第115話 さっさと逃げるが吉でござるよぉお!
キモヲタとキーラが川から戻ると、城の前ではユリアスたちが待っていました。
ユリアスがキモヲタとキーラの姿を見て首を傾げます。
「どうして全身がずぶ濡れなのです? ズボンと下着だけ洗えば良かったのでは?」
「「えっ!?」」
自分たちが川に向った理由を、ユリアスが察していることを知った二人は、お互いに顔を見合わせて、恥ずかしさのあまり赤面してしまうのでした。
そこに馬を曳いたセリアがやってきて、キモヲタに声を掛けます。
「キモヲタにも色々と話さなきゃいけないことがあるのはわかってる。けど、まずは街に戻ってこの犯罪者たちを突き出したいの。すぐに出発するけど、いい?」
「もちろんでござる。ところで……」
キモヲタの視線が、セリアが手綱を曳く馬上の人物へ向けられました。
「その銀髪美少女殿は、いったいどこから湧いて出たのでござるか!?」
「フィオナ・ランバートだけど?」
今さら何を聞くのかと不思議そうな顔をするセリア。
キモヲタとキーラは頭にクエスチョンマークを浮かべて、馬上の女性に改めて視線を移しました。
その銀色の長い髪は双月の光を集めて煌めき、白く透き通るような肌は柔らかな光沢を放っていました。碧眼に宿る青い焔は、まるで魔法を閉じ込めているかのように神秘的です。
いま目の前にいる、月の女神かと見紛うほどの美女と、先ほどまでの魔女が同一人物であると認識するまでに、キモヲタとキーラは少し時間を要しました。
そして10秒後、
「「ええっ!?」」
同時に二人は声を上げるのでした。
~ 帰還 ~
街に戻ったキモヲタ一行。
ユリアスたちは、ボルギナンドとその仲間を引き連れてギルドへの報告に向くこととなりました。
その間、フィオナをキモヲタたちに任せることが決まったとき、セリアがキモヲタとエレナに対して、真剣な眼差しを向けて言いました。
「すぐに街を出ることになるから、宿を出て馬車の準備をしておいて。わたしたちが戻ったらすぐに出発できるように準備しておいて」
唐突な話に困惑するキモヲタでしたが、エレナの方は何やら事情を察したようでした。
宿に戻ったキモヲタとエレナは、セリアに言われた通りすぐに出発の準備をはじめます。
「それにしても、どうしてこのように出発を急ぐのでござるか? 我輩としてはしばらくここに腰をおろして、ゆっくりと英気を養いたいものでござるよ。エレナ殿も、この街で商売があったのでござろう?」
「ヘラクレスのことなら、べつにこの街でなくても構わないわよ。それよりなにより命の方がよっぽど大事だから」
「命!? もしかして我輩たちの命が危ないとかいうのでござるか!?」
「そうなるかもしれないってこと……最悪の場合ね。考えてみて、廃城にいる吸血鬼の正体は、つまりはボルギナンドとその仲間よね」
「そうでござるな」
キモヲタはフィオナの方をチラチラと見ながら、エレナに答えました。
「廃城を調査するクエストは、これまでに何度も繰り返し出されてきた。私が酒場で聞いた話では、帰還率が低くて、地元の冒険者は絶対に受けない。流れ者しか受けないクエストだって」
「確かにそうおっしゃっていたでござるな。そんなクエストが何度も出される……って、つまりギルドもグルなのでござるか!?」
「分からないわ。でもユリアスがクエストを受けた時に見せた酒場の連中の態度。彼らがどこまで知ってるかわからないけど、少なくともこのクエストが罠であることを知っているのは間違いないわ。だとしたらギルドの連中がまったく知らないわけがないし、無関係なはずもない。そして、この胸糞が悪いたくらみの中心にいるボルギナンドは、この街の領主の息子なのよ」
「それってギルドに向ったユリアス殿たちもヤバイのでは!? と言いますか、下手すると我々も危なくなるのでは!? 街の連中がすべてゾンビ化して一斉に襲い掛かってくるほどのホラーな流れになるのでは!?」
驚愕するキモヲタに、エレナが冷静な声で言いました。
「そうかもね。だからわたしたちは、すぐに街を出られるよう準備しておく必要があるのよ」
顔を真っ青にしたキモヲタは、全身全霊を込めた全力の速さで出発の準備を進めるのでした。
そして数時間後――
宿の前に馬車を止めて待機していたキモヲタのところへ、ユリアスたちが小走りでやってきました。
「キモヲタ殿! すぐに街を出ます! 出発の用意は出来ていますか!?」
そう言って、急いで馬車に乗り込むユリアスたちに、エレナが声をかけます。
「それで、どうだったの?」
エレナに頷きながらセリアが答えました。
「ギルドは間違いなく黒ね。今はボルギナンドたちの対応で混乱してる。急いで街を離れた方がいいと思うわ」
エルミアナが、手にしていた袋をキモヲタやエレナに見せました。
「しっかり報酬はいただいていますから、もうこの街に用はありません。すぐに出発しましょう!」
エルミアナの言葉にまったく異論のないキモヲタは、馬車に乗り込むと、そのまま街を後にするのでした。
キモヲタたちがボルギノールを去った数日後――。
ボルギナンドの最後のクエストから生還した者たちを暗殺するよう、領主から命令を受けた暗殺部隊が、ボルギノールの街を出発。
それからさらに数日後、ボルギナンドたちの悪行を告発する手紙が、ギルドと領主の元に届けられました。
それから三日後の深夜、ギルドが謎の爆発事故に見舞われ、ギルドの建物が全焼しました。以来、ギルド長が行方不明となりました。
その翌日の深夜、領主の屋敷にも爆発事故が発生。領主は死亡。領主の息子ボルギナンドは生存が確認されています。
屋敷が爆発する直前、行商人のハンネスが屋敷を見下ろす丘の野営の上で野営をしていました。
後に編成された事故調査団に、彼は次のように証言しています。
「森の中から、巨大な光の矢が屋敷に向って飛んでいくのを見た」
ちなみに暗殺部隊は二度と街には戻ってきませんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます