第118話 魔女ヴィドゴニア
「強い魔力を持った女性が、強い怨みの想いを抱いて亡くなったときに、悪霊として蘇ることがあるの。それを古大陸の人々は、魔女ヴィドゴニアと呼んで恐れているわ。もう分かってると思うけど、私もフィオナもそのヴィドゴニアよ」
セリアは静かに語りはじめました。
彼女の話によると、ヴィドゴニアとしてよみがえった魔女は、生前の激しい怨みの炎に自らが焼かれて苦しむことになるようでした。
その苦しみから逃れるために、魔女は復讐を果たそうとしますが、それが叶わない場合、誰彼構わず人々から大事な何かを奪うことで、自らの苦しみを和らげようとするのです。
復活したばかりの魔女は、化け物そのものであり、目にするもの何でも奪おうとします。人でも動物でも、目につくものならその命を奪い、その魂を食らうことで、自らの苦しみを和らげようとするのです。
命を奪い続けて、苦しみが和らいでくると、魔女は次第に人間の姿に近づいていきます。そのような状態になった魔女に対しては、ある程度の交渉ができるようになります。
交渉といっても、結局のところ魔女は命まで寄こせということに違いはありません。
「そうして奪い続けていくうちに、少しずつ理性を取り戻していくの。彼女のようにね」
セリアは、フィオナの方を見ました。
「それでセリア殿は、化け……魔女の姿をしたフィオナ殿に交渉を仕掛けて、声だの命だのを奪わせていたのでござるか」
フィオナに命を奪われて、その場に崩れ落ちる馬やボルギナンドの仲間の様子を思い出して、キモヲタは思わず身震いをします。
「それでようやく人間に戻ったのでござるな」
セリアは静かに首を横に振りました。
「人間に戻ったわけじゃない。人間の姿に戻っただけよ。それは見た目でも分かるわ。だって……」
セリアがキモヲタの目をまっすぐに見つめます。その瞳には、フィオナと同じように人間にはない、青い焔が宿っていました。
「この燃える瞳は、強い魔力の根源よ。人間だった頃とは桁違いの魔力をもたらしてくれる」
「それで鋼龍などという凄い魔法を使えるのでござるな。正直、見た目もカッコイイので羨ましいでござる」
「そうね。でも同時に、この青い焔は、誰かの命や大事なものをたくさん奪い続けてきた証でもある。ヴィドゴニアを殺せば、奪われたものを取り返すことができると信じるものたちもいるの。この瞳を持っている限り、復讐者や魔物ハンターに狙われることになるのよ」
「そ、それは……大変でござるな……」
セリアは、黙って彼女の話を聞いていたユリアスに目を向けました。
「古大陸で、逃げ続けるだけ私は、この瞳の炎を消す方法をずっと探してきた。ことができるのが……」
セリアの途切れた言葉を、ユリアスが続けました。
「賢者の石」
「そう。賢者の石の力なら、ヴィドゴニアを人間に戻すことができる。少なくとも瞳に宿る火を消すことができるという話を知った。それがこの大陸にあると聞いて、私は古大陸を渡って来たの」
「面倒くさがりのセリアが、今回の探索に名乗りを上げた理由がようやくわかったよ。賢者の石を手に入れるためだったのね」
ユリアスの言葉に、セリアはゆっくりとうなずきました。
「隊長に黙ってたのは悪かったと思ってるわ」
「もし私たちが賢者の石を手に入れていたら、それを奪う……つもりだったの?」
「わからない。一度使うだけで瞳の火が消せるなら、そんなことはしない。でもずっと持っていなきゃならないとしたら……奪ったかもしれないわ」
「そうか……」
ユリアスが目を伏せました。そんな隊長の姿を哀しそうに見つめながら、セリアは言いました。
「いずれにせよ魔神ウドゥンキラーナは賢者の石を持っていなかった。ここから東方のドラゴンが持っていることは分かった。だから……」
セリアは言葉を切り、ユリアスに向き直りました。
「ユリアス隊長、私はここで白バラ騎士団を抜けて、フィオナと一緒にドラゴンの元に向かう」
ハッと息を呑むユリアス。その目が大きく開かれるのでした。
「フェイルーン子爵には、私が私の思うときに白バラ騎士団を抜けることについて了解してもらっているわ。それにここでパーティーを抜けるのは、みんなやフィオナにとっても大事なことなの」
その理由は、現在のフィオナの状態は、未だに不安定であり、ちょっとしたことがきっかけで理性を失った魔女に戻ってしまうかもしれないからでした。
いまの自分の状態を知ったフィオナが、不安そうな顔をセリアに向けます。
「もしフィオナが狂気にとらわれたら、ここにいるみんなの大事なものを奪いかねない。いまの彼女はまだ危険なの。彼女の状態が落ち着く方法を私は知っているし、私はそれを手伝うつもり」
「フィオナ殿が落ち着く? それはどういう方法でござるか?」
キモヲタの質問に答えるセリアの瞳の炎が揺らめきます。
「復讐よ」
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