第169話 仮面の者とカザン地下帝国
~ 妖異 ~
混同されることが多い魔物と妖異ですが、この二つは全く別の存在です。魔物は元々この惑星ドラヴィルダの原住生物であり、単に人間の価値基準で悪しきものとされているにすぎません。
魔族も同じです。そもそも彼らの方がこの星本来の住人であり、神話を信じる限り、人間は7柱の女神に連れられてきた入植者にすぎません。
一方の妖異は「
人間からしてみれば、魔物も妖異も恐ろしい存在であることには変わらないので、普通の人々には見分けがつきません。
しかし経験を積んだ冒険者であれば、両者を見分けることはそう難しいことでもないのです。
それは妖異という存在が、克服しようのない根源的な恐怖を、この星の生き物に呼び起こすからです。
巨大なグレイベアを恐れない熟練の冒険者でさえ、手のひらほどしかない混沌のネズミを見ると、その全身に鳥肌が走り、身を震わせずにはいられません。
また魔物であれば人間に懐くようなこともあります。魔物を専門にテイムする冒険者というのも、それほど珍しいものではありません。また魔族と人間が共存関係を築いている町や村は、この大陸にいくらでも存在します。
しかし妖異は「絶対」と断言できるほどに、この世界の存在と相容れることがありません。
妖異のなかには人の姿を取るものもいて、そういった存在が人間と親交を深めているように見える場合もあります。
ただし、それは何らかの理由で人間を観察するためか、もしくは油断を誘って害をなすためでしかないのです。
こうした妖異がどうして惑星ドラヴィルダに現れるようになったのか。それはこの星を司る七柱の女神にさえわからないと云われています。
もしかすると彼らの通り道にこの星があっただけ。それだけのことかもしれません。
ただ妖異の目的だけはハッキリとしています。
妖異の目的。それは――
「この世界に混沌をもたらし破壊し尽くすこと」
~ 解き放たれたものたち ~
神聖帝国皇帝セイジューは、その強大な力を持って妖異を統率し、このラーナリア大陸の覇権を狙っていました。
異世界から召喚された悪魔勇者である皇帝セイジューには、妖異を制御する力の他に、神話級と呼ばれる強大な妖異を召喚する能力も持っていました。
ただ神話級妖異の召喚には膨大な生命力を消費する必要があるため、彼は無限の治癒をもたらすと言われる賢者の石を求めて、石があるとされるアシハブア王国を目指して進軍していました。
そうした最中、ドラン大平原において人類軍との会戦が勃発。そこで皇帝セイジュウは謎の魔法によって幼女の姿へと変えられてしまい、母国へと逃げ帰ります。
さらにその後、天から降り注いだ神の矢によって、皇帝セイジューは命を落とし、近くにいた神話級妖異の側近たちや黒のドラゴンまでもが壊滅してしまいました。
その結果、皇帝セイジューの支配下にあった妖異たちは統率を失い、それぞれが勝手に行動するようになってしまったのです。
ほとんどの妖異が無秩序に人間を襲うようになりました。それだけではありません。これまで一緒に戦っていた魔族兵たちにまで襲い掛かるようになったのです。
さらに知性を模倣している妖異のなかには、戦場から姿をくらまして独自の目的のために行動するものたちもいました。
彼らは知っていました。
皇帝セイジューの死によって、空に開いた黒いひび割れの意味を。
あの裂け目を通して、やがて久遠なる星々の世界から真の支配者がやってくることを。
星辰が揃い、世界の終焉を告げる鐘が鳴り響くそのときまで、彼らは闇に潜み、力を蓄えることを選んだのでした。
彼らは知っていました。
世界の終焉の告げる鐘を鳴らす者、悪魔勇者が、
もう一人、この世界にいることを――
~ 仮面の者 ~
カザン王国の地下に潜む妖異「深淵の黒い影」も、終焉の鐘を待つことを選びました。
ショゴスとドド=スライムの融合体であったこの妖異は、カザン王国首都で行われた神聖帝国と人類軍の戦いの際に偶然この地下水道を発見しました。
地下水道に侵入した黒い影は、より深い階層へと潜り、その最奥でドワーフによって築かれた地下帝国を発見します。
カザン王家にさえ知られていないこの秘密の帝国には、数多くの亜人種や魔族が暮らしておりました。
そして黒い影はこの地下帝国を蹂躙することにしました。
神聖帝国がカザン王国から撤退するまでの間に、半数の住民が深淵の黒い影に取り込まれてしまったのでした。
数多くの命を喰らったことで進化を遂げた深淵の黒い影は、人型を模倣する力を獲得します。
まるで魔物の仮面を被ったかのようなその姿は、人間というには悍ましく忌まわしいものではありました。
しかし形をまねることで、以前よりも人間に対する興味が湧いてきた黒い影は、仮面の男の姿となって、地上に現れるようになったのです。
カザン王国の首都首都アズマークの闇夜にまぎれては、裏通りを行く人々を捕らえ、捕食するようになりました。
やがて仮面の男は夜の人間狩りに飽き足らず、日中でも地下水道に潜んで人を襲い始めるようになりました。
そしてキモヲタたちが、地下水道に潜って黒スライムを退治するようになったのは、丁度その頃のことでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます