第73話 秘密兵器は「女学生の匂いがする煙玉』でござる!

 峡谷の中で、ハーピーに襲われたキモヲタ一行。


 初めて見るハーピーに、妄想を膨らませていたキモヲタでしたが、その恐ろしい形相を見て一気に冷静さを取り戻しました。


「キィイイィギャァアアア!」


 恐ろしいスピードで急降下を掛けてくるハーピーに対して、キモヲタは横に転がって回避するので精一杯。


「キモヲタ! 早くスキルを使ってよ!」

 

 キーラが急かしてくるのは耳に入っているものの、回避してからでは間に合いません。スキルを放とうとしたときには、ハーピーは既に空高く舞い上がっているのです。


 目で捉えるだけで発動させることができる【お尻かゆくな~る】ですが、実のところその有効射程範囲はそれほど長くありません。キモヲタが山賊や魔物たちで実験したところ、およそ15メートルがスキルが通じる限界でした。


「キィイイィギャァアアア!」


 バサッ! バサッ!


 その鳴き声を聞いて、どこからかハーピーの仲間まで現れました。


「キモヲタ殿、こいつらの相手は私たちに任せて!」


 レイピアを抜き放ったエルミアナが叫びます。


 しかし、キモヲタはその声を無視して、キンタの背負っている荷物から何かを取り出しました。


「とうとうこれを使うときが来たでござるか!」


 そう言って取り出したのはキモヲタ自作の木製スリングショット。そのゴムの部分は、丈夫なコン○ームを使って作られていました。


 エルミアナがそのゴムに気が付いて声を上げます。


「それは、あのこんど~むとかいうものですね!? キモヲタ殿、あれに石を当てられるのですか?」


「ふふふ。散々、練習しておりますからな。自信たっぷりでござるよ! しかも飛ばすのは石ではござらん。奴にくれてやるのはコレでござる!」


「キィイイィギャァアアア!」

 

 ハーピーが再びキモヲタめがけて急降下の体勢に入りました。


 キモヲタは落ち着いて巾着袋から、お手玉のような小さなボールを取り出すと、それをスリングショットにセットして、ハーピーを狙います。


 ピューッ!


 キモヲタがスリングショットを構えた瞬間、ハーピーが急降下してきました。


「うひっ!?」


 ビビったキモヲタは、十分にスリングを引き切らないうちに手を放して、ボールを放ってしまいました。


 その上、キモヲタのスリングショット作戦にはさらに誤算がありました。


 ボールの重量が軽かったため、ハーピーに向って飛んでいく速度が出なかったのです。


「あぁああぁ!」


 ヒョロヒョロッと飛んでいくボールを見てキモヲタや他の仲間たちは、がっかりした表情を浮かべました。


 ところが――


「キシャアアアア!」


 バシッ!


 ハーピーの方からボールに向って行き、そしてボールを爪で引き裂いたのでした。


 バフンッ!


 引き裂かれたボールから大量の白い粉が舞って、ハーピーの視界を遮ってしまったのです。


「ギィイイイ!」


 ハーピーが悲鳴を上げて、地面に落ちました。


 そこへすかさずキモヲタが【お尻かゆくな~る】をハーピーに向って放ちます。


「ギィイイヤァア! ギィイ! ギィイ! ギィイ!」


 お尻を地面に擦り付けるハーピーの心臓に、すかさずエルミアナがレイピアを突き立てました。


「キモヲタ! 凄い!」


 キーラが褒めると、キモヲタはスリングショットを、続いて向ってくるハーピーたちに向けて構えます。


「ぐふふ! これぞ我輩が開発した煙玉! ネットショップで購入した『女子学生の匂いがするパウダー』をコ○ドームに詰め込んだものでござる! 名付けて『女子学生の匂いがする煙玉』でござる!」


 キモヲタは、向ってくるハーピーたちに次々と煙玉を放っていきます。


 スリングショットから放たれる煙玉は、それ自体の重量が軽過ぎるため、十分に引き絞っても、それほど速度も飛距離も出ませんでした。


 しかし、ハーピーたちは煙玉を見ると、目の色を変えて追い、そして爪で引き裂こうとするのでした。


 バフンッ!


「ギィイイイ!」


 地面に落ちたハーピーたちは、キモヲタが【お尻かゆくな~る】を掛けるまでもなく、ユリアスたちによって次々と討ちとられていきます。 


「じょしがくせー凄い! 凄いねキモヲタ!」

 

 キモヲタの隣でキーラが跳びはねて大はしゃぎしていました。


「ふふん! 異世界でも女子学生は最強なのでござるよ!」

 

 そう言って次々と『女子学生の匂いがする煙玉』を放つキモヲタ。


 ハーピーたちは次々と仲間が討ち取られているにも関わらず、その煙玉を見ると、目をギラギラさせて追いかけてきます。


(ほむ。白いものがいっぱい詰まった袋をどうしても追いかけてしまう……何とも業の深いことでござるな。あのような外見でもやはり雌は雌。白いのが一杯! 詰まった玉袋を! 追いかけてしまうのであるなぁ。嗚呼無情でござる)


「キモヲタ! よく分かんないけど、バカなこと考えてないで早く次撃って!」

 

 キーラの声を聞きながら、キモヲタは飛んで来るハーピーたちに、何となく自分と通じるものを感じながらも、次々と煙玉を放っていくのでした。


 そのうち制汗剤のようなベビーパウダーの香りが周囲に広がっていきます。


「ほむ……これが……女学生のか・ほ・り……」


 戦いが終わったのを見届けたキモヲタは、最後に思い切り深呼吸して、心静かに思うのでした。


(こんどキーラたんの耳にパフパフして、この匂いを楽しむでござる)




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