第209話 反省した後は……
ライラが生きていた!
幼女になったライラを、俺は力いっぱい胸に抱きしめる。
ライラの温もりを、柔らかさを、匂いを、息遣いを、全身と全霊が納得するまで離せそうにない。
「シンイチさま……く、苦しいです……」
「ご、ごめん!」
ライラに言われてようやく俺は腕の力を緩め、改めてライラの顔を見る。
幼女になっているが確かにライラだ。
右目には刀傷が残っていて、美しいターコイズブルーの美しい瞳は左より少し明るい。
これは元の種族や身体的特徴を残す【幼女化】の仕様だろう。
つまり、この幼女は間違いなくライラだということでもある。
「よく無事だったね! よかった! 本当に良かった!」
「はい……シンイチさまもご無事でなによりです」
今度は優しくライラを抱きしめる。
今も戦場を幼女たちが駆け回る中、俺とライラの時間だけが止まった。
「とりあえず戦場から離れよう」
俺はライラを馬に乗せて、戦場の中を進んで行く。
途中、ライラから色々と事情を聞いた。
悪魔勇者の黒い剣で貫かれ、地面に落とされたライラは、自分の命が失われていくのを感じながら意識を落として行ったらしい。
「最後に青い光が見えました。きっとシンイチさまが私のために戦ってくださってるんだと思って、私はとても幸せでした。この幸せの中で死ねるなら、ちょっといいかなって……」
確かにあの時、俺は【幼女化ビーム】をやたら滅法に放っていた。
だが【幼女化ビーム】の色は白だ。
青い光ではない。
今度、ビームの色も変えられるようスキル開発部の皆さんにちょっとお願いしてみようかな。
今はそういうことを考えている場合じゃないな。
ライラが見たという青い光は、おそらく俺がライラを発見する前に見た光と同じものだ。
つまりその光は、賢者の石がライラを治癒するために力を発動したときのものだろう。
「賢者の石が……ライラを守ってくれたんだね」
俺が、後ろからライラの頭を優しく撫でながらそう言うと、彼女は振り返って素敵な笑顔を見せて、コクンと頷いた。
「って、ちょっと待って! 俺がライラを見つけたのは青い光を見たからなんだけど、怪我してたの!?」
「はい! 周りが敵ばかりだったので戦ってました! でも相手は子供だったので、よゆーでしたよ!」
怪我してんじゃん!
幼女になった魔族兵たちはお互いに声を掛け合って、名前や所属を確認することで敵味方の区別を始めたらしい。そしてライラが倒れていたのは、敵陣の奥の奥だ。
人間であることがバレてしまったライラは、戦って、逃げて、また幼女の中に紛れて、バレて、戦って、逃げて……ということを繰り返していたらしい。
「何度か傷を負いましたが、気がつくと身体が治ってました」
ふむ。賢者の石は、【幼女化】の後でもその力を失っていないということらしい。まぁ賢者の石自体は、ライラの右目に埋め込まれているとはいえ、ライラ自身ではないからな。
そうすると、入れ歯のおじいちゃんを【幼女化】したらどうなるんだろう。【幼女化】って意外に奥が深いな。
「……それで油断して、背後から斬られてしまって」
「心臓にペースメーカーとか入ってたらどうなるん……って、えぇぇぇ斬られたぁ!?」
「はい。あっ、斬った敵には倍返ししたのですが、私も倒れてしまって……それで気がついたら、シンイチさまが助けに来てくださって……」
俺が見た青い光は、賢者の石がライラの背中の傷を治癒しているときのものだったのか。
あっけらかんとライラが話すのでスルーしかけたが、ライラが何度も命を落としかけていたのが分かって、俺の背筋に冷たいものが走った。
結果的に、悪魔勇者に刺されたライラが倒れたときに、俺がブチ切れて乱発した【幼女化】でライラは幼女になっていた。
だとしたら……
まぁ……その……
なんだ……
俺はドラン大平原をぐるりと見回した。
人類軍とセイジュウ神聖帝国軍が双方の命運を賭けた大会戦。
恐らく大陸の歴史に刻まれるに違いない戦いの場。
それが白一色……正確には明るい肌色に染め上がっている状況を見た。
戦場が言葉通り無数の幼女で入り乱れていた。
まぁ……その……
なんだ……
悪魔勇者にブチ切れず、もう少し冷静さを保っていれば、ライラが幼女になったことには気づけたはずだ。
うん。
たられば、たられば。
うん。
まぁ、その……
ここまでしなくても良かったかなぁ……とは思ってる。
まぁ……その……
なんだ……
反省してる。
すまん! 人類軍!
暗くなってきた戦場に向けて、俺は両手を合わせて頭を下げた。
神聖帝国軍はザマァなので謝らん!
よし反省はした。
反省が終わったら、次にすることは……
「シンイチさま?」
「よし! ライラ! ここから逃げるぞ!」
「はい!」
申し訳ございませんが、わたくし共はこれで――
トンズラさせていただきます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます