キモヲタ男爵奮戦記 ～ 天使にもらったチートなスキルで成り上がる……はずだったでござるよトホホ ～

第168話 王都の地下に潜む、黒くてものすごく大きな影

「ここ最近、若い女性が行方不明になる事件が多発しているのですが、それがどうも誘拐のようなのです」

　建設が着々と進む夢の国ソープランド。その仮設天幕区画にあるキモヲタの天幕にユリアスがやってきました。

「誘拐事件のうち何件かは地下水道を使っていたようなのです。キモヲタ様は、最近はずっと地下水道に潜っておられるとか。何か地下で怪しいものを見かけたりしていませんか」

　この事件の調査を大使館を通じてカザン王国から依頼されたユリアスは、首都中を駆け回っていたのでした。

　どうみても美少女にしか見えないその顔には、疲れが浮かび上がっていて、目の下にもクマができているほどでした。

　その様子を見て心配になったキーラが椅子に腰かけているユリアスの背後に回って、その肩をもみほぐします。それを見てソフィアがユリアスの手をとって手のひらをマッサージしはじめました。

「ユリアス、大丈夫？　凄く疲れてる顔をしてるよ。地下水道のことなら、ボクたち最近はほとんど毎日潜ってるから、何か手伝えることがあったら言ってね」

　キーラの言葉を聞いてソフィアも頭を上下に振りました。

「あぁ、キーラ殿、ソフィア殿。本当にありがとうございます。こんな可愛い娘さんたちから労わってもらえるなんて、ここ徹夜の疲れなんて吹っ飛んでしまいますね」

　二人の美少女からもみもみされているのを羨ましそうに見ながら、キモヲタがユリアスの問いに答えました。

「キーラタソの言う通り、我輩たちはずっと地下水道に入ってはござる。ただ大ネズミ退治クエストで地下一階をうろついているだけなのでござる故、深い階層のことはわからんでござるよ。ただ……」

　そこでキモヲタは自分たちにとっては見慣れたもの故に、見落としていたある事実に気がつきました。

「そういえば黒スライムの数が異常に多い気がしますな。我輩たちは毎日のように黒スライムを狩りまくっているでござるが、一向に減る様子がないでござる」

　キモヲタにとっては、黒スライムは楽にEONポイントを稼ぐことができる、言わば「おいしい雑魚妖異」に過ぎません。

　そのため、これまではどれだけ数が多かろうが気にすることはなかったのです。

　しかし、あらためて考えてみれば、あれだけ毎日のように狩りまくっている黒スライムが減らないのは異常なことだと思い至りました。

「ふむぅ。もしかすると深い階層にドド＝スライムでもいるのではござらんか」

「それは確か洞窟で退治したあの巨大なスライムのことでしょうか」

　ユリアスは洞窟の奥で見た巨大な黒スライムのことを思い出し、思わず身震いをしました。

「あの恐ろしい姿を思い出すだけで寒気がしますね。キモヲタ様と一緒に戦っているときにはまったく怖くなかったのに不思議です」

　妖異は大なり小なり人間に精神汚染をもたらします。ドド＝スライムともなれば、本来、普通の人間を狂気に追い詰めるほどの影響がありました。

　しかし、キモヲタが冒険者パーティーとしてユリアスたちを登録することによって、この精神汚染を軽減することができていたのでした。

　キーラもユリアスと同じように、ドド＝スライムのことを思い出して思わず身震いします。

「あの大きなスライムのことを考えるだけで怖くなっちゃうよね」

　キーラたちが毎日焼き尽くしている黒スライムも、普通の人間が見ればそれなりの精神汚染を受けてしまうものです。ただキーラもソフィアもほぼ常時キモヲタの冒険者パーティーに登録されていたので、まったく影響を受けていませんでした。

　それどころかキーラに至っては、黒スライムを「ポイントがガッポガッポ稼げるおいしい得物」認定していたので、もしパーティー登録されていなかったとしても、まったく問題ないどころか、黒スライムに愛情を抱きかねないほどだったのです。

　そして、そんなキーラでさえドド＝スライムのことを思い出すと、若干の恐怖を感じてしまうのでした。

　二人の美少女にもみもみされて、かなりリラックスした声でユリアスが、

「あの恐ろしいスライムが地下水道の奥深くに潜んでいるのだとすれば、行方不明者が多発している事件と結びついてもおかしくありませんね」

　というのを、うらやま視線を向けながら聞いていたキモヲタ。

　ふとキモヲタは女神クエストのことを思い出しました。

「そう言えば、ドド＝スライムなら女神クエストが出ていてもおかしくないでござるな。久々にチェックしてみるでござるか」

　そしてキモヲタは脳内ウィンドウを開いて女神クエストの一覧を表示しました。

≫ 受注可能な女神クエスト一覧

≫ ● 悪魔勇者を探せ！ 報酬：EON5200万ポイント

≫ ● 悪魔勇者を倒せ！ 報酬：EON61億ポイント

≫ ● 悪魔勇者眷属を探せ！ 報酬：EON3200万ポイント（個体毎）

≫ ● 悪魔勇者眷属を倒せ！ 報酬：EON4億ポイント（個体毎）

≫ ● 妖異 ショゴタンの狩猟 報酬：EON400万ポイント（個体毎）

≫ ● 妖異 ヒトデピエロの狩猟 報酬：EON250万ポイント（個体毎）

≫ ● 妖異ドド＝スライムの狩猟 報酬：EON300万ポイント（個体毎）

≫ ● 妖異 黒スライムの狩猟 報酬：EON5000ポイント（個体毎）

≫ ● 緊急！ カザン地下帝国の危機（妖異ドド＝スライムの狩猟） 報酬：EON700万ポイント

≫ ● 緊急！ カザン地下帝国の危機（妖異 仮面の者の討伐） 報酬：EON3000万ポイント

「な、なんじゃこりゃあぁぁでござるぅぅ！」

　女神クエスト一覧を見て絶叫するキモヲタ。

　……を見て、いよいよキモヲタが「本当に頭がおかしくなったのでは？」と割と本気で心配するキーラとソフィアとユリアスなのでした。