第28話 二次元ロリ紳士教

~ 宿屋 ~


 キモヲタが宿泊している宿の部屋では、キーラがポカンと口を開けていました。


「今日からここがお主の新しい家でござるよ」


「えっ? キモヲタってお金持ちなんじゃなかったの?」


 そう言ってキーラが部屋のあちこちに目を走らせていると、キモヲタが首を捻りながら答えます。


「誰がそんなことを言ったでござるか?」


「えっ? でも奴隷を買うって……それなりにお金がないと出来ないよね。それじゃ、もしかして腕の立つ冒険者だったりするの? それでボクをお供にしようとしてるのかな?」


「白バラ騎士団の隊長を助けた謝礼金が結構な額あったでござるが、お主の購入にほとんど消えてしまったでござるよ」

 

 キーラが自分のフトコロ具合を心配していることに気がついたキモヲタは、彼女を安心させるために付け加えました。


「なに、ここの部屋代はひと月分を払ってござるから、すぐに追い出されるようなことはござらんよ。それに実入りの良い仕事もあるでござるから、心配しなくても大丈夫でござる」


 そこへ宿の主人が、大きな木箱を持って入ってきました。


「キモヲタの旦那、こいつはサービスだ! これをこの子のベッドに使ってくれ」


 そう言って宿の主人は木箱をベッドの横に並べておきました。木箱の中には沢山の藁が敷き詰められています。


 ファサッ。


 宿の主人が木箱にシーツを掛けると、小さな簡易ベッドが出来上がりました。


「デュフフ、ご主人。いつも気を使っていただいてありがとうござるよ。フォカヌポー」


「こっちは十分な宿代も貰って、足裏コーナーで儲けさせてもらってんだ。これくらい何てことねーさ。嬢ちゃんも何か必要なもんがあったら、いつでも声かけてくれよ」


 そう言って笑顔を向けてくる宿の主人にキーラは、


「ど、どうも、ありがとうございます……」


 小声でお礼を言うのでした。


 店の主人が部屋を出て行った後、キモヲタは木箱ベッドに掛けられたシーツを丁寧に整えていました。 


 その日、木箱のベッドで眠ったキーラは、この木箱がどうにも棺桶のように思えて落ち着かず、なかなか寝つくことができなかったのでした。




~ 翌日 ~


 キモヲタはキーラを冒険者ギルドに連れて行くことにしました。


「今日は冒険者ギルドに言って、お主の登録をしてから仕事に取り掛かるでござるよ」


「分かった」

 

 宿屋の前に出た途端、キモヲタは何かから身を隠すように壁に身体をピッタリと寄せ、それから視線をキョロキョロと動かしました。


「キモヲタ、どうしたの!?」


 キモヲタの只ならぬ様子を見たキーラは、何やら危険が迫っていると考えました。耳を澄まし、目を左右に走らせて、周囲を警戒します。


「キーラ殿、この周辺に我輩に向けて殺気を飛ばしている者はござらんか?」


「殺気? ボク以外に?」


「そうでござる……って、なんでお主が殺気を飛ばすでござるか!? お主は奴隷紋があるから、我輩に殺気を飛ばすことはできぬでござろうが! ……で、できないですよね?」


 自分から殺気を向けられているのをキモヲタが恐れていることを知ったキーラは、何だか満足して、少しキモヲタの言うことを聞いてやろうという気持ちになりました。


「ちょっと待って……」


 キーラは、耳をピクピクと動かし、鼻をスンスンさせて、周囲の存在を感知しようとしました。特にスキルを持っているわけではありませんが、犬耳族は、人間よりは遥かに高い感知能力を持っているのです。


「うーん。この近くに、キモヲタに関心を向けている奴はいないかな」


「そうでござるか! では安心して冒険者ギルドへイザ!!」


 そう言って歩き始めたキモヲタの後を追いかけながら、キーラはキモヲタに尋ねました。


「もしかしてキモヲタって誰かに狙われてるの?」


 キモヲタは顔を上に向け、唇を尖らせ、しかめっ面で頷きます。


「我輩に恩を受けておきながら、逆恨みしている奴らが幾人かおりましてな。ときおり、剣を振り回して追い駆けてくるような狂人もいたりしますぞ」


「逆恨み……」 


 キーラは、自分自身がキモヲタのことを誤解して憎んでいたということもあって、大体の事情を察することができました。


「それって、キモヲタに治療してもらった人たちだったりする?」


 キモヲタはハッと立ち止まって、驚いた顔でキーラを見つめます。


「よく分かったござるな! その通りでござるよ! 折角、我輩が怪我を治療してやったというのに……まぁ、気持ちが分からなくはないではござるが、それにしても剣を振りかざして追い駆け来るのはやり過ぎでござろう!」


 キーラは、キモヲタが自分が恨まれる理由を理解していることを知って、少し安心しました。それと同時に、キモヲタと一緒にいる自分も危険な目に遭うのでは? という不安が頭をよぎるのでした。


 そんなキーラの不安を察したのか、キモヲタはキーラを安心させるようとニチャっと微笑みます。


「まぁ、そう言ったバカな連中が襲ってきても、全て我輩が返り討ちにするでござる。キーラ殿は心配しなくて大丈夫ですぞ。あっ、ただ銀髪のエルフ女だけは要注意ですな。そ奴は鬼の形相で、壁も屋根も軽く飛び越えてくるので怖いのでござるよ」


 まったく安心できないキーラなのでした。


 その後、冒険者ギルドで登録を済ませたキーラは、適正試験の結果を見て、レンジャーのクラスを選択します。


「ところでキモヲタのクラスは何なの?」


 キーラが自分に関心を持ってくれたのが嬉しかったキモヲタは、ニチャリとした笑顔で答えます。


「デュフフ。我輩でござるか? 僧侶でござるよ」


「僧侶って、どうして!?」


 てっきりキモヲタのクラスを治癒師だと思っていたキーラは、驚いてキモヲタを見上げました。


「僧侶も治癒を行うのでござるよ。治癒師との違いは大雑把に言えば、信仰を持っているかどうかでござるな。ちなみに我輩、治癒師クラスは余裕で選択できたのでござるが、ぜひともこの異世界に二次元ロリ紳士教を布教したくて、僧侶クラスにしたのでござるよ」


 キーラは、キモヲタが何を言っているのかさっぱり分かりませんでしたが、禄でもないことを言っていることだけは、確信を持って分かりました。


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