第41話 それなら私に良い策があります!
エルミアナに従って歩き続けたキモヲタたちは、街道を巨大な岩が塞いでいるのを見つけます。5メートルはあろうかという巨大なその岩は、まるで巨人が膝を抱えて座っているかのような形をしていました。
「これが岩トロルでござるか。でかいでござるなぁ」
見た感じは、随所に苔が生えた古代の古びた石造に見えないこともあって、それが動くなどとは想像できないキモヲタは、観光名物でも見ているかのような呑気さでした。
コンコンとあちこちを叩いて見たり、ゲシゲシと足で蹴ってみたり、正面の顔らしき部分の前で変顔をしてみたり、悪い観光客の見本みたいな行動をキモヲタが繰り返しています。
「キモヲタ殿、あまり挑発するのはお勧めしません。石化しているとは言え、こいつは意識を持っています。夜中に動き始めたときに狙われかねません。」
ユリアスから警告を受け、初めてキモヲタはこの石造に対して恐怖を感じ始めたのでした。そう言われてみれば、今は石のように見える目が視線をキモヲタに向けているような気がしてきました。
「ひっ!?」
キモヲタは慌てて後ずさりします。ほぼ反射で、石造に対して【お尻かゆくな~る】を放ちました。
「キモヲタ! 遊んでないでちゃんと話を聞いて!」
キーラがキモヲタをユリアスたちのところへと引っ立てていきました。
「分かったでござる! 分かったからお腹の肉を引っ張るのをやめてくだされ!」
キーラに腹を掴まれながらも、キモヲタは石造に目を向けていました。
そしてある確かな実感を得ていたのでした。
ユリアスとセリア、そしてエルミアナは、岩トロルの周囲を調べて得た情報をお互いに交換しているところでした。
「エルミアナ殿の言う通り、この沢山の足跡は魔族軍のもので間違いないだろうな。セリアはどう思う」
汗で顔に張り付いた金髪をかき上げながら、ユリアスが青い瞳をセリアに向けて言いました。
「間違いないでしょう。この岩トロルはその部隊が率いていたもので、暗くなったら先行している部隊の後を追いかけ行くと思われます。一般的な岩トロルの運用であれば、恐らくこの近くに岩トロルを誘導する者が潜んでいるはず」
「恐らくこの先で死んでいるゴブリンがそれでしょう。人類軍の兵士と争って相討ちになったように見えました」
ユリアスが美しい顎にそっと手を添えて考え込みました。
「魔族軍の足跡は、私たちの向う方向と一致している。つまり、この街道の先にある村に向っているはずだ。彼らの目的が何であれ、補給のために略奪する可能性は高い」
「ユリアス様、今の私たちでは軍隊を相手にすることはできません」
セリアの言葉に、ユリアスは頷きます。
「分かっている。だが村の様子は確認しておきたいし、我らの力が必要というのであれば……できれば手助けもしたいと思う」
「ですがユリアス様、それをエルミアナ殿や他の二人に命じることはできませんよ。彼らは人類軍でも白バラ騎士団でもありません」
セリアの言葉を聞いたエルミアナが二人に己の考えを述べました。エメラルドのような瞳には、これから話す自分の提案に確固たる自信を持っていることが伺えます。
「それならここで岩トロルを倒してしまいましょう! 足跡の数からそれほどの大きな部隊ではないことは間違いありません。岩トロルの支援がなくなるのは、彼らにとって相当の痛手になるはずです」
ユリアスは一度は大きく頷いたものの、その後、また考え込んでしまいました。
「とはいえ、現状、我々の所持している武装では岩トロルに傷を付けることさえできない。夜になって動き出すようになれば、少しは刃も通るだろうが、それでもこいつの固さは相当なものだぞ」
セリアが黒い髪をファサッとかき上げながら、青い焔が揺らめく瞳をユリアスに向けて言いました。
「それなら私に良い策があります」
(それはフラグですぞ! セリア殿ぉおお!)
と、心の中でツッコミを入れるキモヲタでしたが、自分は、三人の話をほとんど真剣に聞いてはいませんでした。
キモヲタは、少し陽が傾き茜色に滲みつつある中、三人の美女が目の前に立っていることに感動し、その美しさに見惚れていたのでした。
見惚れていただけでなく、三人のバストトップの位置の違いや、胸の形、腰のくびれ、お尻の形、太ももを舐めたらどんな味がしそうか、どんなシャンティを履いていそうか、あるいは似合いそうか、そういったことを考えつつ、ひたすら脳内RECを続けていたのでした。
「キモヲタ! 今絶対にエッチなこと考えてたでしょ! そういうのボク分かるんだからね!」
ゲシッ! ゲシッ! ゲシッ!
これからセリアの言うところの「良い策」について話し合おうとしていた三人の女性から、氷よりも冷たい目線がキモヲタへと向けられるのでした。
ユリアスが咳払いをして言いました。
「キモヲタ殿、申し訳ないがこれから重要な作戦会議を行うので、少しだけ離れていてもらえないだろうか。キーラ殿、悪いが……」
「分かった! ほらアッチ行くよキモヲタ!」
ゲシッ! ゲシッ! ゲシッ!
「酷い! キーラ殿が我輩をここに連れて来たというのに酷いでござる!」
といいつつも、それほど痛くはないキーラの蹴りを、内心で「ご褒美」と喜んでいたキモヲタなのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます