第29話 魔物解体場の地下室
「では、これから我輩の職場に向かうでござるよ。デュフコポー」
新しく作成した冒険者カードをキーラに手渡しながら、キモヲタが言いました。
「職場?」
「我輩、ここのギルドと専属治癒師の契約を結んでいるのでござる。クエストから戻ってきた負傷者を治しているというわけですな」
(ふーん、あそこでキモヲタは働いてるんだ。とりあえず安定した収入源はあるってことだね。よかった)
どうやら空腹に苦しむことはなさそうだと安心したキーラ。受付カウンターの右奥の扉に掲げられている「診療所」の木札に向って歩きはじめました。
ところが、キモヲタはギルドの裏口へと向います。
「えっ!? キモヲタ、どこ行くの? 診療所はアッチだよ?」
慌てて追いかけるキーラにキモヲタは言いました。
「こっちでござるよ」
キーラがキモヲタの後を追います。
キモヲタと一緒に裏口を抜けると広い敷地に出ました。敷地の一角では、新人冒険者パーティに対する剣技や魔法の指導が行われていました。また他の一角では、昇格希望者に対する実技審査が行われています。
色々と騒がしい間を通り抜けて、キモヲタは敷地の外れにある大きな平屋の建物のなかに入っていきました。
その建物に掲げられている看板の文字はキーラにも読むことができました。
「魔物解体場……?」
建物の中では、沢山の人が魔物の解体作業にいそしんでいました。
その中心では、禿げ頭のおっさんが大声を上げてあちこちに指示を出しています。
カンッ! カンッ! ガンッ!
「おいっ! その頭をしっかり押さえてろ! そいつ牙はかてぇんだ」
「はい親方!」
カンッ! カンッ! ガンッ!
喧騒の中、キモヲタは身体を小さくしてオドオドしながら、
「ど、どうも」
と誰に言ってるのかわからない挨拶をして、建物のなかを進んで行きました。
小さな声が聞こえたのか、単にキモヲタが目に入っただけなのか分かりませんが、キモヲタに気がついた親方がキモヲタに向って手を振ります。
「おー、キモヲタ! 今日も怪我の治療か? がんばれよ!」
「ど、どうも~でござる」
キモヲタは親方にヘコヘコ頭を下げながら、解体場の奥にある地下室の入り口へと入っていくのでした。
ランタンが灯されている薄暗い地下に降りると、ひんやりとした空気がキーラの肌を撫でました。そこには貯蔵庫と書かれた扉がいくつもありました。
キモヲタが足を止めたのは、その中でも一番奥にある扉でした。
「ここが我輩の職場でござるよ」
キーラが扉に掛けられた木札を見ると、そこには確かに「治療室」と書かれていました。
「ここが治療室? 地下の貯蔵庫に? 治療室?」
頭が混乱するキーラは、キモヲタと奴隷契約させられた自分の運命に暗雲が立ち込めていくような幻が見えたきがするのでした。
~ 治療開始 ~
地下貯蔵庫にある治療室で、キモヲタとキーラはジッと向かい合って座っていました。
「……」※キモヲタ
「……」※キーラ
「……」※キモヲタ
「……寒っ!」※キーラ
キーラは両腕で自分を抱き、ブルッと身体を震わせました。
地下室には、定期的に冷気の魔法がかけられているため、かなり寒いのです。
「キーラ殿、上で待っていても良いでござるよ。ここは冷えますからな。客が来たらここに案内してくれればいいでござる」
「わ、わかったよ。でもキモヲタは大丈夫なの?」
「まぁ、我輩も上で待つことも多いのですが、とりあえず我輩にはこれがありますからな」
そう言ってキモヲタは、片方の足を持ち上げて、その足裏を揉みました。
「あふん❤」
すると先ほどまで、顔色が悪く疲れた感じだったキモヲタが、一瞬で元気になりました。
「自分に治癒を掛けて回復するでござるよ。なんでしたら、キーラ殿も回復するでござるか?」
「ボ、ボクはいいや! それじゃ上に行ってくる! 客を案内すればいいんだよね!」
そう言うやいなや、キーラは慌てて地下室を後にするのでした。
地上に戻ったキーラは、しばらく周囲をブラブラしながら、時間を潰していましたが、すぐに退屈して、解体場の入り口でジーッと魔物が解体されていく様子を観察していました。
そんなキーラを見て親方が声を掛けます。
「嬢ちゃん、そんなに暇なら解体を手伝ってみるか? 報酬に肉を分けてやるぞ」
「えっ!? いいの!? あっ、でもキモヲタの客がいつ来るかわからないし……」
「大丈夫だ。ここに来る患者は、必ず俺に声を掛けるからな。そしたら案内してやればいい」
「じゃ、じゃぁ手伝うよ!」
こうしてキーラは、親方の手伝いをするようになったのでした。
この魔物解体場での経験が、後々、取り立てて強力なスキルやステータスを持たないキーラを、「解体屋」と呼ばれる強者へと導くことになるとは、そのときのキーラはまだ知る由もありませんでした。
キーラが解体場を手伝っている間、キモヲタは……
「寒っ!」
地下室で寒さに耐えていました。そして――
「あはん❤」
地下室の扉から、定期的に誰得な喘ぎ声が漏れ聞こえてくるのでした。
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