第143話 真実の口とウドゥンの口

 美しすぎる美熟女シスターに変貌したシスター・エヴァから、北西区復興局での治癒活動を許可してもらったキモヲタ。


 自分が行った【足ツボ治癒】の効果の凄まじさに、改めて身震いしてしまうのでした。


(若かりし頃は美人だった面影があったとはいえ、そろそろお婆ちゃんと言っても怒られ無さそうなシスターをこのような美魔女にしてしまうとは……。これはこれで、我輩のスキルであることが知れ渡ってしまうと、なんだか身柄が危険な状況に陥りそうな予感がビンビンするでござるよ。とくに女性の美と若さに対する執着にはおそるべきものがありますからな)


 そこでキモヲタは、シスターにある相談を持ち掛けました。


 治癒の副作用として発生するアヘ顔ダブルピース現象のせいで、治療した相手から命を狙われることが多いため、自分が治癒師であることを知られたくないというものでした。


 復興局の執務室では、キモヲタがシスター・エヴァに、これまでに治療した相手から襲われた数多くの事例を話していました。


「そのなかには我輩に対して強力な剣技スキルを放ち、めった刺しにしようとした、恐ろしいエルフもいたのですぞ」


 そのころ、外の馬車で荷物の引き渡し作業中だったエルミアナがくしゃみをしていました。


 一方、キモヲタの訴えを聞いていたシスター・エヴァは、キモヲタが怪我や病気を癒した相手から憎まれても、なお治癒を続けようとするその姿勢に意気を感じていました。


 それはまるで、ラーナリア女神への信仰の証を立てるために、過酷な運命に立ち向かい続ける聖人のようだと、シスターはキモヲタを完全に超過大評価してしまったのでした。


 その結果、キモヲタの要望はすべて受け入れられたのでした。


 キモヲタが要求したのは、治癒専用の部屋とそこに設置するあるモノ。


「なるほど。ではそのさえ持って来ていただければ、いつでも治療が始められるように準備をしておきます」


「実はすでに準備は進めてござって、あとはゴーサインだけでござる。三日後には持ってくるでござるよ」


 シスターとの打ち合わせが済んだキモヲタは、馬車で待つキーラたちの下へと戻っていきました。


「エレナ殿、ギルドのクエストは完了でござる。今度は南橋へ向かうでござるよ!」


「意外に早く済んだわね。まだ日がこんなに高いし、まだ橋には誰も立っていないかもよ」


 そう言ってエレナがキンタの手綱を取りました。


「まぁ、ここに長くいても仕方ないでござるし、とりあえず出発するでござる」


「早いにこしたことはないよ! ボク、早くあの女の子に会いたい!」


「で、ござるな。それにエレナ殿。例のはシスターの許可を貰ったでござる。できれば今日のうちにドワーフの工場にも立ち寄りたいのでござるよ」


「了解!」


 パシッ! 


 エレナが軽く手綱を振ると、キンタはとことこと馬車を引き始めました。


 間もなく馬車は、南橋へついたものの、まだ太陽は高く日差しも強いためか、娼婦の姿はほとんど見られませんでした。


 チラホラと木陰に立っている娼婦は、ほとんどが大人の女性で、幼い少女たちの姿はありませんでした。


「あの娘いないね……」


 キーラがキョロキョロとあたりを見回しますが、以前に見た少女の姿を見つけることはできませんでした。


 エレナが周囲を見回して言いました。


「小さい子なら、もしかするとこの時間は内職みたいな他の仕事をさせられてるかもしれないわ。夕方になれば出てくると思うけど。どうするキモヲタ? ここでその女の子を待つ?」


 エレナの言葉を聞いたキーラから「ここで待とうよ」という視線を投げられたキモヲタ。アゴに手を当てて考え込みます。


「うーむ。なるはやで復興局にを届けるために、できれば今日中にドワーフ工場に向いたいでござる。今日中に発注を掛けられれば、三日後には完成品を持ってまたここにこられるでござる」


 そこまで言って、キモヲタはキーラの方を見ました。


「なのでキーラ殿。今日のところは……」

 

 キーラとしても、復興局の子どもたちには、一日も早くその怪我や病気が良くなって欲しいと強く思っていたのでした。


「う……うん。仕方ないね。三日後にはまたここに来られるんだよね」


「もちろんでござるよ。そのときはあの娘と一緒においしいものを食べまくるでござる!」


「そうだね! 一緒に食べ歩きしよう!」


 そしてその日、キモヲタたちの馬車はドワーフ工場へ向かったのでした。




~ 三日後 ~


「こ、これが例のですか」


「そうでござる。これが例のでござる」


 北西区復興局の地下倉庫の一室に、奇妙で巨大な箱が設置されていました。


 それはキモヲタがカトリック教会の懺悔室とイタリアにある真実の口を参考にして、ドワーフに注文したものです。

 

 箱に入ると、狭い空間には小さな椅子がひとつ置かれており、正面はすぐ壁になっています。 治療を受ける者は、小さな椅子に腰かけて、すぐ目の前にある壁面に向うことになります。


 壁の一面は、巨大な魔神ウドゥンキラーナが大きな口を開けているレリーフが彫られていて、ハッキリ言って不気味です。もちろんキモヲタはウドゥンキラーナから許可などもらっていません。


 ウドゥンキラーナの開いた大口の部分は、治療者の膝から下を入れる穴となっています。この穴に足を入れると、壁の反対側から両足が拘束できるようになっていました。


 壁の反対側には空間があって、そこにキモヲタがしゃがんで入れるようになっています。足を拘束した後、キモヲタが身を隠しつつ、安心して治療ができるという構造になっているのでした。


「それにしても、かなり不気味なレリーフでござるな。こんなの我輩なら絶対に入りたくないし、全力でお断りするでござるよ」


 治癒される側にある椅子に腰かけながら、キモヲタがそんな感想を漏らしていると、耳元でシスターの声が響きました。


 ちょうど座った人の耳にあたる部分は、格子状になっており、外から話しかけると耳元でASMRが始まる仕組みなのでした。


 後に「ウドゥンの口」や「真実の口」と呼ばれるこの箱。キモヲタが治癒師であることを隠す働きだけでなく、シスター・エヴァのASMR調教によるラーナリア正教徒のにも大きな力を発揮することになるのでした。






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