第67話 それが木製の胸であっても、離れると寂しいものでござる

 ウドゥンキラーナが、キモヲタたちに力を貸すことを宣言したことで、お尻の痒みから解放された村人たちは、あらためてキモヲタたちを歓迎するための宴を開くことにしました。


 宴の席には、キモヲタが村長にプレゼントしたカレーが小皿に盛られて出されたのですが、驚いたことに、カレーの下には白いご飯が敷かれていたのです。


「これはお米でござる! どうしてこんなところにお米があるでござるか!?」

 

 と騒ぐキモヲタをよそに、他の仲間たちは初めて食べるカレーライスの味に舌鼓を打っていました。


「それはのぉ、妾が異世界人と取引して得たものじゃ」


「異世界人!? やはり我輩の他にもいたでござるか? いったい何人いるでござる!?」


「さぁ、妾があったのは数人じゃが、彼らの話では数百人が一緒に暮らしておると言っておったの」


「ブフォォオ! 数百人ですとぉお!」


 思わぬ情報に驚いて、キモヲタは飲みかけのラッシーをウドゥンキラーナに吹きかけてしまいました。


 真っ白なラッシーがウドゥンキラーナの顔や身体に掛かります。しかし、ウドゥンキラーナは特に怒ることも驚くこともなく、一瞬でを体内に吸収してしまいました。


「多くてもクラス転移くらいの人数かと思ってござったが、まさか数百人とは……。どこぞの町や村ごと転移してきたのでござろうか」


 それだけの人数があれば、しっかりした共同体が形成されているはず。それなら彼を頼りにする方がいいのではという気持ちと、もう一方でどうしても想像してしまうバトロワ展開。


 さらにゾンビパニック映画でよくある、狂った独裁者による支配構造まで想像してしまって、葛藤するキモヲタでした。


「バトロワにしろ、独裁者にしろ、どちらにせよ我輩など最底辺のモブ展開しか想像できんでござる。ここはやはり隠れ続けるのが正解でござるな」


「なんじゃ主、他の異世界人には、己のことを知られとうないのかえ?」

 

 キモヲタは考えを口に出してしまっていたことに気づき、焦りつつ答えました。


「我輩の知る限り、異世界人というのは得てして己の力に無自覚で、傍若無人で、女と見ればハーレムを作るような輩が多いのでござる。そういうのとはあまり関わりたくないというのが本音でござるな」


 キーラとセリアとエルミアナが、一斉にうんうんと頷きました。


「ほう。主が言う異世界人というのはどうも悪魔勇者のことのように聞こえるんじゃがの。妾が出会った異世界人は、みんな気の良い連中じゃったがのぉ。……まぁ、なかには妾の髪を燃やすのもおったが」


「悪魔勇者って何のことでござる? それも異世界人なのでござるか?」


 キモヲタの質問にはユリアスが答えました。


「セイジュー神聖帝国の皇帝のことですよ。皇帝は禁忌とされる召喚儀式によって呼び出された異世界人と聞いています」


 ユリアスの説明をセリアが引き継ぎます。


「セイジュー皇帝は、灰の船によって焼き滅ぼされたと言われています。どうもこの船というのが異世界から来たものらしいですね。王都に駐在していた騎士団員が、船の乗組員を見たことがあると言っていました」

 

「主らも異世界人についての事情はある程度知っておるようじゃな。ところでのぉ、主よ」

 

 ウドゥンキラーナがキモヲタの腕をとって、囁くように言いました。


「主ら異世界人は、ネットスーパーなる力で、異世界のものを引き寄せることができるのじゃろ?」 

  

 そう言いながらウドゥンキラーナは、キモヲタの腕を自分の胸の谷間へ挟み入れます。木製のはずのその胸は、やはりとても柔らかく、フニフニしています。


「ちょ、魔神殿、う、腕が幸せ過ぎるので、少し離れて(もっと押し付けて)くださらんか」


「キモヲタ! 本音が漏れてる! 漏れてるよ!」


 キーラがすかさずツッコミます。


「それでのぉ。キモヲタよ、もし主がこのようなものを妾に捧げてくれるのであれば、主を天国に連れて行ってやっても良いのでありんす❤」


「ふぉおおお!」


 ウドゥンキラーナによる再びの股の付け根サスサスに、思わずキモヲタは声を上げてしまいました。


 コトンッ!


 キモヲタの目の前に白いプラスチック製のボトルが置かれました。


「主も、これを手に入れることはできるかや?」


「これはなんでござるか?」


 キモヲタがボトルを手に取ってみると、ラベルには「液体肥料 ハイパーボリアックス」と書かれていました。


「肥料!?」


「そうなのじゃ。妾はこれが大の好物でのぉ。タカツや竜から仕入れる数では物足りんのじゃ。改めて尋ねるがこれを手に入れられるかや?」


「我輩の力では無理でござる」


「そうかや。なら主にもう用はないの」


 キモヲタが答えた瞬間、ウドゥンキラーナはキモヲタから腕を解いて距離をとりました。


「えっ!?」

 

 僅かに腕に残るウドゥンキラーナなの胸の感触を、キモヲタは大変惜しく思ったのでした。




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