第207話 レベルMAX
黒髪黒目の幼女になった悪魔勇者は、俺を見上げて目を見開いたまま、呆然と立ち尽くしている。
「なっ!?」
だがライラを殺したこいつは、いくらその姿が幼女と変わろうが、俺の目には悪魔勇者そのものとしか映らなかった。
「よくも! ライラを!」
俺は悪魔勇者(幼女)に渾身の蹴りを叩き込む。
「ぐはっ!?」
ゴロゴロと悪魔勇者(幼女)が後方に転がっていった。
「よくも! よくも!」
俺は、その頭を踏み潰すつもりで、悪魔勇者に駆け寄る。
だがそれより先に、悪魔勇者の近くに纏わりついている黒い影たちが、俺と悪魔勇者の間に割り込んできた。
「ぐぬぉおおおお!」
沢山の黒い影が、悪魔勇者を中心にして円陣を組む。
俺は、黒い影たちを目の前にして、その暗い闇のなかに人面があることに気がついた。
黒い影たちの顔をよく見ると、いずれも苦悶に歪む人間の顔のようだった。その恐ろしくも悲し気な顔が、俺に向けられている。
心底……ゾッとした。
「ぐぬぉおおおお!」
俺の正面に立っている黒い影が、咆哮を上げて襲い掛かってくる。
「【幼女化ドーム】!」
ほぼ脊髄反射で俺は【幼女化】を発動する。
ブフォン!
ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!
ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!
黒い影が12人の幼女と化した。
「おっ? おおぉ!?」
悪魔勇者が驚愕の声を上げる。
そうだった!
ライラの仇はまだ死んでない!
俺は視界の端で、魔族兵の槍が転がっているのを見つけると、それを手に取り――
「死ね!」
悪魔勇者に向って投げつけた。
俺のヘボ投擲スキルでは、槍が悪魔勇者の心臓を貫くことはなかった。
だが投擲した槍は、悪魔勇者の右ひじに命中した。
悪魔勇者の前腕がボトリッと音を立てて地面に落ちる。
「ぐあぁあああ!」
悪魔勇者は悲鳴を上げて地面をのたうち回った。
そこへ12人の幼女が一斉に――
悪魔勇者に襲い掛かった。
黒い影だった幼女たちは、悪魔勇者に掴みかかり、その顔を殴り、身体を蹴り、ツバを吐き、あらゆる憎悪をぶつけている。
俺は一体何が起こっているのか分からず、ただただ呆然としていた。
「お前! お前のせいで! 俺は!」
「うぎぃぃぃぃぃ! 熱い! 熱い! 熱いよぉおお!」
「電車にガソリンなんか持ち込みやがって!!」
「わたしには病気の息子がいたの! あの子の面倒は誰が見るって言うの!」
「今日、帰るって言ったんだ! あいつに帰るって言ったんだ! それをお前は!」
「許さない……許さない……許さない許さない許さない許さない!」
「死ねっ! 死んで地獄に落ちろ! 落ちろ! 落ちろ!」
幼女たちが悪魔勇者に対し激しい怒りと罵詈雑言が投げつけていた。
「どうしてだ! どうして俺だけじゃなく妻を巻き込んだ!」
幼女の一人がそう叫ぶのを聞いて、俺はハッと自分を取り戻す。
そうだ! ライラ!
ライラはどこだ!?
【索敵】マップに、青いハートマーカーは映っていなかった。
悪魔勇者を追って、かなりの時間、俺は戦場を駆けまわっていた。
今となっては、ライラが殺された場所がわからない。
いや! 待て! 俺!
俺はライラを……
黒い剣で貫かれ、地面に崩れ落ちたライラを【幼女化】した……したか?
したか?
どうだった!?
分からない……。
分からない!
少なくとも【索敵】マップに映る赤マーカーは全て幼女にした。
それだけは確信を持っている。
【幼女化ドーム】を使ったときに、その中にライラが入っていたとしたら?
いや入ってなかったら……。
いや! 待て! 俺!
黒の剣は、ライラの身体を貫いた。
それはお腹……だったような気がする。
賢者の石だってあるんだ。ならライラはまだ辛うじて生きているかもしれない。
いま【幼女化】すれば、とりあえず命は助けられる。
はずだ!
はずだ!
自分自身に何度もそう言い聞かせる。
だから! 一刻も早くライラを探して【幼女化】する!
いや! 待て! 俺!
ライラが見つかるまで探すよりも、この戦場にいる者全てを幼女に変えた方が、手っ取り早くライラを【幼女化】できるはず!
はずだ!
はずだ!
俺は腕を十字に組んで、喉が張り裂けんばかりに絶叫した。
「【幼女化ビィィィィィム】」
ビームを出したまま身体を一回転させると、周囲120メートルにいる全ての兵士が幼女と化した。
既にセイジュウ神聖帝国と人類軍との戦いは混戦に入っており、両者入り乱れて戦いを繰り広げている。そのため【幼女化】は多くの人類軍兵士をも巻き込んでいた。
知ったことか!
「【幼女化ビィィィィィム】」
戦場を駆け回りながら、俺は目に映るあらゆるものを幼女化していった。
途中、幼女となった人類軍の騎兵から馬を借り、俺は一層早いスピードで戦場を駆け回る。
「【幼女化ビィィィィィム】」
「【幼女化ビィィィィィム】」
「【幼女化ビィィィィィム】」
俺が【幼女化ビーム】を放つ度、戦場の景色が白く塗り替えられていった。
もちろんその色の正体は、幼女たちの肌色だ。
「【幼女化ビィィィィィム】」
「【幼女化ビィィィィィム】」
空中にいる何かも、俺に近づいてきた途端、
「【幼女化ドーム】」
幼女となって大地に落下していった。
俺は、神聖帝国軍の天幕を目指して馬を走らせる。
オプション設定の【幼女化】除外リストに追加しているため、乗っている馬は【幼女化】されない。
その間も、俺はずっと【索敵】マップに意識を集中していた。
そこに映っているマーカーに全ての意識を集中している。
ザシュッ!
いきなり矢が馬に突き刺さって、俺は馬から振り落とされる。
索敵マップの端には、赤いマーカーが一つ映っていた。
「【幼女化ドーム】」
ボンッ!
【索敵】マップから赤いマーカーが消滅する。
今や、ヴォルちゃんはいない。
今のように、突然飛んできた矢が俺の命を奪うかもしれない。
だが、そんなの知ったことか!
ライラだ!
ライラのところに辿り着けさえすればいい!
それだけでいい!
どこだライラ!
「【幼女化ビーム】!」
少し走っては【幼女化ビーム】を放つことを繰り返しながら、俺は神聖帝国軍の天幕を目指した。
俺の前に、悪魔勇者が最初に現れた場所。
ライラはその辺りにいるかもしれない。
そして、天幕まで後もう少しというところまで来た時――
「【幼女化ビーム】!」
その直後、脳内にココロチンの叫ぶ声が響いた。
(ココロ:ピロロンッ! ピロロンッです!)
(シリル:田中様のスキルレベルがMAXになりました!)
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