第210話 幼女化解除

「シンイチさま、このまま行かれるのですか?」


 俺が幼女で埋め尽くされた戦場をそのままにして、トンズラすることを決断したとき、ライラが振り返ってそう言った。


「うっ!?」


 さっきのライラの発言が、俺の決断を批判するものでないのは分かってる。


 ただ純粋に、ただ俺の行動を確認しただけの言葉だということを知っている。


 だが反省直後の俺の胸には、ライラの言葉がグサリと突き刺さった。


「さ、さすがにこのままってのはマズイよなぁ……」


「?」


 独り言をつぶやく俺の顔をキョトンと小首を傾げるライラ。


 このロリライラ! 超カワイイんですけど! お持ち帰りしたい! というかするけど!


 そんな感動に浸りながら、ライラをジッと見つめる。

 

 ニコッ!


 ふぉおおおおおおおお! ロリカワエェェェェ!


 ライラの笑顔に心を完璧に浄化されてしまった俺は、この幼女で埋め尽くされた戦場を元に戻すことに決めた。


 ハァ……。


 戦場を幼女の遺体で溢れさせるのは、精神上よろしくない。

 

 かなり手遅れな部分もあるが、今は【幼女化解除】が使えることだし、頑張って戻してみよう。


 ライラの幼女化を解除する前の実験にもなるし。


「よし、【幼女化】を解除しよう! ただし人類軍だけだ! 神聖帝国軍は知らん! ライラを傷つけた悪魔勇者が悪い! 幼女のまま勝手に死ね!」


 そして俺は、幼女溢れる戦場を駆け巡って【幼女化解除ビーム】を放っていった。


 ただしそれは、主に戦場の東と南方面だけ。


 両軍がぶつかっている最前線より、やや神聖帝国軍側に入ったところから解除していったので、かなりの魔族軍も元の姿に戻っていた。


 だが全体からすれば数少なく、その上、神聖帝国軍自体が徹底を始めていたため、人類軍にどんどん押されていった。


 幼女化が解除された中に大型妖異もいたが、それらについては都度【幼女化ビーム】(継続時間1秒)で屠っていく。


 夜空に双月が輝く頃には、人類軍はほぼ全員が元の姿を取り戻していた。


 幼女になった後に、この戦場から離脱したものを除けば幼女化は解除されているはずだ。


 一通りの仕事を終えた俺は、ドラン大平原の北の丘陵に移動し、その頂上から戦場を見下ろしていた。


「うん。やるだけのことはやったので、よしとしよう」


 吹き付ける夜風を頬に感じつつ、俺は思った。


 もしかしたら、この戦場の生き残りに「幼女化したのはお前か」って逆ギレされて、刺されるかもしれない。


 なので今後も【幼女化】スキルについては、なるべく黙っておくことにしよう。グレイベア村に戻ったら、皆には何よりも先にそのことをお願いしないとな。


 戦場で凄く注目を浴びていた気もするが、灰色ローブ被ってたし……うん、顔は覚えられない! たぶん! きっと! お願い忘れて! 


 とにかく【幼女化】スキルは隠す方向で!


 そう心に固く誓った

 

 心に誓ったらスッキリしたので、俺は丘陵の木陰で野営を張って休むことにした。


 そして落ち着いた頃を見計らって、ライラに声を掛ける。


「さてと、それじゃライラ、そろそろ元の姿に戻すよ?」


「はい。お願いします」


「うーん、もうちょっと小さいライラを見てたいけど……【幼女化解除】!」


 ポンッ!


 ライラが元の姿に戻った。


 戻った途端……


「うぐっ!?」


 ライラがお腹を押さえて地面にしゃがみ込む。

 

「ライラ!? どうしたの!?」


「わ……分かりません……ううぅぅう」


 そのままライラが地面に倒れ込んでしまった。


「なっ!? ライラ! ライラ!」

  

 ライラの呼吸が段々激しくなる。


「ぐぐぅぅぅぅぅう!」


 呻き声が叫び声へと変わった瞬間、

  

 ピカァァァ!


 ライラの右目から強烈な青い光が放たれた。


 シュウゥゥ!


 ライラの腹部から黒煙のようなものが立ち昇る

 

 そしてライラは意識を失った。




~ お腹の痣 ~


 眠っているライラの身体を確認すると、彼女の腹部に手のひらを押し当てたような黒い痣が出来ていた。

 

 痣の中心は、さらに黒くなっていて、小さな穴が空いている。


「こ、これは一体……」


 彼女のお腹にこんな傷がある心当たりと言えば、悪魔勇者の黒い剣で刺されたことしか思い浮かばない。

 

 さっきの青い光は、賢者の石の力が発動した際に発せられるものだ。


 ということは、賢者の石の力を以てしても直せていない傷ということになる。


 悪魔勇者のあの黒い剣……


 強力な呪いかそれに類するような力を持っていたのかもしれない。


 じっとライラの傷を見ていると、恐ろしいことに気が付いてしまった。


「傷が……拡がってる!?」


 最初は目の錯覚かと疑った。


 だが……そうではなかった。


 その後、ライラは意識を取り戻した。


 だが5分もしないうちに彼女は苦しみ始め、また青い光が出て、そして意識を失った。


 傷を確認すると、先程より明らかに拡がっている。


「【幼女化】(効果時間:エターナル)」


 俺は急いでライラを幼女化した。


 さらに俺は設定オプションで、ライラを幼女化解除の除外リストに登録する。


 少なくとも幼女の間、彼女の傷は進行していなかった。


 絶対にそうだとは言い切れないが、少なくとも【幼女化】は今手の内にある最大最良のカードであることは間違いない。


「シンイチさま?」


 幼女ライラは、まったくもって普通に元気で、そして可愛かった。


 バッと俺はライラを胸に抱きしめる。


「ライラ、大丈夫? どこか痛かったりしない? お腹とか痛くない?」


「だ、大丈夫です。でも、少し腕の力を緩めていただけると……」


「ご、ごめん」


 俺はライラの両肩に手を置いて、彼女をじっと見つめた。


 とりあえず、幼女ライラは大丈夫。


 幼女化している間は大丈夫。


 大丈夫。


 そう自分に言い聞かせるまで、


 自分が信じ切れるまで、


 俺はただライラを見つめることしかできなかった。


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