第151話 ……私の身体では満足できませんか?

 キーラとソフィアを連れて地下水道で「大ネズミ退治」のクエストに取り組んでいたキモヲタ。


 思わぬソフィアの胸チライベントでゴクリしてしまい、キーラから制裁を受けて苦しんでいるのでした。


「ぐぬぅう……前にも言ったでござるがキーラタン。男への股間攻撃は『マジコイツ殺そう』というときでない限り、やってはならぬのでござるよ……」


「マジコイツ殺そうって思ったから問題ないよね」


 額に血管を浮き上がらせて顔を近づけてくるキーラから、思わず顔を逸らすキモヲタなのでした。


 股間を抑えて跳ね回るキモヲタを見てソフィアが小さな声で言いました。


「旦那様がしたいなら……いいよ……」


 ソフィアが服を脱ごうとするのを見て、キーラが慌て止めました。そしてキモヲタをキッと睨んで言いました。


「ほらっ! キモヲタがいやらしい目で見るから! もうっ!」


 まだソフィアとは出会ったばかりでしたが、キモヲタとキーラは、ソフィアを大切な仲間や家族として受け入れようと決めていました。

 

 ここ数日だけでも、ソフィアは二人に心を許すようになり、だいぶ打ち解けてくれるようになりました。


 しかしそれでも、ソフィアにとっては、キモヲタは「自分をお金で買った人」という意識がまだ強く残っているのでした。


 そのためかソフィアはキモヲタのことを「旦那様」と呼び、ひょんな切っ掛けで、ソフィアはキモヲタに身体を開こうとするのです。


 出会った頃はガリガリに痩せ細っていたソフィア。しかし【足ツボ治癒】とここ数日の食事で健康状態を回復したソフィアは、キモヲタの二次ロリ紳士教の信仰心をぐいぐい試してくるのでした。


 キーラよりも年下であるにも関わらず、キーラより年上のような女性らしい体つき。何気ない仕草の中に漏れ出てくる妖艶さを見つけてしまう度に、キモヲタの脳内では異端審問裁判が開かれ、毎回毎回断罪されてしまうのでした。


 このままでは破戒僧になってしまうことを危惧したキモヲタ。自分とソフィアの関係性を「旦那様と愛人」から、まずは「冒険者仲間」に換えようと一緒にクエストに出ることにしたのです。


 そんなキモヲタの決意と決断に大賛成してくれたキーラと共に、地下水道に潜って数十分もしないうちに、ソフィアの胸チラにゴクリしてしまったキモヲタなのでした。


(いかん。このままではソフィアたんとの関係性を変える前に、我輩の股間がキーラたんにつぶされてしまうでござる)


 自分の股間を守るべく、キモヲタはソフィアに大事なことを伝えることにしました。


 キモヲタはガシッと両手でソフィアの肩を掴んで言いました。


「いいですかソフィアたん……」

「……たん?」


 いきなり肩を掴まれて驚くソフィア。


「我輩がソフィアたんに、南橋の男たちがしてきたようなことをすることは決してないでござる」


「……私の身体では満足できませんか?」


「違うでござる! ソフィアたんが魅力的でないということではござらん。ただ我輩はソフィアたんが笑顔でいてくれるだけで満足なのでござるよ。キーラタンだってそうでござる」


 キーラがぶんぶんと頷きました。


「とはいえ我輩とて男であることに違いはござらん。ソフィアたんは誰から見ても美人なので、ついつい我輩もエッチな目で見てしまうことがあるでござる。それは許して欲しいのでござる。ただ我輩がソフィアたんに手を出すことはござらん。何故なら……」


 ソフィアは黙ってキモヲタの言うことを聞いていました。


「何故なら、我輩にはキーラたんという心を捧げた犬耳美少女推しがいるからでござる!」


 キーラは思わずキモヲタを蹴ろうと繰り出した足を押しとどめました。今はキモヲタのソフィア説得を優先すべきと思ったからです。


「キーラお姉ちゃんが旦那様の大事なひと女性……」


「そうでござる。もちろんソフィアたんも大事ですぞ。ただしそれは……そう妹! 妹としてでござる! なので旦那様という呼び方も辞めるでござるよ! これからは『キモヲタお兄ちゃん』……いや『キモヲタ兄さま』が希望ぬでござる」


「キモヲタ兄さま?」


「うほほぉおい! なんですかなソフィアたん! 何か欲しいものがあればキモヲタ兄さまは何でも買ってあげるでござるよぉおお!」


 身悶えして喜ぶキモヲタに虫でも見るかのようなジト目を向けながら、キーラがボソッとソフィアに言いました。


「ソフィアが何か欲しいものがあるときだけでいいからね。普段はキモヲタって呼び捨てでいいから」


「う、うん……そうする」


 キモヲタの奇妙な踊りをみて気味が悪くなったのか、ソフィアはキーラ背後に回ってその腕にしがみつくのでした。


 キモヲタが奇妙な踊りを続けるのを見て呆れていたキーラ。


 しかし、その尻尾は軽くクルクルと回り続けていて、それがソフィアの身体にペシペシと打ち付けられています。


『我輩にはキーラたんという心を捧げた犬耳美少女がいる』


 キモヲタがソフィアに言い放ったこの言葉を、キーラは冗談だとしか思っていませんでした。とはいえそれは、キーラが思っていた以上に自分の胸に刺さっていたのです。


 そしてもちろん、キモヲタの方はといえば、本気で言っていたのでした。

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