第43話 岩トロル討伐作戦開始でござる!
最初に岩トロルを見たとき、それが単なる大きな石の像だと思っていたキモヲタは、色々とイタズラをして遊んでいました。
それをユリアスに見とがめられ、「挑発していると狙われますよ」と脅された際に、ビビったキモヲタが思わず【お尻痒くな~る】を放ってしまっていたのでした。
一見するとヘンテコなこのスキルですが、かつてはエルミアナを襲ったオークを撃退し、ユリアスを襲ったサイクロプスも撃退し、ついでに言えばキーラまで撃退しています。
そのため 【お尻痒くな~る】の恐ろしさ(笑)を知っているエルミアナとキーラは、いま動けずにいる岩トロルの悶絶具合をなんとなく想像することができたのでした。
そんな二人とユリアスからジト目を向けられたキモヲタ。気まずい空気と話題を変えるべく奮闘をはじめます。
「い、いやぁぁあ、まさか岩になっているような相手にまで我輩のスキルが通るとは~。我輩もなかなかやるでござるなー! と、ところでユリアス殿とエルミアナ殿もいまご使用中のおシャンティは純白だったりするでござるかなー? 我輩、いま縞々シャンティなるものを仕入れたばかりで、ぜひお二人にもご試着いただきたくー」
「キモヲタ様!」「キモヲタ殿!」「キモヲタ!」
「は、はいぃぃぃい!」
三人から大声を浴びせられたキモヲタは思わず、その場に土下座してしまいました。そして頭を地面に擦りつけながら、必死になって弁解をはじめます。
「決してわざとやったわけではござらん! 我輩、肝っ玉が超ミニサイズな小心者故、ついビクッってなってやってしまっただけでござる!」
小さく身体を丸め、これから飛んで来るであろう罵倒に耐えるべく身構えたキモヲタ。しかしキモヲタに投げかけられた言葉は、罵倒などではありませんでした。
「キモオタ様、凄いです!」
「キモヲタ殿、なんと凄いことを!」
「キモヲタ、凄いじゃない!」
「へっ?」
いきなり皆から褒められて、予想外の状況にポカンとしているキモヲタ。そんな彼にキーラが最初に声をかけました。
「岩トロルみたいなヤバイ化け物にスキルが通じるなんて! これはとっても凄いことだよ、キモヲタ! ボク、キモヲタのこと見直しちゃった!」
「ほへ?」
続いてユリアスが声をかけました。
「そうですよキモヲタ様! サイクロプスのときは私も一杯一杯で気がつきませんでしたが、岩トロルにキモヲタ様の魔法が通じるとは! これはもう負ける気がしません!」
「おっ!?」
そして最後にエルミアナが声をかけました。
「私はハッキリと見ていたわけではないのだが、私を襲ったオークたちにキモヲタ殿が使った魔術。それが岩トロルにも有効であったということですね! 素晴らしいです。これでセリアに危険が降りかかるのを防ぐことができます!」
キーラがユリアスとエルミアナに向って言いました。
「セリアの魔法が発動するのに時間が掛かるっていうなら、岩トロルが動きはじめたときにあの大木に誘導してやればいいんじゃない? お尻を擦りつけているうちに、魔法を完成させてドカーンってぶつけてやればいいんだよ!」
キモヲタの【お尻かゆくな~る】を体験しているキーラは、その強烈な痒みを知っています。
なので、キモヲタのスキルが岩トロルに通じるのであれば、セリアの魔法が完成するまで、岩トロルを大木に縛りつけておくことが十分可能であると確信しているのでした。
キーラの提案を聞いた風の精霊ウィンディアルが、エルミアナに向って言いました。
「私も力を貸してあげる! 岩トロルが動き出したら風と音でその大木に誘導するわ。簡単なことよ。そいつの耳元で『お尻を掻くのに丁度いい木がそこにあるわ』って教えてあげるの」
先程までユリアスは、岩トロルが動き出した後の死闘について不安を募らせていました。
セリアが魔法を完成させるまで岩トロルの行動を封じることができるのか、正直なところ自信がなかったのです。
ところが【お尻痒くな~る】が岩トロルにも有効であることがわかった今、作戦の難易度がイージーモードに入ったことに心底安心したユリアスなのでした。
「それでいきましょう!」
ユリアスはそう言い残すと、魔法陣の準備を始めているセリアの処へ説明に戻って行きました。
~ 作戦開始 ~
キモヲタは、お尻掻き用の大木の前に立って【お尻痒くな~る】がいつでも発動できるように準備運動をはじめておりました。
その隣にはユリアスとキーラが立っていて、二人は岩トロルが動き出したときに挑発することになっていました。
岩トロルの目の前にはエルミアナが立っていて、岩トロルの視線を大木とその近くにいるユリアスたちへ向うように誘導することになっています。
全員が配置についたときには、セリアは最初の詠唱をはじめていました。
「原初の海より初めに姿を現したる、最初の大陸にして最古の大陸に降り立ちたる豊穣と竈の女神、慈悲と慈愛溢るる聖樹の母ラヴェンナの名において、我、聖樹の徒にしてラヴェンナの竈に海なる山なる燻製を捧げし者セリア・アルトワイズが
セリアの一時間に渡る詠唱がはじまったのでした。
すでに空は赤く染まり、夕陽がジワジワと沈みつつあるのが目に見えます。
一時間もしないうちに夜が訪れることは間違いありません。
セリアが魔法陣の中で詠唱を続けるのを、真剣に見守るエミリアとユリアス。キーラは、岩トロルが動き出すタイミングを見逃すまいと、じっと観察を続けています。
一方、キモヲタは適当なタイミングを見計らって、岩トロルに対して【お尻痒くな~る】を発動し続けていました。
「ハッ!」
「ヨッ!」
「アタッ!」
キモヲタが奇妙な掛け声を発する度に、風の精霊ウィンディアルが白いイルカのお腹を抱えて笑い転げていました。
「アーハハハハッ! キモヲタ、アナタって本当に酷いことするのね! 岩トロルのお尻がトンデモないことになってるわよ! これまで数千年生きて来たけれど、岩トロルの涙声なんて初めて聞いたわ!」
風の精霊ウィンディアルの会話が、周囲の真剣な空気をぶち壊すのでした。
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