第165話 楽園ソープランド建設ともの凄く太いソーセージ
楽園ソープランド建設利権を巡るマフィアの抗争で、勝利を掴んだマダム・バタフライ。彼女の勝因は、キモヲタの【足ツボ治癒】でした。
命が救われたうえ、カザン首都の裏のトップに昇るきっかけをつくってくれたキモヲタに、マダムは大変な恩義を感じていました。
なのでキモヲタの【足ツボ治癒】のことは黙っておいて欲しいという願いを、彼女は固く守るつもりでいました。
ただ敵対勢力から送られてきた刺客によって、明らかな致命傷を負っているのを見ていたのは幹部や手下たちだけではありません。
幹部や手下は、秘密を守るようにという彼女の厳命が強く守られていたのですが、そのときたまたま現場に居合わせた人達の口まで閉じさせることはできませんでした。
結果、マダム復活の奇跡の噂が首都のあちこちで囁かれるようになりました。ただキモヲタのオークっぽい外見と、どうみても小物っぽい普段の立ち振る舞いから、その噂をまるまる信用する人は多くなかったのでした。
ただ北西区の住民だけは違っていました。特に北西区南側の住民のなかで、いまやキモヲタ名誉男爵のことを知らない者はほとんどいません。
北西区の住民は「真実の口」の奇跡がはじまる前から、キモヲタの【足ツボ治癒】を受けていたためでもありました。
しかし、それ以上にキモヲタの名が北西区の人々に広まったのは、キモヲタ名誉男爵によるソープランドの建設によるものなのでした。
ソープランド建設が始まってから一カ月。今は、ソープランド建設予定地に造られた天幕区画で生活をしているキモヲタたち。
建設を急ピッチで進めていくために、キモヲタにはなるべく現場の近くにいて欲しいというシスター・エヴァの要望もあって、天幕が用意されていたのでした。
ちなみに関係者全員による要望と努力の結果、キモヲタの天幕は天幕区画のなかでも最大の大きさと豪華さを誇っています。
なかは6つの仕切りがあって、キモヲタの部屋、キーラとソフィアの部屋、エルミアナの部屋、エレナの部屋、応接部屋となっていました。
プライベートな空間は保たれているものの、音は遮断できないため、電動ふにふにが使えないのがキモヲタにとって唯一の不満でした。しかし、柔らかいベッドに清潔なシーツ、そして魔鉱灯によって優しく照らされる部屋は、身体を休めるには最適な空間になっていました。
最近では目覚めも良くなったキモヲタは、毎朝、ソープランド建設地をぐるりと回って散歩するのが日課となっています。
「男爵! おはよう! 今日もキーラ様もソフィア様も、おはようございます!」
天幕の外に出ると、早朝から働いている人々がキモヲタたちをみて声を掛けてきます。
「キモヲタさん、今日も早いんだな! キーラ様、ソフィア様は今日もカワイイよー! これ持ってきな!」
そう言って労働者に朝食を提供している露店の親父が、アシハブア王国から伝わったイリアーズホットドックと呼ばれる食べ物を三人に手渡しました。
「店主、いつもすまないでござるな」
「ありがと! サーランドさん!」
「ありがとうございます」
お礼を言った後、三人は路上に並んだテーブルに腰を下ろして、もの凄く太いソーセージが挟まれているイリアーズホットドックを食べ始めます。
するとエプロン姿の女性が近づいてきて、三人の手元にカップを置きました。
「おはよう、キモヲタの旦那! これ搾りたてのマウンテンベリージュースだよ。キーラ様もソフィア様も、たくさん飲んでってね」
三人が礼を言うと、エプロン姿の女性は手を軽く振りながら、自分の店に戻っていきました。
三人が美味しく食事をしている間にも、通りゆく人々はキモヲタたちの姿を見とめると会釈したり軽く挨拶をしていきます。
それら皆が北西区の住民であり、キモヲタのソープランド計画によって衣食住と職を得ることができた人たちでした。
彼らはキモヲタのことを今では「男爵」とか「旦那」とか呼ぶようになっていますが、最初のうちは「キモヲタ様」とか「男爵様」とか「様」を付けていました。
それがひと月もする頃には、キモヲタに親しみを持つようになり、自然と「様」が外れるようになった……とキモヲタは解釈していました。
一方、最初は「キーラちゃん」とか「ソフィアちゃん」とか「嬢ちゃん」とか呼ばれていたキーラとソフィア。
それがひと月もする頃には「キーラ様」とか「ソフィア様」とか「お嬢様」と呼ばれるようになっていたのでした。
それは、ひと月の間キモヲタたちを観察し続けた北西区住民たちが、自然と把握したキモヲタたちの序列によるものでした。
序列第一位 キーラ
序列第二位 エレナ / エルミアナ
序列第三位 ソフィア
序列第四位 ユリアス
序列最下位 キモヲタ
これはキモヲタたちが買い物や食事をしている様子や、打ち合わせや会議などに出席していた関係者たちの証言によって推測された結果なのでした。
キモヲタたちが紅蝶会の天幕近くを通ると、たまたま優男と取り巻き女性と出くわしました。
「お早う! キモヲタの旦那! それにキーラ様もソフィアお嬢も!」
優男や北西区の住民が自然と付けている序列に、キモヲタが気づくことはありませんでした。
そもそも仲間のなかで自分が序列最下位であるのは、最初から身に沁みついているので、気づくも何もなかったのでした。
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