第31話 ケモミミ耳の香りスーハーッ

 キーラがキモヲタの奴隷となって一カ月が過ぎました。


 それだけの間、キモヲタと一緒に生活を続けていたので、キーラはキモヲタのことをほぼ完ぺきに理解していました。


 今となっては、キモヲタと初めて会ったときのことも、魔族捕虜収容所の待合室での出来事も、キモヲタは単に自分のことを助けてくれたのだと心の底から納得していたのです。


 キモヲタは、ただ本人がキモくて小心者でキモイために、他人から色々な誤解を招いてしまうだけ。本当のキモヲタは、そうじゃないということを、今のキーラは知っていました。


 本当のキモヲタはキモくて小心者でキモイい小物であることを、キーラはもう理解していたのです。


 なので朝一番のキモヲタの奇妙な行動も、今では寝た振りを続けることができました。


「スーハーッ、スーハーッ、犬耳族のケモミミ耳の香りスーハーッ、たまらんでござるぅぅ」


 耳元でブツブツと呟くキモヲタに背を向けて、キーラは反対側に寝返りを打ちます。その際、サービスで毛布を尻尾にひっかけて、白いお尻をあらわにするのでした。


 キモヲタは一瞬のうちにキーラのお尻の前に移動してしゃがみ込んでいました。


「ふはぁぁあ、この天使の真っ白なプリケツ! 至高! 至高のお尻でござるよ」


 キーラは、スッとキモヲタが動く気配を感じました。


「……ふぉっとぉおお!」


 ズサッと大きな音を立ててキモヲタが後ずさりします。そしてブツブツと何かの呪文を唱えはじめました。


「イェス・ロリータ・ノータッチ……我は紳士なり、故にロリに触れず、ロリを汚さず、ただ心で愛でるのみ……我は紳士なり、故にロリに触れず、ロリを汚さず、ただ心で愛でるのみ……」


「んっ……んっー! キモヲタおはよう!」


 そう言ってキーラは今起きた風を装ってキモヲタに声を掛けました。最近は、もうキーラも慣れたものです。


 初めのころは、もしかすると襲われるかもしれないという恐怖に怯えていました。しかし、今ではキモヲタが、女性に手を出すような(出せるような)男ではないことをキーラは理解していました。


 キモヲタは自分が「二次元ロリ紳士教」を信仰していると言っていました。その教義を聞かされたときには、なんの冗談かと思って笑っていたキーラ。ですが、最近では、キモヲタは本気で信仰しているのかもしれないと思うようになりました。


「お、おはようごでござる、キーラ殿! わわわ、我輩も今起きたところでござるよ。デュフコポー」


 本人は動揺を隠しているつもりなのでしょうが、キモヲタは自分の荒い息遣いも、額に流れる汗も隠しきれていませんでした。


「うん! 今日もいい天気だねー! 日差しがキモチイイぃぃ!」


 キーラは窓辺によると腕を上に伸ばしつつ、わざとシャツの脇から横乳がチラリと見えるようにして身体を捻りました。薄目を開けて様子を見ていると、その一瞬でキモヲタはキーラのすぐ隣に移動して、キーラの白い乳房を覗き込んでいました。


(サービスはここまで!)


「ふーっ!」


 ゆっくりと伸ばした腕を降ろして目を開くと、いつの間にかキモヲタは部屋の扉の前に立っていました。


「キーラ殿は先に朝食をとっておいてくだされ、我輩は少し所用を済ませてから参るでござる」


 キモヲタが部屋を出て行ったので、キーラは先に食事を済ませておくことにしました。こういう場合、あとでスッキリした顔でキモヲタが戻って来たとき、なんだか生臭い匂いがするので、キーラは先に朝食を済ませておくことにしていました。


 自分の行動がキーラにまったくバレていないと思っているキモヲタは、普段はキーラのことを子供だとバカにしてきます。


 ちょっとした口喧嘩になったときなどは、


「まったくこれだからガキは駄目なんでござるよ。文句があるなら受付のお姉さんくらいの胸部装甲を装備してから言えなのでござる!」


 と、一瞬でキーラを沸騰させるような言葉を投げかけてきます。


「あー、そうですかー、それは残念だなー」


 最初の頃は、キモヲタにブチ切れて飛び掛かっていったキーラも、今は余裕で流すことができるようになってきたのでした。




~ 依頼 ~


 今日も、いつものように地下室での治療の仕事を終えたキモヲタとキーラ。


 解体場での仕事を手伝った報酬に、親方からたっぷりの肉を分けてもらったキーラは、ニコニコ顔でキモヲタの隣を歩いておりました。


 二人が冒険者ギルドの裏口から入ると、受付嬢がキモヲタに気づいて声を掛けてきました。


「キモヲタさん! お客様がいらっしゃってますよ」


「お客様? 今日はもう閉店なのでござるが……」


 そう言って断ろうとしたキモヲタの前に、ヌッと背の高い人影が現れました。


「キモヲタ様!」


 それは、キモヲタに高い好感度を持つ珍しい存在、姫騎士ヒロインにして白バラ騎士団の第三隊長、ユリアス・ヴァルガーその人でした。


「おぉ、ユリアス殿ではござらんか! なんだか久しぶりな感じがしますな! デュフコポー」


「はい! ずっとお会いしたかったのですが、何分今はまだ戦時中、自由にできる時間がなかなかとれない状況なので」


「白バラ騎士団の姫隊長ともなれば仕方なきことでござる。それで本日は我輩にどのようなご用向きで参られたのでござるか?」


「はい。実は……」


 ユリアスは、キモヲタに期待を寄せるようなキラキラとした瞳を向けてきました。


「キモヲタ様に、賢者の石の捜索を手伝っていただきたいのです」


 この連日、ずっと治癒仕事が続いていたために、精神を摩耗していたキモヲタは冒険の予感に胸を躍らせるのでした。


(お金をたんまりと貯めて、田舎でのんびりスローハーレムが一番の目標でござるが、それにしても治療しては微妙な感謝と憎悪を受け取る日々には、ちょっとうんざりしていたところでござる。そろそろ冒険したい気分だったでござるよ!)


「承りました!」

 

 詳細を聞かずに先に返事をするキモヲタでした。




※天使の資料

キーラ(画像)

https://kakuyomu.jp/users/teikokuyouitaisakukyoku/news/16818093076458134522

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