第74話 そろそろキーラタソのデレが来そうな予感

(ようやくキーラたんが、我輩にデレつつあるような気がするでござる)


 キモヲタが『女子学生の匂いがする煙玉』を使ってハーピーを撃退してから、キーラはキモヲタをかなり好意的に見るようになりました。


 発情したときに自分や他の女性たちに向ける厭らしい視線や、何が嬉しいのか良く分からない怪しい行動には辟易とすることには変わりがありません。


 しかし、キーラはキモヲタがどんなに発情していても、自分が本気で嫌がることはしないだろうということを、今では確信しているのでした。


 そもそもキーラはキモヲタの奴隷。キモヲタは奴隷紋を使えば、キーラに対してどのような破廉恥な行為にも及ぶことができるのです。


 しかし、キモヲタはこれまで一度も奴隷紋を発動させることはありませんでした。これまでキーラはキモヲタに対して逆らったり、噛みついたり、蹴ったり、自分でも後で反省するようなことを何度もしてきました。


 そんなキーラの態度を見た人たちの中には、キモヲタに対して奴隷紋を使うように助言する者もいました。それでもキモヲタは、奴隷紋を一度足りとも使おうとはしなかったのです。


 キーラは魔族捕虜収容所に収容されるまでに、人間が奴隷に対してどのような酷いことをするのかを、実際にその目で何度も目撃したことがありました。


 また収容所で出会った捕虜たちから、特に人間の男が、若い女性の奴隷を手に入れたときに、どのようなことをするのかを聞かされてきたのでした。


 そうした話に共通していたのは、女の奴隷が性的な暴行を受けるだけでなく、日常的に酷使され、暴力を振るわれることが多いということでした。


 ところがキモヲタの奴隷となってからの生活は、聞いていた話とはまったく違うものでした。厭らしいことをするということを除けば、他は真逆とも言ってよいものです。


 そんなことを考えつつ、キーラは今日のキモヲタの行動を振り返ってみました。


「そろそろ起きるでござるよ、キーラたん! 早く川で顔を洗ってくるでござる」


 自分は【足ツボ治癒】で体力回復できるからと、キーラの焚火の番を替わってくれたエプロン姿のキモヲタが、眠っているキーラを起こしてくれたのでした。


 街道を歩いて進んでいるとき、最初に疲れたと駄々をこねるのはいつもキモヲタです。


「そろそろ休憩しようでござる~! それとも我輩をバテさせてセルフ【足ツボ治癒】による、我輩の喘ぎ声を聞きたいでござるかぁ~」


 キモヲタがウダウダと愚痴を言い出すと、ユリアスやセリア、エルミアナは、キーラに助けを求めてきます。


「キーラ殿、お願いします」

「キーラ、またアレお願い!」

「キーラよろ!」


 するとキーラは、キモヲタの少し前を歩いて、スカートを少し上げて、


「頑張ってキモヲタ! あと500歩あるいたら、今日の縞シャンティが見れるかもよ!」   


 と言いつつ、キモヲタを煽ります。


「ふぉおおお! キーラたんの縞シャン! 縞パン! ふぉおお! 拡張絶対領域キター!」


 そうするとキモヲタはいつでも、張り切って、本当に体力の限界がくるまで、後ろからキーラを追い駆けてくるのでした。


 これはちょっとした茶番に過ぎません。それでも自分のシャンティを見るために張り切るキモヲタを見ると、自分の魅力に自信を持つことができて、嬉しくなるキーラなのでした。


 最近は、キーラが寝るときはキモヲタのお腹を枕にしたり、背中合わせになることが多くなってきました。


「キ、キーラたん……ちょっとだけ、先っちょだけいいですかな?」


「もう! ちょっとだけだからね! 」


「ふぉおお! 感謝でござるぞ! では先っちょだけ……」


 時々、というか頻繁に、キモヲタはキーラのケモミミの中にちょんと鼻を入れて、キーラの匂いを嗅ぎたがるのでした。


「クンカクンカ、スーハースーハ、ハスハス」


「キモヲタ、くすぐったい!」


 最初のうちは嫌だったものの、いつの間にか慣れてしまったキーラ。逆を言えば、こんなことをしながらも、キモヲタがキーラの身体に決して触れなかったので、いつの間にか安心してしまったということでもあったのです。


 セリア、エルミアナも、最初の頃はこの変態行為に対してキモヲタに鉄拳制裁を加えていましたが、今ではキーラがそれほど嫌がってないことが分かったので、特に何も言わなくなっていました。


「触れたくてもあえて触れない、見守る愛を貫くキモヲタ様、素敵……」


 といつものように何がなんでもキモヲタに対しては高評価を付けるユリアスでした。


 キーラが寝返りをうって、キモヲタに向き合って眠ることもあります。そういうときは、いつもキモヲタの荒くなった鼻息が顔に当たり、なんとなく胸元に視線が向けられているのを感じていました。


 そんなときには、必ずキモヲタが何かぶつぶつ言い始めるのです。


「イェス・ロリータ・ノータッチ……我は紳士なり、故にロリに触れず、ロリを汚さず、ただ心で愛でるのみ……我は紳士なり、故にロリに触れず、ロリを汚さず、ただ心で愛でるのみ……」


 キーラにはキモヲタのいう”ロリ”が一体何のことなのかわかりませんでした。しかし、最近ではそれはきっと自分のことで、キモヲタが自分を大切にしてくれようとしているのだと思うようになっていたのでした。


 いつもより寒さを感じる峡谷の夜。


 キーラは丸めた身体を、いつもより少し深くキモヲタに寄せて眠るのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る