第38話 ふぉおお! キーラタソの生シャンティ!

 エルミアナがキモヲタに謝罪したことで、それまで緊迫していた空気が一機に和らぎました。


 ユリアスが女主人に騒がせてしまったことを詫び、いま食事をしている客たちの食事代を支払うと告げました。それを耳にした幾人の客からちょっとした喜びの声が起こって、再び食堂にいつもの喧騒が戻ってきました。

 

 その日は宿に一泊し、翌日ユリアスたちは賢者の石の探索に出発するのでした。


 「今度来るときは、もうあんな騒ぎは勘弁だよ!」


 一行を見送る女主人に、ユリアスは笑顔で手を振ります。


 そのときユリアスたちは、女主人たちの他にも、彼らをじっと見送っている人物に気づくことはありませんでした。


 その男は普通の旅人のような服装をしており、他の客たちと同じように食事をしていました。しかしその目線には、一般人と異なる鋭い眼光が宿していたのです。




~ ユリアス~


 ルートリア連邦に向う道を歩くユリアスとキモヲタたち。


 ユリアスはキモヲタとエルミアナの様子を見ながら、昨日のことを考えていました。


 あの騒動の後、もしエルミアナとキモヲタの関係の修復ができなかったら、この探索を中断して、再びメンバーの選出から出直すハメになっていたかもしれないからです。


 そのためユリアスは、激昂するエルミアナを説得して、キモヲタに対する憎悪を取り除くきっかけを作ってくれたキーラに、心の底から感謝していました。


 それまでユリアスはキーラに対して、奴隷紋によってキモヲタに服従させられている奴隷少女としか見ていませんでした。もしかすると、キモヲタが性的欲望を満足させるために連れ歩いているのではないかと、苦々しく思っていたのです。


 性的な目的で奴隷を購入するのは、アシハブア王国や人類軍参加国の男性にとっては当たり前のこと。しかし、自分が好意を寄せているキモヲタが、そんな男たちと同じであるなどと、ユリアスはどうしても認めたくなかったのでした。


 そのため昨日の騒動の結果、キモヲタとキーラの関係性が決して主人と性奴隷というものではないことを感じたユリアスは、キーラに対する好感度を大きく引き上げていました。


「キーラ殿は、キモヲタ様のことを本当の家族のように思っておられるのだな」


 歩きがてら、ユリアスはそうキーラに話しかけました。


「えっ!? キモイからそんなこと言わないでよ! こんなオークみたいな家族なんてお断りだよ! ねっ、キモヲタ!」


 そう言いつつ、キモヲタの方を見るキーラの顔は明るい笑顔で、その尻尾がくるくると回転しています。


「アハッ……アハハハハ……ハァ……」


 一方、キーラの言葉を字面の通り受け取ってガックリと肩を落とすキモヲタ。


「もうっ! そんなに落ち込まないでよ! 冗談に決まってるでしょ!」


 キーラはキモヲタの手を取ると、トボトボと歩くキモヲタを前へ前へと引っ張ります。


 そんな二人の様子を見て、ユリアスはほんのりと微笑みを浮かべるのでした。




~ セリア ~


 キーラがキモヲタの手を引いて歩くのを見ながら、セリアはキモヲタに対する自分の評価が違っていたかもしれないと考えていました。


(このキモヲタとかいう男。ただの変態かと思っていましたが、どうやらそうでもなかったようですね。犬耳族は、己が主人と認めた者に対して高い忠誠心を持つのは確かです。しかし、主人と認めない場合は、たとえ奴隷紋で縛ろうとも、ここまで気を許した笑顔を見せることはないはず)


 セリアは青く燃える瞳をキーラに向けました。


(昨日のエルミアナに向って行った彼女の振る舞いから考えて、この娘がキモヲタを大事に思っていることは間違いありません。エルミアナがレイピアを手放していたとはいえ、怒れるエルフが恐ろしく油断ならない相手だということは、この娘にも分かっていたことでしょう。爪を伸ばして警戒していたのですから)


 セリアがキーラに目をやると、キーラは落ち込んでいるキモヲタを励まそうとしていました。


「ねぇキモヲタ、さっきのは本当に冗談だって! ボクはキモヲタのことが好きだよ! キモヲタはボクのこと好きじゃないの?」


 それまでトボトボと歩いていたキモヲタが、いきなり元気を取り戻して、奇妙なダンスを踊り始めました。


「天地神命にかけてそんなことはござらん! 我輩、キーラタンシュキシュキ大シュキジェントルマンでござるよ! L・O・V・E・キーラタソ! ハイッ! ハイッ! ハイハイハイハイッ!」


「アハハ! やっぱりキモヲタってキモーイ!」


 とキーラに言われて、再びガックシと肩を落としトボトボと歩き始めるキモヲタでした。


(キモヲタに対する評価を改めないといけないかもしれないわね)


 キーラの無邪気な笑顔を見たセリアは、キモヲタという人間を、犬耳族の少女がここまで気を許す人物なのだと理解することにしました。


「ほらっ! キモヲタ! 元気出して歩く! 頑張ったらご褒美あげるかも!」


 キーラがキモヲタの少し前を歩きながら、スカートの裾をちょっと持ち上げます。


「ふぉおおお! キーラタソの絶対領域キター!」 


「今日は短パン履いてないから、この下はシャンティだよー! ほら頑張って歩いたら見せちゃおうかなー!」

 

「ふぉおおお! 本当でござるか! 本当でござるな! 本当に白いパンチラご褒美でござるな! ふぉぉおおキーラタソの生シャンティ! ふぉおお!」


 突然鼻息を荒らげて、キーラの後ろを必死に追い駆けるキモヲタを見たセリアは、改めて考えるのでした。


(この男、ただの変態かと思っていましたが……)


(どうやら真正の変態だったようです)


 セリアからの評価が一段階下がったキモヲタでした。


「ふぉおおお! キーラタンの生シャンティぃいぃい!」

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