第162話 ルネッサンスじゃない方の男爵でござる!?

 最初にシスター・エヴァと取り決めていた目標額を超えてからは、徐々に「真実の口」は店じまいに入っていきました。


「うほぉおおおおお❤」


 復興局の地下室でサンチネーゼ子爵夫人は、足に走る痛みと全身を貫く快感に、ここ数十年出したことがないような声を上げていました。


「はぁ……はぁ……なんだか身体の調子がよくなった気がするわ」


 治療が終わった後、夫人は自分で立ち上がると、シスター・エヴァに手を取られて箱部屋から出てきました。


「実際、とても顔色がよくなられましたよ。お肌もハリとツヤが各段に良くなっていますね」


 そう言ってシスターは、夫人に手鏡を向けながら「真実の口」による美容効果を強調します。


「はぁ……それにしても奇跡の力が弱くなってきているのは本当に残念だわ。もし、もっと前に来ていれば、20年くらい若返ることができたのでしょう?」


「この奇跡は永遠のものではありません。もう間もなく完全に消えてなくなってしまうことでしょう。力が弱まってきているとはいえ、いま奇跡を授かることができたのはサンチネーゼ夫人のに女神様がお応えになられたということでしょう」


「シスターの言うとおりね。女神がわたくし与えてくださったことに感謝しなくてはね」 


「どうぞ、その感謝をこれからも銭……善行でお示しください」


 本音を隠しきれていないシスターなのでした。


 このように「真実の口」の店じまいは、キモヲタが【足ツボ治癒】の発動を徐々に弱めていくことで進められていきました。

 

 それから一週間かけて店じまいしたときにキモヲタが得た金額は金貨二万五千枚。一口に金貨と言っても様々な種類があるため、金貨の枚数だけではその価値にはかなりの幅があります。


 とはいえ、その額がカザン王国の経済に及ぼす影響は非常に大きいものとなることは間違いありません。


 そしてキモヲタはこれらの金貨を使って、北西区の復興発展のための基金を設立し、北西区住民の生活の安定や教育・医療の充実に力を入れる計画を立てたのでした。


 本当なら、その金で戦火から遠く離れたアシハブアの首都近郊に豪邸を立て、メイドを30人雇って、全員紐ビキニでウハウハ生活を送るつもりでした。


 しかし、今回得たお金は全て北西区の人たちのために使うべきだというキーラの涙の訴えと、その隣で目を潤ませて見つめてくるソフィアの無言の圧にしまったのでした。


 そしてエレナとエルミアナも交えてキモヲタ会議を開催した結果、医療と温泉テーマパークを兼ねた施設を作ることにしたのです。


 大使館詰めだったためキモヲタ会議に参加することができず、最後にこの話を知ったユリアス。これからキモヲタが行おうとしていること事の重大さを、正しく理解したのでした。

 

 賢者の石の報酬をキモヲタに手渡したその日のうちに、ユリアスは第二回キモヲタ会議の開催を要求し、すぐに地下室で会議が開かれます。


「キモヲタ様がこれから行おうとされていることに、私にもぜひ協力させてください。私に考えがあります!」


 キモヲタに熱く迫るユリアスに、エレナが横から声をかけます。


「それは、あなたがアシハブア王国の騎士として協力してくれるということでいいのかしら?」

 

「もちろんです!」


 ユリアスは大きく頷き、そしてキモヲタの手を取りました。

 

「キモヲタ様の夢の国を実現するためには、これから数多くの交渉を乗り越えていく必要があります。そのために何の後ろ盾もないままでは、何かとご苦労されることになるでしょう。貴族相手では特に後ろ盾が重要になることが多いのです」


「そ、そうなのでござるか……?」


 前世ではプロのヒキニート経験しかないキモヲタは、交渉と聞いただけでビクついてしまい、助けを求めてエレナに視線を向けました。


「ユリアスの言う通りよ。特に利益よりも面子を重んじる貴族なんかだと、交渉どころか門前払いが落ち何てザラにあるわよ。もちろん色々な絡め手もあるけど、かなり遠回りすることになるでしょうね」


「はぁ……なんだか面倒でござるな」


 一気にモチベーションが下がるキモヲタ。紐ビキニメイドが実現しないことが確定した現在、もう全部エレナに丸投げしようかと考えているキモヲタなのでした。


「そこで!」


 ユリアスがキモヲタの目の前に顔を寄せました。今ではユリアスが男の娘姫騎士であることをキモヲタは知っています。だからといってユリアスの美少女っぷりが何ら変ることなく、碧眼美少女(♂)のプルンとした唇にドキリとするキモヲタ。


 しかし、その唇から出て来た言葉はさらにキモヲタを驚かせるものでした。


「キモヲタ様には、アシハブア王国の名誉男爵になっていただきます!」


「男爵って……じゃが芋のことでござるか?」


 ユリアスの突然かつ突拍子もない提案に、すぐに理解が及ばないキモヲタ。再び困惑した目をエレナに向けました。


「キモヲタが何を勘違いしているのか分からないけど、たぶん芋のことじゃないと思うわよ」


「芋ではなくて名誉男爵になっていただきたいのです!」


「つ、つまりルネッサ~ンス! の方の男爵でござるか!?」


「……」※ユリアス

「……」※エレナ

「……」※エルミアナ

「……」※キーラ

「るねっさんす?」※ソフィア


 全員が「またキモヲタオークが変なこと言ってる」という視線をキモヲタにぶつけてくるなか、小声でそっとつぶやいてくれたソフィアに心を救われたキモヲタなのでした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る