第158話 シスター・エヴァとのお約束
若返りを求めて「真実の口」へやってくるセレブ層に対しては、詐欺師顔負けの煽りでお金や資材を分捕りに行くシスター・エヴァ。
普通に怪我や病気の治癒を求めてやってくる北西区住民に対しては、天使か菩薩のように慈悲と慈愛に溢れる応対を取るのでした。
午前中の北西区住民に対するシスターと、午後のセレブに対応するときのシスターのあまりな違いに、最初のうちは困惑していたキモヲタ。
しかし、美容やおちんちんパワー回復のために、普通のピーポーなら数年は働かずに遊んで暮らせるような額の金貨をポンポンと出すセレブたちを見ているうちに、キモヲタもだんだんとシスターのやり口に賛同するようになってきたのでした。
キモヲタが賛同の意志をシスター・エヴァに伝えたときに彼女は言いました。
「あの人たちにとっては、若返りができる上、復興に貢献したという名誉が得られるのです。それに多額の寄進をすると、その一部はふるさと納税と見做されて税金対策にもなっているのですよ。なので遠慮など一切不要! もっとガンガン行きましょうね、キモヲタ様!」
満面の笑顔をキモヲタに向けるシスター。いつの間にかキモヲタもシスター・エヴァの
美容とおちんちんパワーの回復治癒にしか興味がないセレブ層に対して、北西区住民は怪我や病気が、かなり深刻な状態の人々が少なくありません。
右手を失った元重騎士の青年グレーケンも、そうしたひとりでした。
欠損の治癒は、大陸で数人しかいない聖女にさえ困難な奇跡とされています。キモヲタの【足ツボ治癒】にその力があることをしったシスター・エヴァは、キモヲタのことを女神ラーナリアの遣わした聖人であると確信していました。
しかし、女神ラーナリアに使える天使の導きによって、この世界に転移してきたキモヲタですから、シスター・エヴァの考えがまったく的外れということでもなかったのです。
「真実の口」ビジネスを始めて、キモヲタが思わずやっちゃった最初の欠損治癒で、シスターはそのことの重大さをさをすぐに理解しました。
(このことが権力者に知られてしまったら、キモヲタ様の身が危ない。きっと囲い込まれて彼ら専用の治療器具にされてしまいます)
その立場上、王侯貴族と接する機会が多かったシスター・エヴァは、そうした権力者たちの思考を的確にトレースすることができていたのでした。
(できるものであれば私が囲いたいくらいです。しかし、この御方は間違いなく女神ラーナリアが遣わされた聖人。女神様から与えられた使命があるはず。それを私個人の思いで歪めてよいわけがありません)
なんなら若返ったことだし、まだ多くの男性の視線を釘付けにする魅惑なボディでキモヲタをパフパフして篭絡できないかと考えたシスター・エヴァでしたが、なんとかギリ信仰心の方が勝っていたのでした。
そしてキモヲタの力がバレるリスクを回避するため、欠損治癒を控えさせようかと悩んだシスター・エヴァ。
しかし、結局そうはしませんでした。
キモヲタが欠損治癒を思わずやっちゃうことを確実に防ぐことはできないでしょうし、それに苦しむ人々を治癒することこそが女神ラーナリアのご意志なのだと考えたからでした。
結果としてシスター・エヴァは、欠損治癒が行われたときに言いくるめで応対することにしたのです。
先日、右手が再生したグレーケンに対しては、
「ところで、グレーケンさんのように失われた身体が復活する奇跡を授かった方には、女神ラーナリア様との約束をお願いしています」
「なんだって必ず守ります! 女神に誓って!」
右手を取り戻して感激しているグレーケンに、シスターは微笑みながら告げます。
「この奇跡を他人に吹聴してはなりません。そのまま戻って、まるで最初から右手が失われていなかったように普通に過ごすのです」
「わかりました! 必ずそうします!」
「他人に問われた際も『真実の口』によって治癒されたことを語ってはなりません。もし問い詰められたときには『へっ!? 俺の右手いつの間にか治ってんじゃん! すっげ! 超すっげ! 女神ラーナリア様の奇跡? やっべ! 女神様やばくね? やばくね? やばいよね? すっげ! やっべ! 俺の右手治って超ウケルゥゥ!』とウザキャラ化して絡み返すのです」
「必ず、必ずそうします!」
このような対応を欠損再生者に行い続けてきた結果、北西区で再開をはじめた酒場のあちこちで、ウザ絡みされる客が見られるようになってきたのでした。
実際のところ、欠損治癒の奇跡が「真実の口」によるものであることを、ほとんどの北西区住民たちは薄々と察していました。
住民たちが欠損が再生した者から話を聞こうとすると、誰もが一様にキョドリはじめ、次にウザ絡みしてきます。
そのうち住民たちは、シスター・エヴァが「真実の口」の奇跡を秘密にしたがっていることを理解して、そっとしておくことにしたのでした。
住民たちがシスターに協力しようと考えたのは、女神ラーナリアの信仰心からではありませんでした。シスター・エヴァが北西区の復興のために、まさに命を削って尽力し続けてくれていることを知っていたからです。
「えっ!? 俺の足、生えてる!? まじまんじ!? 超やっべ! 女神すっげ! やばくね!?」
今日も北西区の酒場では、誰かが誰かにウザ絡み返しをしているのでした。
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