第141話 とにかく誤解から始まるキモヲタの善行
ギルドの北西区復興局への指示書配送クエストを再び受注したキモヲタ。シスター・エヴァから北西区の復興が進まない内情について聞かされました。
「とうとう子どもたちの食べ物も足りなくなってきました。今は、外の教会に支援をお願いして回っている毎日です」
改めて子どもたちの姿を見たキモヲタは、どの子どもも以前訪れたときよりも少し瘦せているように思えてきました。
予算も物資も不足している現状を嘆くシスターに、キモヲタはニチャリをした笑顔を浮かべます。
キモヲタ本人としてはニッコリと笑ったつもりでしたが、気味の悪い笑顔を向けられたシスター・エヴァは怪訝な表情を浮かべます。
「それでは我輩から、細やかではありますが食糧と傷病者向けの物資を寄贈させていただきますぞ」
「はっ?」
気味の悪い笑顔を浮かべる目の前の男から、まさかそんな話が出てくるはずがないと思っていたシスター。キモヲタの話を理解するのに数秒間を要しました。
「ですから、食糧と物資を寄贈させていただきますぞ」
まだシスターが話が呑み込めずに戸惑っているのを見たキーラが、キモヲタの申し出をシスターに伝えました。
「シスターさん、キモヲタの見た目が気持ち悪いのは許してあげて! キモヲタはね、ここの子どもたちや怪我してる人たちに食べ物とか色々なものをプレゼントしたいって言ってるの!」
「キ、キーラたん……嬉しいのと悲しいのが一緒に胸に突き刺さる複雑なフォローありがとうでござる」
「どういたしまして!」
二人のやりとりを見ていたシスターが、ようやく事態を理解しはじめてきました。
「ええ!? き、寄贈? 私たちのために?」
「そうだよ! パンとかカレーとか包帯とか馬車にたくさん積んできたよ!」
キーラはシスターの手を引いて馬車に案内すると、荷台に積まれているダンボール箱の山を見せました。
そこには、キモオタがネットショップ「ナイトタイムラバー」で購入した食べ物や衛生・生活用品が梱包されているのでした。
食べ物は、いつものマカ・カレーの他、お湯を入れるだけで作れるカップ飯、10種類の味がある乾パン、ビスケット、お米10キロ、ビーフジャーキー、富士山の水などが段ボール単位で用意されていました。
その他にも、包帯や絆創膏、消毒液やアルコールティッシュ、トイレットペーパーやタオル、低温度ロウソク、ロープや業務用ソープマット、女学生の匂いがするパウダー、色とりどりの女性用の服、色とりどりの下着、ほぼ紐な下着などが、たくさんダンボールに梱包されているのでした。
キーラがいくつかのダンボールを開いて、中身について紹介するのを聞いていたシスター。
「食べ物は本当にありがたいです! 傷病者向けの包帯や着替え……?なども本当に助かります。ところで、これは……女性用のシャンティでしょうか? どうしてこんなところに穴が……」
穴あきパンティを手に取って考え込んでいたシスター。目の前にキモヲタがいることを思い出して、慌てて下着を箱にしまいこみます。
「と、とにかく本当に助かります! キモヲタ様、お仲間の皆様、あなたたちに感謝を! 女神ラーナリアの楽園に、あなたたちが招かれますように!」
心から嬉しそうに感謝の言葉を並べるシスターに、キモヲタはズズっと一歩近づきました。
「それでですなシスター。ズズズイ」
「えっ? な、なんでしょうか?」
キモヲタの圧に不穏な気配を感じたシスター。もしかして、この寄贈の代償に何かとんでもないことを要求されるのではないかと、急に不安になってきました。
先ほどまでは感謝の念を抱いていたので聖人のように見えていたキモヲタが、だんだんとオークのように見えてきたシスター。
「実は我輩、こう見えても治癒師でござってな。こちらにいる子どもたちや怪我人の治療をお手伝いさせていただければと……」
という普通に協力を申し出てきたキモヲタの言葉が、次のように聞こえてしまったのでした。
『実は我輩、ここにいる子どもたちに興味がござってなジュルル。デュフフ。デュフフ。デュフコポー』
「そ、そんな! なんと罪深いことでしょう……おぉ、女神ラーナリア様」
天を仰ぎ見るシスター・エヴァの肩をトントンと叩いて、キーラがキモヲタの言葉の翻訳に入りました。
「あのねシスター。たぶん勘違いしてると思うけど、キモヲタは凄い治癒スキルを持ってるんだよ。それでここにいる子どもたちの治療をさせて欲しいって言ってるの」
「えっ!? 子どもたちを汚らわしい欲望の餌食にしようということでは……」
「ないよ」
「で、では、まさか私を!? そ、それはそれで罪深い……」
「違うよ?」
「では、どういうことなんですかっ!? いったい誰を生贄に差し出せといってるのです?」
逆ギレするシスター・エヴァなのでした。
「落ち着いてシスター。キモヲタは生贄なんて求めてないよ!」
ようやくキーラの言葉を理解して、キモヲタの申し出を理解したシスター。ひたすらキモヲタに頭を下げ続けるのでした。
もちろん謝罪を受け入れたキモヲタでしたが、キーラの言葉については訂正を入れたいと思っているのでした。
(キーラたん、最後のフォローは間違いがござるよ。実は我輩、シスターには生贄になってもらう所存……)
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