第26話 聖女ならぬ聖男!? そんなのお断りでござるよ!

「まったく! 朝っぱらから騒いでんじゃねーよっ!」


 早朝、キモヲタとキーラの様子を見に来た衛士は、いきなり二人からの大絶叫を浴びせされて、もう少しでひっくり返るところでした。


 ビビッてちょっとだけお漏らししてしまっていたので、それを誤魔化す分も含めて、衛士は腹を立てていたのです。


「ももも、申し訳ないでござる!」

 

 バッと振り返りつつ土下座を決めたキモヲタに、さらなる説教をくらわしてやろうと意気込んだ衛士は、その背後にいるキーラの姿に目を止めます。


 素っ裸のキーラは、毛布を胸元に引き寄せて身を縮めていました。


「お、お前……まさか、こんな小さな子に手を出し……」


 そこまで言って、衛士は口をつぐみます。


 衛士の目は大きく見開かれ、指先をキーラに向けて震え出しました。


「お、おい……その子……お、お前がヤッたのか!?」


「失敬な! いくら我輩が万年童貞でも、まだ毛も生えてないようなロリに手を出しませんぞ! イエス・ロリータ・ノータッチ! この高貴な信念こそが我輩の……」


 と、そこまで言ってキモヲタは、昨晩、自分がキーラの身体を全身くまなく拭っていることを思い出しました。

 

 なんなら、お漏らししていたキーラの足をパッと開いて、パフパフって拭いて、それから指でクニッと開いて、ちょちょと拭ったところまで思い出したのでした。


「おうふっ……」


 キモヲタが土下座のまま、頭を地面に打ち付け始めました。


「い、いや、あれは緊急事態でござったし、あのときの我輩には邪な心は一切なかったでござる。あくまで治癒の範囲、セーフ、セーフでござる! そう、イェス・ロリータ・ノータッチはまだ健在でござる! 我は紳士なり! 故にロリに触れず、ロリを汚さず、ただ心で愛でるのみ……我は紳士なり、故にロリに触れず、ロリを汚さず、ただ心で愛でるのみ……」


 意味不明なことをブツブツ言いながら自分の殻にこもるキモヲタでした。


 しかし、衛士が震えているキモヲタに尋ねていたのは、キモヲタの事案を通報するかどうかではなく、全く別のことでした。


「お、お前が、あの子の耳を治しちまったってのか……」


 衛士は、キーラの頭に犬耳族本来の耳が再生しているのを見て、驚いていたのです。


「えっ? はっ!? あっ、そ、そうでござる。昨晩、このお漏らしっ娘を治癒したのでござるよ」


 衛士に通報の意志がないことを感じ取ったキモヲタは、顔をバッと上げて衛士に答えます。


「こ、これはトンデモねぇことだぜ。お前、そんな間の抜けた顔で……事態を理解しているのか?」


「は、はぁ? まぁ我輩ときたら? 治癒に関しては? それなりに自信はあります故?」


 キモヲタの無邪気な態度を見た、衛士は額に手を当てて首を振ります。


「まったく、お前が全く分かってねぇことは分かったよ。お前がやったことは、聖女様にでさえ難しいと云われている再生なんだよ」


「それがどうしたのでござる? 我輩、冒険者パーティーでエルフや僧侶のヒールで、傷が塞がっていくのを何度も見てござるが?」


「欠損した部位を再生させるのは、そんなのとは次元が違うんだよ! 何言ってんだ!?」


 キモヲタの言葉を聞いた衛士は、アホを見るかのような目をキモヲタに向けて怒鳴りました。


「確かに凄いとは思うでござるが……もしかして、我輩やっちゃったでござるか?」


 もしかすると自分に与えられたスキルは、本当に本当のチート能力かもしれないと思ったキモヲタは、嬉しさのあまり思わずニチャリとした笑顔を衛士に向けるのでした。


「お前はアホなのか!? そんな力があることが王族貴族にでも知られたら、ただじゃ済まないんだぞ! それよりもなによりもまずお前は皇帝セイジューが既に倒されていたことを、地面に頭をめり込ませてラーナリア女神に感謝するんだな! もし皇帝が生きているうちにその力が知られていたら、大陸中の妖異がお前にけしかけられていただろうぜ!」


「なっ!? まさかそれほどまでのことには……」

 

 驚愕してアワアワ何かを言いかけたキモヲタを遮って、衛士が怒鳴り続けます。


「それほどのことなんだよ! 実際、皇帝セイジューはドランの大戦で右腕を失っていたんだぜ? 俺が皇帝なら血眼になってお前を探すと思うね! それで掴まえたら、その足を切り落として逃げられないようにして、死ぬまで治癒させるかもな!」


「ひぃいいいいい」


「幸いもう皇帝はいない。だが奴と同じくらい野望に燃える王侯貴族はいくらでもいる。お前のことを知った奴らが、皇帝と同じことを考えないと思うか? それとも何か? お前はそんな権力や軍勢を跳ね返すくらいの力を持っているのか?」


 キモヲタは首を、まるでカンフー映画のようにブンブンと音を立てて左右に振りました。


「わわ我輩、どどどどどどどうしたら良いでござるかぁぁああ!」


 涙を流してしがみ付いてくるキモヲタを押しのけながら、衛士はキーラの方に目を向けます。


「このことを知っている者は? 他にも欠損を治癒したことはあるか?」


「ないでござる!」


 エルミアナの舌を再生していることを、キモヲタ本人は知りません。なので、キモヲタはキーラの耳と尻尾を再生させたのが、初めてのことだと思っていました。


「ならこのことは誰にも言わず黙っておくことだ。もし、今後も欠損再生をするような場合も、誰にも知られないように注意することだな。俺も何も見なかったってことにする」


「衛士殿ぉおおおおおおお!」


 縋りついてくるキモヲタを足で押しのけながら、衛士は続けます。


「だが、それは俺が進んで誰かに話すようなことはしないってだけだ。もし王国から証言を求められたり、怪しい連中に脅されでもしたらさっさと口を割るからな。このことで俺が自分と家族や仲間を危険にさらす気はないってことを忘れるな」

 

「衛士殿ぉおおお! かたじけない! かたじけないでござるぅぅぅぅ!」


「わかった、わかったから、さっさと立て! 俺はただ朝食に呼びに来たんだよ」


 衛士に連れらてキモヲタとキーラは朝食へと向かい、


 その後、朝一番の待合馬車に乗り込んでカリヤットへ戻ったのでした。




※天使の資料

◆ 右腕を失った皇帝セイジュウ

異世界転生ハーレムプラン「第207話 レベルMAX」

https://kakuyomu.jp/works/16816927860409109640/episodes/16817330669371310401

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