第208話 ライラ

 【幼女化】スキルレベルMAX。


 そのレベルについてエンジェル・キモオタはこう言っていた……らしい。


「これぞ永遠の幼女化エターナルロリータ! 究極のヘヴンスキルですぞ!」


(ココロ:最大効果持続、永遠。魔力デポジット0.5%! リキャスト0.5秒! 幼女化ビーム射程、直進1キロメートル! 範囲発動100メートル! 田中様! これまでと段違いの能力アップです! こうなったら!)


(シリル:そう! こうなったら! さっさと!)


(((ここにいる全員を幼女に!)))

 

 俺と支援精霊たちの息がぴったりと合った瞬間だった。


(ココロ:その方が、ライラさんが助かる可能性が高いはずです!)


「【幼女化ビィィィム!】」


 そのまま、ぐるりと身体を回転させ、俺は周囲1キロメートルの全ての兵士を幼女に変える。


 俺は再び騎兵見つけて馬を奪い……拝借して、戦場を縦横無尽に駆け周る。


 魔力デポジット0.5%、リキャスト0.5秒ということは、もう体力が続く限り延々と【幼女化】し続けることができる。


「【幼女化ビィィィム!】」

「【幼女化ドゥゥゥム!】」

 

 だが【幼女化】で俺の魔力が消費されることはないものの、普通に身体は疲れるし、喉はもうかなり辛い。


 ずっと叫び続けていると、段々と頭がフラフラとしてきた。


 魔力不足などではない。


 単に脳内への酸素供給が少なくなってきているのだ。


 だがここで手を緩めるわけにはいかない。


 ライラが見つからない限り、一刻も早くこの場にいる全員を幼女にしなければ! 今もこのどこかに瀕死のライラがいるのかもしれないんだ!


 一瞬の遅れがライラの命取りになるかもしれない。


 だが、もう喉も体力も限界に来ているのも確かだ。


 もう何度も意識が飛んでは、ココロチンとシリルの声に呼び戻されるということが繰り返されていた。


 マズイ……このままだと完全に意識が落ちてしまう……


 俺は一度馬を止め、深く息を吸った。


 そして、今にも眠りに落ちようとする意識に逆らい、


 全身全霊を込めて叫んだ。


「アルティメットエターナル幼女ぉぉぉぉ!」


 俺の全身から光が広がっていく。


 ビームが全方位に照射され――


 俺の意識は闇の中へ深く沈んで行った。 




~ ヴォルちゃん ~


 夢を……見ていた。


 これが夢なのは何となく分かっていた。


「シンイチさま……フォーシアを介抱したときに、さりげなく胸に触っていましたよね?」


 怒ったライラが焼きごてを手にして近づいてくる。


 そんなの現実であるはずがない。


「い、いやっ、わざとじゃない! わざとじゃないんだ! 身体を動かすときにちょっと指先が当たっただけで、で、ちょっと指が動いただけで! セーフ! セーフ!」


 ライラの顔が俺の目の前に迫る。


 マジ怒っていらっしゃる。


「……」※俺


「……」※ライラ


「……」※俺


「……」※ライラ


「……」※俺


「ギルティ……」※ライラ


 真っ赤な焼きごてが俺の頬に押し当てられた!


「ってか熱っ! 熱っ!」


 ジュッ!


 頬に強烈な熱を感じて、俺は目覚めた。


 俺は馬上にいた。


 そして、目の前には大事な仲間の姿があった。


「ヴォルちゃん! 生きてた!?」


 悪魔勇者の黒い剣で切られて、てっきり死んでしまった思っていたヴォルちゃんが生きていた。


 一回り小さくなって、動きも弱々しかったものの、目の前に顕現したヴォルちゃんは、確かに生きて俺の目の前にいる。


 ピュイッ!


 ヴォルちゃんは小さな前足を上げて、俺に挨拶するとそのまま姿を消してしまった。


 精霊の顕現は力の消費が激しいということだったので、とりあえず俺に無事を知らせるために姿を見せてくれたのだろう。


 頬がヒリヒリするが、おかげで眠気も疲れもすっかりと吹き飛んでしまった。


「それにしても、俺はどれくらい意識を失ってたんだろ」


(ココロ:だいたい30分くらいです)


(シリル:その間、先程の火の精霊さんが、馬のお尻を焼いて誘導していたようです)


(誘導? どこに?)


(シリル:わかりません。もしかすると近づいてくる幼女たちから遠ざけていただけなのかも)


 俺は幼女を避けて馬を勧めながら、戦場を見渡す。


 広大なドラン平原の一面が幼女で埋め尽くされていた。


 この中からライラを探すのか。


 神聖帝国軍の天幕に目を向けると、天幕は炎上していた。

 

 悪魔勇者はどうなったのだろうか。


 あのまま死んでくれていればいいんだけど。


 陽がだんだんと傾き始めている。


 夜になる前に何としてもライラを見つけなければ。


 その時、天幕の方向から何かが輝くのが視界に入った。


 青い光は、一度、激しい光を周囲に放った後、すぐに消えてしまった。


 すぐに馬を返して、俺はその光が放たれた場所に向う。


 全速力で向う。


 あの青い光を知っている!


 俺は知ってる!


 あれはルカがドラゴンに戻るとき、ドラゴンからルカに戻るときに放たれる光!

 

 賢者の石がその力を発するときに生じる光!


 ライラの右目!


 シャイニング・アイ!


 ライラの光だ!


「ライラァァァァアア!」


 絶叫しつつ、俺は馬を全力で駆り続ける。


「……さま」


 光のあった場所に近づくと、ライラの声が聞こえる気がする。


「……チさま」

 

 近づくほど、それは確信に変わる!


「ライラァァァァアア!」


 俺の声に答えるかのように、横たわる幼女たちの中から、


「シンイチさま!」

 

 ライラが俺を呼ぶ声が聞こえる!


 俺は馬から飛び降り、その声の下へと駆け寄っていく。


「ライラ!」


 ライラが立っていた。


 ライラが生きていた!


「シンイチさま!」


 ライラが俺を呼んでいた!

 

 ライラが俺を見上げていた。


「シンイチさまっ!」


 俺はライラに全力で駆け寄って、ライラを抱き上げ――


 その小さな体を抱き締める。


 ライラは――


 幼女になっていた。

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