第128話 オークではないという証明
まだ3~4歳くらいの幼女にオークと間違われたキモヲタ。なんとかその誤解を解くべく頭をフル回転させました。
その結果、思いついたのが……
「幼女殿。この手をよくよく見るでござる。オークならこんなことは出来ないでござるよ」
キモヲタは、両手の親指の第一関節を曲げて、親指を隠して伸ばした左手を幼女に見せつつ、右手の親指を重ねます。
ズリッ!
そのままキモヲタが右手をズラすと、幼女が大きな声をあげました。
「親指がとれちゃった! 凄い! 凄い!」
キモヲタが小学生のときに習得した唯一の手品「親指外し」が見事に成功。目を丸くして驚く栗毛の幼女を見てご満悦のキモヲタなのでした。
「ぬふふ。凄いでござろう! こんなことはオークにはできないでござるよ。我輩はキモヲタ。しがない
キモヲタが親指をヒョコヒョコと付けたり外したりしながら尋ねると、幼女は前の席から立ち上がって、キモヲタの側へとやってきました。
「!?」
幼女が動かなくなった右足を引きずりながら近づいてくるのを見て、キモヲタは言葉を失いました。
キーラが慌てて椅子から立ち上がって、幼女の抱いてキモヲタの隣に座らせます。
栗毛の幼女はキモヲタやキーラが受けたショックに気づくこともなく、キモヲタの隣に腰かけると、青い瞳をキラキラさせて名乗るのでした。
「わたしはノエラ! ねぇキモヲタ、親指は痛くないの?」
「まったく痛くないでござるよ! ホレこの通りいくらでもくっつけたり外したりできるでござる」
キモヲタが親指をスライドさせるのを見たノエラの大はしゃぎする声につられて、近くにいた子どもたちがワラワラと集まってきました。
「ワーッ! 親指がとれてる!」
「痛い!? 痛くない!? 痛いでしょ!?」
「コワイ! キモチワルイ!」
「……」
「あのね、シルビア。いまオークみたいなお兄ちゃんがいてね、その親指が取れちゃってるの」
「えぇ!? それなら早くお医者さんを呼ばないと!」
キモヲタは両手を胸元に引き寄せ親指をヒョコヒョコしながら、集まって来た子どもたちを観察しました。
どの子もやせ細っており、何かしら身体に怪我や障害を抱えているようでした。目が見えていない子もいるようです。
この時点でキモヲタは子どもたちの治癒を心に誓っていました。しかし細った身体だけは、この地区の復興が進んで、十分な食事が提供されるようにならない限り、解決することはできないでしょう。
キモヲタの財力では、せいぜい彼らのお腹を何度か満たすことはできても、彼らの成長を支え続けることはできません。そもそも同じような子どもがこの北西地区にどれほどいるのだろうかと、キモヲタは内心で沈んでいました。
(せめてこの瞬間は、我輩の唯一の手品芸で子どもたちを楽しませるでござるよ)
「ほれ! これこの通り! キモヲタの親指は着脱自在! 何度でも外せるでござるよ!」
本当に些細なネタではありましたが、娯楽に飢えていた子どもたちの心には大ヒットしたようで、どの子も目をキラキラを輝かせてキモヲタを見つめていました。
「キモヲタ凄い! そんな風に親指を外す魔法が使えるなんて! ボク、ぜんぜん知らなかったよ! キモヲタ凄い!」
どの子よりも大はしゃぎしているキーラなのでした。
~ クエスト完了 ~
大好評の親指外しも10分もすると流行が終わってしまいました。
仕方なくキモヲタは子供たちに、イケデブの青年が吸血鬼になった妹を元の犬耳少女に戻すために、ゴブリンたちと戦うお話を語り聞かせていました。
「逃げるなぁ卑怯者! 逃げるなぁぁでござるぅぅ!」
キモヲタの迫真の演技に、子どもたちは夢中になって話を聞いていました。
パチパチパチパチ。
いつの間にか、子どもたちだけでなく、手の空いた大人までキモヲタの周りに集まってきていました。
その中には、シスター・エヴァの姿もありました。
「楽しいお話ですが、今日はこの辺にしましょう。このお兄ちゃんとお姉ちゃんは、明るいうちに帰らないといけないの」
シスターの言葉を聞いた子どもたちは、素直に頷いてキモヲタにお礼を言うのでした。
「キモヲタ兄ちゃん、ありがとう! 楽しかった!」
「暗くなったら危ないから、仕方ないよ」
「またお話聞かせてね!」
子どもたちが自分たちの区画に戻っていくのを見届けた後、シスター・エヴァはキモヲタに手紙を渡しました。
「この手紙をギルドの受付に持っていけばクエスト完了。報酬が受け取れますよ。明るいうちに北西区を出た方がいいわ。南門から出て市場通りを行けば、何かあっても警備兵が近くにいるはずだから」
手紙を受け取ったキモヲタ。ここにいる子どもたちのことについて訊ねていいものか考えていると、シスターが口を開きました。
「子どもたちの相手をしてくれてありがとうね。貴方たちのように優しい冒険者ばかりならいいんだけど……」
シスターは少し沈黙してから言葉をつづけました。
「このクエストは危険で割りの合わない仕事なのはわかってる。けど、できればまた受けてくれると嬉しいわ」
色々と聞きたいことはあったキモヲタでしたが、シスターの言葉を聞いて、またこのクエストを受けることに決めたのでした。
(詳しい話は、そのときに聞けばいいでござる)
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