第134話 黒スライムで実験
キモヲタがガッポガッポ稼ぐ計画を持っていることを知ったキーラは、俄然スライム退治のやる気が出てきて、キモヲタの手を引きつつ地下水道を進んで行きました。
「ほらっ! キモヲタ! あそこにもスライムがいるよ!」
キーラが指差す先に松明を向けると、壁に黒い粘液の塊が蠢いているのが見えました。
その不気味さは正気度を削られるくらいのおぞましさでしたが、いまやガッポガッポでウッキウキの二人の目には、黒い粘液が金貨引換券のようにしか見えなかったのでした。
「かなり大きなスライムでござるな」
スライムはキモヲタの身体よりやや大きいくらいのサイズがありました。普通の冒険者でも、このサイズのスライムに遭遇すると息を呑むか、軽く悲鳴をあげるところでしょう。
「ワーッ!」
キーラの甲高い声が地下水道に響き渡ります。ただその悲鳴は、普通の冒険者があげる声とは違っていました。
「キモヲタ! これすっごく大きいよ! 大金貨だね! ヤッター!」
喜びの悲鳴を上げるキーラなのでした。
尻尾をくるくる振ってはしゃぐキーラを微笑ましく眺めていたキモヲタ。
「ちょっと試したいことがあるでござるよ」
そう言って腰に下げていた袋から大ネズミの遺骸を取り出して、黒スライムに投げ入れました。
「なになに? 大ネズミをたべさせて大金貨をもっと大きい金貨にするの?」
いまや完全にスライムが金貨にしか見えないキーラに、キモヲタは静かに首を横に振ります。
「このまましばらく観察するでござるよ」
大ネズミは包み込まれるように、スライムの中へと消えて行きました。
それから5分ほどして、キモヲタはスライムに松明を当てて、大ネズミが取り込まれた辺りを焼いて消滅させました。
「うわっ! 溶けてるよ! 気持ち悪っ!」
そこには消化されつつあった大ネズミだったものの塊が転がっています。
「ふむ。では次は……」
キモヲタは腰の袋からもう一つ大ネズミの遺骸を取り出し、再びスライムの中へと投げ入れました。
「またネズミを食べさせるの? このネズミの遺骸だってクエストの報酬になるからもったいないよ」
どこまでも現金第一主義のキーラなのでした。
「おそらく我輩の予想では、キーラたんの心配には及ばないはずでござる」
「そうなの?」
「試してみるでござる。ハッ!」
キモヲタがスライムに【お尻かゆくな~る】を発動しました。
プルッ! プルッ!
プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルッ!
スライムの表面にブクブクと大きな泡が無数に立ち、その全身が激しく震え始めました。
「ギャァアァ、気持ち悪いぃぃ!」
あまりにも悍ましい光景に、今度は本気で悲鳴を上げるキーラ。思わずキモヲタの後ろに回って、その背中にしがみ付きます。
「キモヲタ、あれ大丈夫なの? なんかこっちに飛んできたりしない!?」
「飛んでくるようなことはないでござろうが、もし飛んできたとしても大丈夫だというのが我輩の仮説でござるよ」
「ど、どどどういうことなの!?」
「まぁまぁ、そう慌てないでキーラたん。またしばらく観察するでござるよ」
「えぇぇえ!? こんなの見るの嫌だよぉおお!」
「なら、しばらく目を瞑っておられるがよいでござる」
それからまた五分後。
目を閉じてキモヲタの背中にしがみついていたキーラ。
キモヲタが何やら動きはじめるのを感じると同時に、ジュッという音が聞こえ、何かが焼ける臭いが鼻をつきました。
「やはり! 思っていた通りでござる!」
「なになに!? どういうこと? なになに!?」
キーラはキモヲタの背中から離れて、キモヲタが見ているものを覗き込みました。
そこには松明に焼かれて、かなり小さくなり核を露わにしているスライムの姿がありました。
そしてキーラはもうひとつ重大な事実に気がつきます。
「あっ! 大ネズミがぜんぜん溶けてないよ!? どうして!?」
キーラが指差す先には、先ほどキモヲタが袋から出したときと変わらぬ状態の大ネズミの遺骸がありました。
デュフフと笑いながらキモヲタがキーラに解説します。
「つまり我輩の【お尻かゆくな~る】で、このスライムのお尻も痒くて痒くてたまらなくなったのでござるよ。まぁ、尻がどこにあるかはわからないでござるが。ともかくこのスライムは痒くて痒くて辛抱たまらず、取り込んだ餌を消化することさえままならない状態になったというわけでござろうな」
そう言ってキモヲタは、素手でスライムの核を取り出しました。
「あっ! キモヲタ危ないよ!」
「大丈夫でござるよ。見ているでござる」
キモヲタによって核を抜かれたスライムは、徐々に力を失って最後は、へにゃりと泥水のようになって消えて行きました。
手にしたスライムの核をキーラに見せながら、キモヲタが自分が調査したスライムの性質を解説します。
「通常であれば、核を取り出しても離れた部分は元に戻ろうと核を追ってくるでござる。この核にしても、放置しておればまた再び黒スライムに戻っていくでござろうな。だが……」
キモヲタがニチャリとした笑顔をキーラに向けました。
「我輩の【お尻かゆくな~る】がそのどちらも邪魔するのでござる」
「ということはつまり? どーゆーことなの?」
「ものすっごく大きいスライムだろうと、我輩にとっては雑魚同然ということでござるよ」
そしてキモヲタは新調したばかりのメイスで、スライムの核を叩き潰すのでした。
「ちょっと! それギルドに持って帰れば報酬でるかもしれないのに!」
どこまでも現金主義なキーラなのでした。
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