第152話 美人シスターと真実の口に集まる人々 

「あの……キモヲタ様、どうか私のわがままを聞いていただけないでしょうか……」


 美人シスターから甘ったるい声で上目遣いに迫られるキモヲタ。その後ろではソフィアの手を握るキーラが、シスター・エヴァの色香に惑うキモヲタの尻に蹴りをいれようとしているところでした。


「ねぇ……お願いできませんか? キ・モ・ヲ・タ・さ・ま」


 若かりし頃は、美しすぎるシスターとしてその名を首都中に轟かせていたシスター・エヴァ。キモヲタがはじめて出会ったときも、老い始めたとはいえ、まだまだ美魔女として十分に通用する容姿を保っていました。


 それがキモヲタのフルパワー【足ツボ治癒】によって2~30歳も若返ったものですから、それはもう前世繰り越しDTのキモヲタの情欲など、シスターにとっては手のひらで転がすように簡単なことでした。


「はわわっ! はわわっ! 美熟女おっぱいシスターキタコレでござる! はわわでござる!」


 今ではセミロングまで伸びた輝くブロンドの髪と、サファイアのように美しく輝く青い瞳を持つシスター。


 懇願するように身体の前で両手を組むことで、もともと豊かな胸をさらに盛り上げさせてキモヲタの視線を釘付けにするのでした。


「ももも、もちろん我輩、シスターのお願いなら何でも聞いてしまうで……ぎょぼあぁあ!?」


 バシーン!

 バシーン!


 キモヲタが返事を言い切らないうちに、そのおケツにダブルの衝撃を受けたキモヲタ。


 キーラとソフィアから強烈なケリを喰らっていたのでした。


「キモヲタ! デレデレし過ぎ! ちゃんと話を聞かないで返事するなんて!」

「キ、キモヲタ兄さま……その人の胸ばかり見過ぎです」


 強烈な痛みで涙目になったキモヲタはお尻をさすりながら、


「い、今から聞こうと思っていたでござるよ……トホホ」


 と言い訳するのでした。


「そうなんだ。ごめんね! それでシスター、ボクたちにお願いってなんなの?」

  

 キモヲタの言い訳をスルーして、キーラがシスターの要望を確認しました。


 シスター・エヴァの要望は簡単な話で、できれば毎日この北西区復興局に来て欲しいということでした。


 というのも、キモヲタの【足ツボ治癒】によって、足の不自由だった子どもが歩けるようになり、目の見えなかった少女が再び見えるようになったことが、あっという間に北西区の人々に知れ渡っていたからでした。


 特に、浮気ばかりして禄でもない亭主だった男が、まるで聖人になったかのように改心した奇跡は、北西区のみならず首都にいる主婦層の心を惹き付けたのでした。


 またシスター・エヴァの若返りは、色気にのぼせた男たちよりも、北西区のみならず首都にいる主婦層の圧倒的な関心を集めることとなったのです。


 もちろん、実際にその奇跡を起こしているのがキモヲタであることは、今のところは完全に隠しおおせています。


 人々の噂にのぼるのはあくまで「ウドゥンの口」や「真実の口」によって引き起こされた奇跡ということになっているのでした。


「北西区の奇跡は、いまや首都中で噂になってしまいました。病気や怪我の者だけでなく、夫の改心や若さを求める主婦が集まって集まって大変な状況になっているのです」


 シスターの話を聞いて、キモヲタは目を開きました。


「教会の前から南橋まで続くやたら長い行列は、もしかして【真実の口】目当ての人々だったでござるか!?」


「そうです。キモヲタ様がご覧になられた人々は、真実の口の奇跡を待ち望んでずっと待っているのです」


 キモヲタはここに来るまでの道程で見かけた行列のことを思い出していました。


「えっ、あれ待ち行列なのでござるか? なんかテントとか張られてたり、炊き出しがあったりしてたでござるが……国境で入国許可を待つ難民かと」


「ここに国境はないですし、あの人たちは難民でもありませんが、大体そんな感じです」


「感じ!?」

 

「はい。あの方々はキモヲタ様の【足ツボ治癒】を受けるまでは還らぬ覚悟を全員が持っておられます。今のキモヲタ様の三日か四日くらいに一度訪問などというペースでは、彼らを何年もあそこに留め置くことになってしまうのです」


 キモヲタは延々と続く行列を思い出し、声を荒げました。


「いやいや、毎日来たところであれだけの数を裁き切れるものではござらんですぞ!」


 キモヲタの【足ツボ治癒】では助手を務めることになるキーラも、行列の長さを思い出してシスターに喰い掛かります。


「そうだよ! こう見えてもキモヲタは忙しいんだから! 北西区の人たちには同情するけど、だからってキモヲタを使い潰していいってことにはならないでしょ!」


 キーラの迫力にタジタジとなるシスター・エヴァ。しかし、完全に引き下がることはありませんでした。


「もちろん。キモヲタ様には十分な報酬を用意するつもりです。正直申し上げまして、この度の『真実の口』の一大ブーム。私としましては、北西区復興に必要な費用を獲得するための女神がくださったチャンスととらえているのですよ」


「ふむ? どういうことでござるか」


 キモヲタは初めてみるシスター・エヴァの表情に首をかしげていました。


「銭のお話ですわ」


 シスターは指でわっかを作るとニチャリとした笑いを浮かべました。


「なにそれ詳しく!」


 銭の話になった途端、キーラが目を輝かしてシスターに尋ねました。最近のキーラは、お金と力がないことで、救いたいものを救えないという挫折を経験していたので、儲け話にはついつい喰いついてしまうのでした。


「そこはほら、ウィン=ウィンの関係を築きたいということでございまして……」


 だんだん口調と表情が怪しい商人になっていくシスターと、その怪しさに気づかずシスターに無邪気な眼差しを向けるキーラ。


 それに対し、


 これまでウィン=ウィンを持ち出す輩によって、一方的に搾取されてきた経験が豊富なキモヲタは、シスターにドン引きしていたのでした。

 

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