第132話 地下水道の大ネズミ退治からはじめるビリオネア

「えぇ!? 今日も地下水道なの? 大ネズミ退治なんて報酬も少ないし、もっと大物狩りに行こうよ!」


 ギルドから出た二人。急ぎ足で歩くキモヲタの後を、キーラが小走りでついていきます。


 キモヲタは、今日もギルドで「大ネズミ退治」クエストを受注したのでした。キーラとしては、報酬の低いこのクエストよりも、もっと稼げるクエストを受けたかったのです。


「むぅ…ボクたち早くお金を稼がなきゃいけないのに……」


「まぁまぁ。キーラたんが退屈しているのは重々承知してござるが、同じクエストを繰り返すことで得られるものも多いのでござるよ」


 キモヲタはキーラをなだめつつ、道を急ぎます。


「ちょっとキモヲタ? 地下水道の入り口はこっちの方向じゃないよ? …って痛っ!」


 突然立ち止まったキモヲタの背中に、キーラは頭をぶつけてしまいました。


「急に立ち止まらないでよキモヲタ!」


 キモヲタはキーラを振り返って言いました。


「キーラたん。我輩もまさにお金を稼ぐために行動しているでござるよ。後で説明するでござるゆえ、今日はここで新しい武具を揃えて、それから地下水道に向うでござる」


「レオナード武具店? キモヲタは剣も槍も苦手だから持たないんじゃなかったの?」


「確かにその通りでござるが、今回のクエストで試してみたいものがござってな。それと、せっかくなのでキーラたんの装備も新調していくでござるよ」


「ほんと!? やったー!」


 新しい武器と防具が手に入ることを知ったキーラは、とたんにご機嫌になるのでした。




~ 再びの地下水道 ~


「よっ! ハッ! ホッ! ソイッ!」


 地下水道に潜ったキモヲタとキーラ。


 大型犬サイズの大ねずみ四匹と遭遇したキモヲタは、反射的に【お尻痒くな~る】を発動します。


「「「「キイィィィ!」」」」

 

 その場でのたうちまわる大ネズミに、キーラは新調したばかりのダガーを突き立てて仕留めていく。


「ソイィィィッ! でござるぅぅ!」


 キモヲタも、手にしたメイスを大ネズミの頭に叩きつけて、止めを刺していくのでした。


「キモヲタ! さっき買ってくれたこのダガー、すごく切れ味がいいよ!」


「それは何より! 我輩も、このメイスは手になじんでいるでござるよ」


 あっと言う間に大ネズミを仕留めた二人。大ネズミをビニールシートに包み込むと、水路の端に寄せました。


「ふぅ。とりあえず、今日のノルマ分はクリアでござるな」


「ならギルドに戻る?」


 キーラの顔に微かな期待が浮かびます。


「いや。むしろこれからが本番ですぞ! スライム退治に向うでござる!」


「やっぱり……」


 ガクッと肩を落とすキーラ。キモヲタは、そんなキーラを励ましつつ奥へと進んでいきます。


「デュフフ。まぁ、今日はちゃんとキーラたんに説明するでござるよ」


「説明ってなんのことだよ!?」


 早く帰りたくてたまらないキーラの口調は、かなりご機嫌ななめなのでした。


 それを気にする様子もみせることなく、キモヲタは話をはじめます。


「我輩もキーラたんも、復興庁にいた子どもや南橋の少女を何とか助けたい……でござるよな」


「そうだよ! ……って言っても、ボクたちに出来ることなんて……ほとんどないけどさ」


 エレナとの会話を思い出したのか、キーラの声は小さいものでした。


「しかし、お金があればその出来ることがもっと多くなる。なので、我輩たちはお金を稼ぎたいというわけでござる」


「そうだね」


「で、今の我輩たちにできるお金稼ぎが、ギルドでのクエスト……ではござらん」


「えっ? でもいまボクたちはお金を稼ぐためにクエストを受けてるんだよね」


 チッ、チッ、チッと、キモヲタはキーラの目の前で人差し指を振りました。


「キーラたん。そもそも我輩が王都についてから、毎日毎日食べ歩きとお買い物暮らしができていたのは何故だと思っているでござるか」


「そ、それはキモヲタが、グネグネ動くあの変な魔法の棒を、セレナに売ってもらってるからでしょ……あっ!? あれをもっと沢山売ればいいのか。だったらあんな変なのはエレナじゃないと扱えないけど、カレーとかならボクたちでも売れるんじゃないの!?」


 キーラが自分の思いつきに顔を輝かせるのをみて、にっこり頷くキモヲタ。


「その通りでござる。そして、ここからが大事なポイントでござるが、あの魔法の棒にせよ、カレーにせよ、お金で買うことはできないのでござる。手に入れるためにはEONポイントというのが必要になのでござるよ」


「そうなんだ。つまりそのポイントがないとカレーが手に入らない。カレーが手に入らないと、ボクたちはカレーを売れないから、お金を稼げない……やっぱり、お金は稼げないのか……」


 肩を落とすキーラの背中をポンッと叩いて、キモヲタは話を続けました。


「それが手に入るのが、このスライム退治なのでござるよ」


「そうなの!?」


「このスライムを一匹倒すごとに5000ポイントが入るでござる。まぁ、ここで地道にスライム退治していても、そこそこの稼ぎにはなるでござろうが……。我輩の本当の目的はこれではござらん」


 キモヲタの言っていることは半分も理解していないキーラ。しかしキモヲタが単に行き当たりばったりではなく、明確に大きな目的をもって行動していることはわかったのでした。


 キラキラした瞳でキモヲタを見上げるキーラ。


「それで! 本当の目的って何なの! 何なのキモヲタ!」


 尻尾を扇風機のように回転させながら、キモヲタに詰め寄るのでした。


























































 

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