第184話 キモヲタ名誉男爵率いる仮面の男討伐隊

 ラモーネ・ドルネア公爵夫人が、キモヲタの【足ツボ治癒】によって瀕死の重傷から回復し、心に瀕死の重傷を負ってから三日後。


「そ、そろそろ戻りませんか、ラモーネ殿。あまり遅くなるとお昼時を逃してしまうでござるよ……」


 地下水道のなかで、キモヲタがおどおどした調子の声を上げました。


「もう少しだけお付き合いください。この辺りに下に降る階段があるはずなのです」


 キモヲタたちは、ラモーネが仮面の男たちに襲撃された現場周辺の地下水道を探索していました。


 ラモーネの証言によると、この辺りで仮面の男を発見したということでした。住人を襲っていた仮面の男を、ラモーネはラミアー尻尾キックで撃退します。


 仮面の男は、以前と同じようにまるでロープが巻かれるような動きで、退却し始めたので、ラモーネはその後を追ったのでした。


 仮面の男の身体がスルスルと地下水道の出入り口に吸い込まれていったので、続いて彼女も続きます。


 そのとき仮面の男は地下水道の階段を降りていき、ラモーネもその階段を途中まで確かに降りていった……という記憶がありました。


 しかし、そのときは地下から溢れ出来る強烈な邪気を感じ、これ以上、仮面の男を追うのは危険だと判断したラモーネは、一度、地上に戻ることにしました。


 上階層まで引き返したラモーネが見たのは、複数の仮面の男たちが自分を取り囲んでいる悪夢の状況だったのです。


 激しい激闘が繰り広げられ、仮面の男たちを辛くも退けることができたラモーネでしたが、そのときは自身が瀕死の重傷を負っていたのでした。


 キモヲタによる【足ツボ治癒】で回復してから、丸一日は心のクリティカルダメージで塞いでいたラモーネ。


 しかし、その持ち前の体育会系精神力を発揮して、心のベクトルを仮面の男へのリベンジマッチへと振り向けることで、いつもの調子を取り戻すことに成功したのでした。


 その後、まずラモーネは他のラミアやユリアスを巻き込んで地下水道に潜ろうとしていました。


 そのことでラミアたちが相談しているのを、たまたまその話を耳にしたキーラが


「それならボクたちも付いて行くよ! だってキモヲタは凄いんだから! ショゴタンっていう化け物だって一発でノシちゃたんだからね!」


 それを聞いたラミアたちは、蛇体を地面に打ち付けて飛び上がらんばかりに驚きました。


「一発で!?」

「ショゴタンを!?」

「信じられないわ」

「そんなに強そうには見えないんだけど!?」

「うそっ!?」


 ラミアたちが驚くなか、金髪碧眼青い蛇身のDカップ、ミケーネが顎に手を当てながらつぶやきました。


「もしかしてシンイチ様のような力をお持ちなのかしら?」

 

 そのつぶやきを耳にしたキーラがブンブンと音を立てて頷きます。


「しんいち? よく分かんないけど、たぶんそうだよ! キモヲタは岩トロルだって泣かせちゃうんだから!」


「「「「「「えぇええええ!」」」」」」


 元々は森の中で生活しているラミアたちは、岩トロルの恐ろしさは十分に熟知しています。さらにショゴタンには、自分たちの仲間が何人も襲われており、今ではその名を聞くだけでも身体に震えが走るほどの恐怖を植え付けられているのでした。


「キモヲタ殿は、ショゴタンや岩トロルを簡単に倒してしまうというの?」


 ラモーネはキーラの両肩を押さえて真剣な表情で問い質します。


「うん! ボクはそれを目の前で見たよ! ショゴタンのときは気を失ってたけど、気が付いたときにはキモヲタがやっつけてた!」


 青髪金眼青体でDカップのトリフィンが、キーラに問いかけました。


「もしかして、キモヲタさんって異世界から来た人だったりする?」


 その質問に、ラミア女子たちの視線が一斉にキーラに集まります。


 キーラは大きく頷いて答えました。


「そうだよ! キモヲタはいつも自分のことを、しがない転移者てんいものっていってるよ!」


「「!?」」


 キーラの答えを聞いてラミア女子たちがハッと息を呑みました。


「皇帝陛下と同じ転生者!?」

「きっとシンイチ様と同じような力があるのよ」

「なら何も恐れることはないわね」

「ラモーネに酷い事した報いを受けさせましょう」


 青髪緑眼濃紺体のCカップ。それは決して小さいわけではないのですが、他のラミア女子たちの圧倒的な物量と比較すると、どうしてもなんだか少し残念な気持ちにならざるを得ない、決して小さいわけではないソーシャが、ラモーネの手を取って言いました。


「キモヲタ様の力をお借りして、私たちで仮面の男たちを族滅しましょう!」


 細いくびれによって、Cカップと言ってもDカップ以上に見えるけれども、同じ理由でDやFから1カップアップして見える他のラミア女子たちと見比べると、それを見る者にして、やっぱりどうしても「小っちゃいかな?」と思ってしまうことはどうしても避けられないソーシャの手を、ラモーネはガッシリと握り返しました。


 その二人を他のラミア女子たちが、取り囲んでお互いの肩を引き寄せ合いました。


 そういうことがあって――


 キモヲタのあずかり知らぬところで「キモヲタ名誉男爵率いる仮面の男討伐隊」が結成されたのでした。


 その事実をキーラとユリアスから今朝知らされたばかりのキモヲタ。


 自分自身では女神クエストで「仮面の男の討伐」を受注していたものの、ラモーネをあそこまで追い込んでしまうような、恐ろしい未知の妖異を相手にする心の準備は全くできていませんでした。


 基本ビビリなキモヲタは、エルミアナも加わっての説得にも駄々をこね続けていました。


 が、


 6人のラミアが揃って懇願にくると、一瞬で切り替わって、進んで彼女たちに協力することに決めたのでした。


 乳は偉大なり。


 なのでした。 

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