦那にそう言ってもらえるなら、頑張ったかいがあるってもんですよ。なぁ、お前たち」


 優男が左右の美女に声を掛けると


「えぇ」

「そうね」


 と胸元を見せつけるように身体を前に傾けながら、キモヲタに投げキッスするのでした。


、鼻の下を伸ばすキモヲタに、


 キーラとエルミアナは、死んだ魚のジト目を向けるのでした。




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