第153話 女神ラーナリアの啓示と銭ゲバシスター
青い瞳の中に金貨を浮かべたシスター・エヴァは、キモヲタに毎日、北西区復興局で【足ツボ治癒】をして欲しいと考えていました。
キモヲタには前々回までの訪問で、復興局に身を寄せている全ての重傷者や病人を治癒してもらっていました。
そのときには【足ツボ治癒】が終わってクタクタになっているキモヲタとキーラの姿を見て、負担を掛けることに申し訳ない気持ちで一杯のシスターでした。
その次のキモヲタ訪問辺りから、「真実の口」の奇跡を聞きつけた北西区以外の人々が元教会である復興局にたくさん訪れるようになってきたのです。
ところが外から訪れる者のほとんどは重傷者でも重病人でもありませんでした。というのも彼らが聞いた噂というのが、シスター・エヴァの若返りの奇跡だったからです。
そのため彼らが求めているのは怪我の治癒ではなく「若返り」なのでした。若さを求めてやってくるのは、健康と美容のためならいくらでも金にもの次ぎ込むことができる富裕層。
さらには金にものを言わせれば、いくらでも自分の我儘が通ると思っている連中です。
戦災ビジネス成金、貴族の夫人、大商家の娘、有力者の子息など、およそ今の北西区には似つかわしくない人々が復興局へと訪れるようになりました。
そのなかにはシスター・エヴァとの面識のある者も多く、そうした人々はシスターの容貌の極端な変化に驚愕することになるのでした。
そして彼らの口伝えによって、また多くのセレブマダムが「真実の口」の奇跡を求めて北西局を訪れるようになりました。
実際にキモヲタが来ないと治癒はできないので、シスターは色々と口実を設けて、彼らに奇跡が起こるのは辛抱強く待つ必要性があることを説きました。
そこでセレブマダムたちは待つことにしたのです。
といってもセレブが普通に並んで待つわけがはなく、複数の護衛を引き連れたり、冒険者を雇って並ばせたり、金にモノをいわせるパワープレイを展開していました。
その結果、北西区の南橋から復興局前までに長い行列ができてしまったのでした。
「そういうわけでござったか。ほんと金持ちというのは禄でもないでござるな。金にものを言わせ、ここにいる沢山の怪我人を押しのけてまで、若返りの治癒を受けようなどと……」
復興局内の診療区画を指差して、キモヲタの声は中断してしまいました。
「怪我人……いないでござるな」
「ええ。ここに身を寄せている傷病人たちは、キモヲタ様によってみな治癒していただきました。なので実は前回、お待ちセレブの方も何人か『真実の口』に入っていただいています」
「えぇえ!?」
「も、申し訳ありません。その方々は以前、教会に多額の寄付を戴いた方だったので……。で、ですが、彼女たちの治癒が終わったとき、私に女神ラーナリアの啓示が降りて来たのです! キモヲタ様とウィン=ウィンでイケと!」
「それ魔神の啓示の間違いでござらんか!?」
ドン引きするキモヲタに縋りついて、とにかく話を聞いて欲しいと泣きつくシスター・エヴァ。
仕方なくシスターからウィン=ウィン話を聞いたキモヲタたち。そのなかで、一番乗り気になったのはキーラでした。
「キモヲタ! シスターの話に乗ろうよ! お金持ちたちから、たくさんお金をもらって、そのお金でたくさん身請けしよう!」
キーラの瞳に金貨を浮かべさせたシスターのウィン=ウィン話。それは若返りを求めてやってくる富裕層から、多くのお金をぶん取るというものだったのです。
~ 武器商人ハンス ~
傭兵から武器商人に転職して富裕層に成り上がったハンス。今では数多くの愛人を抱えるようになったのですが、そんな彼には悩みがありました。
昔は「カザンの種馬」と呼ばれ、毎日のように娼館通いしていたハンスも、老年に差し掛かったいま、その精力の衰えを感じていたのです。
つまり怪我でも病気でもなく、かつてのおちんちんパワーをを取り戻すために「真実の口」の奇跡を求めていたのでした。
そして今、ハンスは「真実の口」の箱に入って、暗闇の中でシスター・エヴァの声に耳を傾けていました。
「おぉ、ハンス! あなたは女神ラーナリアの神聖な奇跡を、愛人たちとのお楽しみタイムを増やすために利用しようと言うのですね」
「い、いや……そういうことではない。魔族軍の掃討で、最近また武器取引が増えてきていてな。あちこち飛び回るためにも体力が必要なのだ」
「わかりました……あなたが女神に不誠実であることが……」
シスターの声は、地獄の底から響くかのように低く重々しいものでした。
「ハ~ンスゥ!」
「ひぃい!?」
「あなたがラーナリア女神にどれだけ誠実なのかそうでないのかハッキリさせましょう。ズバリ、貴方の誠実さは金貨で言うと何枚ですか?」
「えっ!?」
「金貨何枚ですか!?」
「ご、五十枚?」
「ハァアアアアアアアアア? 戦場で死者から奪った武具で大稼ぎしておいて、たった金貨五十枚? あっ、あ~、申し訳ありませんでした。最近、私どうも耳が遠くなっていますので、きっと聞き間違いだったのでしょう。ですよね、ハ~ンス?」
「へっ、あっ……そ、そうだった。本当は金貨六十……」
「まさかまさか、大商人ハンス様ともあろう御方が金貨2桁とか、そんな女神を侮辱するような不誠実なことはないですよね」
「え……」
「ねっ?(圧)」
「き、金貨100ま……」
「もう一声!(圧)」
こうしてシスター・エヴァのお説教に感動したハンスは、結局、金貨200枚を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます