第66話 魔神様の仰せのままに……ってお尻が痒っ!

 魔神ウドゥンキラーナとの和解を結び、ついでに男女の契りまで結びかけていたキモヲタ。


 しかし、キーラがそれを止めたことで、男女の契りの方はご破算になってしまいました。


「なんじゃ主よ、大層愛されておるようじゃありんせんか。なら妾の出る幕はないでありんす」


 そしてウドゥンキラーナは、それ以上キモヲタを誘惑することはありませんでした。


 セリアが瞳の青い焔を揺らめかせながら、ウドゥンキラーナに話しかけます。


「あなた魔神なのに、あっさり引き下がるんですね? 意外です、あなたなら力づくでキモヲタを従わせることもできるでしょうに」


「昔の妾ならそうしたやもしれんがの。少し昔、知らずに他の女と契りを交わした男を誘惑したら、その女に髪を焼かれてアフロヘアにされたことがあったのじゃ。それからは、お手付きの男を誘惑するのは止めたのでありんす」


 そう答えながら、ウドゥンキラーナはセリアの瞳をジッと覗き込みます。


「それよりその目……主らが魔神と呼ぶ妾よりも、遥かに邪悪なものに見えるのじゃがの?」


 セリアは、さっとウドゥンキラーナから視線を逸らしました。


「まぁ妾には関係ないことじゃ。それよりも主たちは”賢者の石”を探しているということらしいが、それで間違いありんせんか?」


 ウドゥンキラーナの口から賢者の石の名前が出たのを聞いて、ユリアスが前に進み出ます。そして女神の前に跪くと丁寧に頭を下げました。


「はい。私共は賢者の石を探しております。女神ウドゥンキラーナ様がそれをお持ちと伺っているのですが」


「主は、騎士のようじゃが、賢者の石を欲しているのは主自身かの? それとも主が使える主かの?」


「我が主君であるフェイルーン子爵にございます」


 ユリアスの答えを聞いたウドゥンキラーナの顔が退屈そうな表情に変わります。


「はぁ……なるほどのぉ、権力者というのが辿り着く欲望の先はどれも同じということじゃ。つまらんのぉ」


「いえ、我が主君に限っては……」


 主を擁護しようとするユリアスを、ウドゥンキラーナは手で制しました。


「あぁ、分かっておる、もうよい。先に言っておくべきじゃったの。妾は賢者の石を持ってはおらん」


「なんと!? では他の魔神様が?」


「いやウディーラもウヌストリアも持っておらぬぞ。直接、聞いてみるかの?」


 ウドゥンキラーナがそういうやいなや、その両肩から2つの頭が生えてきました。驚愕したキモヲタやユリアスたちがあんぐりと口を開けて呆けていると、その首が話し出しました。


「賢者の石? ウディーラは、そのようなものは持っておらぬぞよえ」


「ウヌストリアも、そんなものは知らん。我は忙しいのだ。つまらぬことで呼び出すな!」


 それだけ述べると二つの頭はシューッと縮んで消えてしまいました。結局、賢者の石の情報を何も得られなかったユリアスが、がっくりと肩を落とします。


「そう気を落とす出ない。少しヒントを授けようではないか」


「ヒント……ですか?」


「妾は賢者の石は持ってはおらぬが、賢者の石が誰の手にあるかは知っているでありんす。しかも二つとも」


「二つ! やはり賢者の石は二つあったのですか!?」


 ウドゥンキラーナの言葉に気を取り直したユリアスが大声をあげました。


「何、今さら出し惜しみなぞせん。二つの石のありかを教えてしんぜよう。ひとつは『魔族を率いる竜の首』に、もうひとつは『片目の皇妃の目の中』に……」


 それまで黙っていたエルミアナがウドゥンキラーナに問いかけます。


「それは謎かけですか?」


「そんな面倒な話ではありんせん。言葉通りの場所にあるでありんすよ」


 そう言うと、ウドゥンキラーナはキモヲタに覆いかぶさるように、木の身体の下半身をグーッと延ばします。


「ひぃぃい!」


 怯えるキモヲタに、ウドゥンキラーナは笑いながら言いました。


「もし、主が魔族軍か人類軍に組みしているのであれば、生きては帰さぬつもりでありんしたが……」


 キモヲタの頬にウドゥンキラーナが優しく手を添えます。


「キモヲタよ。主からはあの者たちと同じ匂いがするでありんす。つまりは主もこの世界の守り手として聖樹によって遣わされたのであろう。主たちが、あのやっかいな蟲どもを蹴散らしてくれるのじゃろう。なれば、妾は主たちに力を貸そうぞ」


 言葉の最後に、ウドゥンキラーナはキモヲタの頬にそっと口づけをし、そして伸ばしていた身体を元に戻すのでした。


「ななななっ!」


 混乱しているキモヲタと仲間たちをそのままにして、ウドゥンキラーナはその身体を二回りほど大きくすると、小人たちに向って言葉を発しました。


「汝らトゥチョ=トゥチョ族の民よ! 我が愛し子たちよ! このキモヲタと同行の仲間は、我らが友であり、大事な客人でありんす! そしてこのキモヲタはタカツやシンイチと同じく異世界から来た勇者! 大切にもてなすでありんすよ!」


 この時点では、まだお尻の痒みに苦しんでいた村人たち。


 しかし、村の代表である白髭小人村長は、その責任感をフルバーストしてウドゥンキラーナに応えました。


「ははぁ! 痒っ! ウドゥンキラーナ様の仰せの、痒っ! まままにぃぃ。痒いぃぃ!」

 

 村長の言葉を聞いたミミとノノアが「何か良いことを思いついた」という顔になり、お互いお尻を強く擦りつけ合いました。


ぁあん❤」


 二人の様子を見て、その意図に気が付いた村人たちが、次々と強くお尻を擦りつけて……


「「「ぁあん❤」」」


 と喘ぐのでした。


 その様子をジト目で見ていたキモヲタたち。セリアがポンッと手を叩いて言いました。


「あっ、あれって魔神に返事してるのよ! ””って!」

「言わんでいい!」


 村人たちの喘ぎ声に混ざって、キモヲタの絶叫が響き渡るのでした。




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