第161話 豪邸にメイド30人くらいは許されるでござるよね?

 ユリアスから受け取った賢者の石クエスト報酬金貨30枚。


 それに対して、まるで賢者モードのときにグラビアページを見るときのような視線を向けるキモヲタ。


 逆に大喜びしているキーラの姿に、首を傾げるユリアス。 


 キモヲタたちが、シスター・エヴァのところで何かをしていることはユリアスも知っていました。ソフィアの身請けもあったので、もしかするとお金が入用になっているかもしれないと、急いでキモヲタにお金を届けにきたのでした。


 さらには、最初に取り決めていた報酬よりも金貨5枚を増額していたので、ユリアスとしては二人に喜んでもらえると期待までしていました。


「今のキモヲタにとっては、その金貨が砂粒にしか見えていないのよ」


 突然、背後からの声に振り返ると、シスター・エヴァの執務室の扉にエレナが立っていました。


「エレナ殿!? キモヲタ様は一体どうされたのでしょうか。私たちの報酬が少なかったということですか?」


 エレナは静かに首を横に振りました。


「それは今のキモヲタが『金貨二万枚の男』だからよ」


 エレナは、キモヲタがシスター・エヴァとのウィン=ウィン契約によって巨額の金貨を得たことをユリアスに説明しました。


「つ、つまり、今のキモヲタ殿は金貨二万枚を保有しておられると……」


「そうよ」


 エレナが両腕を前に組んでGカップのたわわな胸を持ち上げました。


 いつもであれば、その瞬間、キモヲタの視線はGカップに注がれるところです。なんなら身体ごとエレナの方に向けていたはずです。


 しかしキモヲタは反応を一切示しませんでした。


「なっ!? キモヲタ様の視線がエレナ殿の胸に行かない!?」


(デュフフ。紐ビキニメイドもいいでござるが、清楚系メイドも欠かせませんな。黒髪パッツンの委員長タイプのツンデレメイドも捨てがたい。いや、捨てる必要はないでござるな。何せ我輩は億万長者でござる。フォカヌポー)


 などと考えていたキモヲタに、エレナのおっぱいに気を取られてしまうような隙はないのでした。


 そんな妄想を続けるキモヲタに、哀れな者を見るような目線を送りながらエレナが言いました。


「たぶん巨万の富を手にしたから、豪邸を買って沢山のメイドを雇ってエッチなことをさせようとか考えているんじゃないかしら」


「えぇ!?」


 と驚くユリアス。


「えっ?」 


 と同時にキーラが間が抜けたような声で言いました。


「なに言ってるのエレナ? このお金はぜんぶ北西区の人たちのために使うんだよ?  

南橋の子どもたちの身請けとか、家族を失ったり住む家や仕事がなくて苦しんでいる人たちのためのお金だよ。金貨1枚だって遊びに使ったりするわけがないじゃない! そのことはエレナにも話したよね」


「えぇ、確かにその通りよ。でもそのことについてキモヲタの理解がちょっと足りていないみたいね」


「そんなわけないよ。だって、これはキモヲタと一緒に決めたことなんだから」


 キーラがキモヲタに振り返りました。


「えぇ!?」


 キーラの後ろでは、妄想から目覚めたキモヲタの眼が点になっていました。


 なんなら目の端に涙が浮かんでいるくらいでした。


「えぇっと……沢山お金があることですしおすし、豪邸とメイド30人くらいは駄目でござろうか……」


「キモヲタ! みんなで決めたでしょ! このお金は北西区の人たちのために使うって! みんなが安心して暮らしていける、じぞくかのうな夢の国を作るって言ったじゃん!」


 金貨二万枚を得てから、お金が狙われないかと疑心暗鬼になったキモヲタ。自身への【足ツボ治癒】でも精神の疲労は癒せないたため、だんだんと被害妄想が強くなり、教会の地下からまったく出ようとしなくなりました。


 心配したキーラはエレナとエルミアナを呼んで、キモヲタと一緒に話し合った結果、このお金は北西区のひとたちのために使おうと決めたのでした。

 

 キモヲタは、お金の使い道について最初のうちはかなりの抵抗を示していました。しかし、お金に執着するあまり言動がおかしくなっていくキモヲタを、本気で心配していたキーラのガン泣きによって正気を取り返したのでした。


 ただし、そこはキモヲタ。正気を取り戻したところの、正気のレベルが欲望にまみれているので、「もしかすると、少し自己主張すれば、少しくらいは贅沢が許されるのでは?」という初期位置に戻っただけでした。


「では、豪邸ではなく中邸にして、メイドは5人くらいなら……」


「駄目! お金が欲しいなら、これからまた稼げばいいじゃん! でもこのお金だけは夢の国のために使うの!」


 みんなで決めたことだからと言う理由以上に、キモヲタがまたおかしくなってしまうのを本気で心配しているキーラ。つい声が荒らいでしまいます。


 キモヲタは、キーラが怒鳴る声の中に泣き声成分が滲んでいるのを感じていました。それは自分のことを心配してのことだと理解したキモヲタは、胸の中が暖かくなってくるのを感じました。


「そうでござったな。キーラたん……このお金は北西区の人たちのためにこそ使われるべきでござった」

 

「そうだよ……そうしようよ、そうしないときっとキモヲタが変になっちゃう」


「分かったでござる。ところで中邸じゃなく小いさな家でメイド2人……」


「駄目!」


 どこまでも諦めの悪いキモヲタなのでした。






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