第117話 業務用ソープマットを膨らませるのは大変でござる!
「わーっ! すっごいよキモヲタ! 柔らかくて気持ちいいぃ! 宿のベッドより断然いいよ!」
「こんな魔法のベッドまで出せるなんて、キモヲタ殿のネットショップなる魔術は、本当に底がしれませんね」
空気で膨らんだ簡易ベッドの上で、キーラとエルミアナが楽しそうにはしゃいでいます。
その日の就寝時、キモヲタがが初お披露目した業務用ソープマットは二人には大好評でした。
草地の上に置いたエアマットは、強化された塩化ビニール素材で作られており、二人が乗っても簡単に破れることはありませんでした。
「はぁ、はぁ、キーラタンに気に入って貰えたようで、はぁ、はぁ、なによりでござる」
ソープマットの上で、ゴロゴロするキーラとエルミアナの隣では、キモヲタが全身汗だくになって息を切らしていました。
ダブルサイズのソープマットを、付属の足ふみ式空気入れをスコスコと踏み続けるのは、かなりの重労働だったのです。
「キモヲタ! 休んでないで私とフィオナのベッドも早く用意してくれない?」
「はぁ、はぁ、セリアたん、はぁ、はぁ、この汗だくで息も絶え絶えの我輩を見て、はぁ、はぁ、よくもそんなことが言えるでござるな! 自分のベッドは自分で膨らませるでござるよ! あはぁぁあん❤でござるぅう❤」
文句を言いながらセルフ【足ツボ治癒】を行なったキモヲタ。体力の方は一瞬で回復させることはできましたが、精神力の方は限界を迎えていました。
「我輩、もう空気入れに足を乗せるのも辛いでござる。自分のベッドは自分で空気入れてくだされ」
キモヲタはソープマット(シングルサイズ)と付属の空気入れを残りのみんなに配るのでした。
「エルミアナ殿も、これを膨らませるのですぞ」
「えっ、私もですか!?」
「その大きな《業務用ソープマット》は、我輩とキーラたんが使うものですからな」
汗だくになったキモヲタが、ニチャリとした笑みをキーラに向けます。
「えーっ! 汗まみれのキモヲタと一緒のベッドなんてやだよ! ボクはエルミアナと寝る!」
「ちょっ、キーラたん! 添い寝の約束でござろう! 本来であれば、この《業務用ソープマット》はキーラたんが全身を泡まみれにして、そのすべすべのお肌を駆使して我輩を洗うためのものでござる!」
「なにそれ意味わかんない! どうしてボクがそんなことしなくちゃいけないんだよ!」
「それこそが我輩もいつか訪れたいと願ってやまない夢の国、石鹸王国の絶対ルールだからでござる! しかし、ここは我輩が譲歩して『ラブプレイ用ハート型ソープ』を使って自分で身体を洗った後に、『女子学生の匂いがするパウダー』で身奇麗にしてから、キーラたんに添い寝プレイしてもらうでござるから! それなら文句ないでござろう!?」
キモヲタは、そそくさと馬車の裏に移動して、水筒の水と『ラブプレイ用ハート型ソープ』で汗と身体の汚れを落とし、『女子学生の匂いがするパウダー』を全身にパフッてから戻ってきました。
「これでどうでござるか、キーラたん!」
キーラは、自信満々で目の前に立っているキモヲタに近づいて、鼻をくんくんさせます。
「うーん、白い粉の臭いがキツけど、嫌な香りじゃないし、まぁ……いいかな」
「ひゃっほう! キーラたんのOkが出たでござるぅぅ!」
両腕を振り上げて喜ぶキモヲタは、この感動を分かち合おうと他のみんなに向き直りました。
スコスコッ! スコスコッ! スコスコッ!
キモヲタとキーラ以外の全員がキモヲタに目もくれず、額に汗しながら足踏み式空気入れでソープマットを膨らませているのでした。
スコスコッ! スコスコッ! スコスコッ!
~ ベッドタイム ~
全員分のソープマットが膨らんで、全員が小休止をとることになりました。
セリアがおもむろに立ち上がって小枝を手にとると、全員を取り囲むような大きな円を描きはじめました。
「原初の神にして、燻製と竈を司りし女神ラヴェンナの御名において、この輪の中にその祝福を与えたまえ、聖なる大地を顕現なさしめたまえ。悪しきもの、悪しき心を抱くものを遠ざけ、我らを守りたまえ……」
セリアの呪文は、【祝福の輪】と呼ばれる古大陸に伝わる古代の魔法でした。初めてセリアの【祝福の輪】を描くのをみたキモヲタは、ただブツブツ言いながら輪を描いているだけのようにしか見えませんでした。
地面に輪を描くことでアリなどの虫が入りにくくなることは知っていましたので、その程度の効果はあるのだろうなくらいに考えていたのです。
「セリア殿の【祝福の輪】でござるか……毎日のことながら、ありがたいことでござるな」
目の前を通り過ぎるセリアの絶対領域に、視線を釘付けにしたキモヲタ。今では【祝福の輪】の効果がアリだけでなく、一定の魔物にも効果があることを実際に目にして知っているのでした。
キモヲタが見張のときに、うとうと眠っていたら、すぐ目の前に動く死体や黒いスライムが近づいていたということがありました。
しかし、そうした魔物たちは、セリアの【祝福の輪】の線よりこちら側に、近づくことができずにいたのです。
別大陸の女神の魔法ということもあり、効果を信じることができなかったキモヲタでしたが、今では絶大な信頼を寄せるようになっています。
輪を描き終えたセリアがソープマットの端に腰かけると、全員が彼女に視線を向けました。
「皆に話しておくことがあるの。ソフィアと……それに私のことよ」
セリアの瞳に宿る青い焔が激しく揺らめくのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます